Hints

私達が設計をはじめるとき、出発点とするいくつかの考え方が有ります。

常識的なものも多く、また、非常に専門的な事柄も有ります。

それらのうち、いくつかのものは、やや逆説的ながら、大切な内容を含んでいます。

ぜひ参考にしてみてください。

きっと、良い建築に結びつくはずです。

 

 

 


常に新しいプログラムを考える〜nLDKタイプの間取りから出発しない。
住宅に対する考え方、住まい方は、人々の生活スタイルの多様化にともなってどんどん変化します。ところが多くの住宅の設計は、LDKといくつかの個室を間取りして敷地のなかに配置する、というものが多く、この考え方はもう20年も変わっていません。「LDKと個室(子供部屋等)」というつくりの家は、学齢期の子供がいる時期の核家族の生活には良く合います。でも、価値観や仕事の仕方、家を建てる年齢層も、立地も多様な今の時代には、家のつくり(プログラム)そのものに、もっともっとバリエーションがあって良いはずです。
住み手から本当に望まれ、永く住み続けられる新しいプログラムと空間を住み手とともに模索し、生み出して行く、これが私たちの考える住宅づくりの出発点です。
(Hints)


敷地の北側に寄せて家を建てればうまくいくとは限らない。
通常の戸建住宅では家の南側が庭になります。また、家の中では、居間や食堂、個室などを南に向け、大きな窓を設けるのが通常です。では、もし南側に十分な庭が取れないときはどうなるでしょうか。南の大きな窓の目の前に、隣の家の壁があって十分な光が取れず、隣の家の窓の位置関係によっては、せっかくつくった窓もカーテンを引きっぱなし、ということになってしまいます。つまり、主要な部屋を南に向けて大きな窓をつくる、という考え方は、建物の南側の空間が空いているとき、初めて成立するわけです。このように、敷地の中での建物の配置と内部のつくりは別物ではなく、深い関連の上に成り立っているのです。
一戸建て住宅地として開発され、分譲された土地は、建物の配置と内部のつくりに、このような通常の考え方をしやすいように敷地の区画形状が作られています。そして典型的な「南向住宅」が数多く建っているため、「南向き住宅」(=敷地の北側に寄せて建てる家)が考え方の出発点であるように思われてしまうのです。が、これを少し柔軟に考えるだけで、家づくりの幅はぐっと広がります。
(Hints)

敷地の南一杯まで建物を配置した例。南北方向に長い敷地では、このようにしないと収まらないことがある。どうせ南側がほとんど空かないなら、と思い切って南側に水廻りを設けて、隣家との緩衝部分をつくっている。
それでも、メインの生活空間には光や風が豊かに通り、広がり感がもたらされている。


全部の部屋を南に向けようとはしない。
住宅では南側に居室を、北側に階段、廊下等を配するのが一般的な考え方でしょう。家の中で個室(居室)を主たる生活空間としてとらえ、優れた環境が期待できる場所にこのような大事な場所をあてがいながら、効率よく機能的に全体を構成して行く、という考えかたです。この結果、LDKと個室がそれぞれ南側に、廊下や洗面所、浴室などが北側に、おのおの「陣取り」のようにまとめられるわけです。これは、旧来の日本の家屋のつくり・・・南に縁側(廊下)を設け、その北側に和室を続間形式で配置する・・・、という発想を逆転させ、各室の独立性と居住性を著しく高める効果が有りました。一方この考え方は、家の中を、主たる生活空間と、それをバックアップする機能空間、という具合に二分して考え、合理的にスペースを南と北に分けたわけですから、北半分の部分は、機能的なスペースとして割り切ってしまい、居住性には目をつむった格好になっているわけです。
ところが、私が今までに見てきた数多くの例では、住宅の魅力(住み心地)は、意外に「部屋」ではない部分、つまり廊下や階段などの雰囲気や居住性によって大きく変わってくるのです。「そんな、広さにゆとりがある場合ばかりとは限らないよ」、とお思いの方も多いはず。でも、ゆとりが無いときにこそ、この考え方が有効なのです。考えてみれば、個室は昼間は空室であるケースが多く、何がなんでも南に向いてなければ困る、ということは有りません。廊下や階段などのいわゆる「つなぎの場所」や、浴室、ユーティリティなどを南側にもってくることによって、空間の豊かさや環境性能を大きく向上させるケースがある事を、覚えておいて決して損は有りません。
(Hints)
部屋を”閉じた箱”にしない。
家の空間=箱(部屋)の集まり、として考える方は案外多いのではないでしょうか。小さな箱(部屋)がいくつか集まって、大きな箱、家が出来上がる、という具合に・・・。あるいは、大きな箱に仕切りを作って個室やお風呂場などに分けて行く、という感じかも知れません。いずれにしても、家の中に必要ないくつかのスペースを、それぞれ独立性を持たせた場所にする、という考え方が根底にあるわけです。そしてそれぞれの場所に、部屋としての高い独立性を持たせた場合、家のなかの印象は「小さな箱の集まり」、という雰囲気になります。部屋の広さは知れていますから、すべての部屋の独立性を高くしすぎると、家全体の大きさとか、空間の豊かさ、といったものが実感されにくくなるわけです。そこで、「この部屋には果たしてどのくらいの独立性が必要だろうか?」と、一部屋一部屋考えてみましょう。完全に独立していなければならない、という部屋は、風呂場やトイレなど、限られているはずです。それ以外は、例えば壁の高いところでは隣とつながっていても良いかも知れないし、あるいは、大部屋の中にいくつかのコーナーを設ければ事足りるかも知れません。これは部屋の用途や、使う人の年齢、家族の構成によって色々な結果が出てくる話で、家の個性はここに一番あらわれる、と言っても良いくらいです。つまり、「部屋にどのらい独立性が欲しいか」を考えることから出発すると、家全体に空間の豊かさ、個性などが現れてくるのです。
(Hints)

二つの部屋を斜めにつなげ、さらに屋外(中庭)を介してもつながるようにした。一つの部屋で完結せずに奥まで見通すことが出来、変化があって良い。屋外とのつながりも豊かになる。

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−−例えば高齢者住宅の場合−−
住宅のバリアフリーに対する関心の高まりとともに、廊下の幅の確保や手すりの設置、段差の解消など、住みよい家のための様々な規格が設けられてきました。しかし、いわゆる「バリアフリー住宅」を見ると、これらの数値規格に適合させることに関心が集中し、住宅としてもっと大切なことがおろそかにされている感があります。もっと大切なこと、それは人間に一番大切な「積極性」を、いつまでも持ち続けられるような工夫をすることです。
現実的には多くの高齢者は元気、そして活動的で、ゆとりある時間を自分のために自由に使い、生きがいを追求しつづけるものであるはずです。ならば、ずっと元気でいられるような魅力的で楽しい家、満足を毎日積み重ねられるような家こそが、「高齢者住宅」の基本となるでしょう。時間の流れや季節の変化、自然の空気を居ながらにして感じ取ることが出来る、好きなことに熱中しながら毎日を積極的に過ごせる、そのためには、音楽や読書、料理、工作、ストレッチなど、趣味や興味に応じて様々なシーンを思い描き、毎日をどのように過ごしたいか、自然とどのように関わりあって生活して行くか、といった考えがしっかりと建築空間に具体化されていることが大事なのです。
もちろんこれらのことは高齢者住宅に限っての話ではありませんが、例えば防音措置された音楽の部屋や、プロ顔負けの料理好きでも満足の行くキッチン、南の庭に面した明るい浴室、北側に大きく開いた景色の好い窓がある落ち着いた読書室、どれも、子育てをしている核家族住宅には取り入れにくいものばかりでした。また、高齢者の家では、普段生活する部屋に直接サニタリーが面していると便利なのですが、これも シニア住宅以外の生活感情からは受け入れられにくいものです。
このように考えて行くと、「高齢者むけ住宅だからこそ実現できる面白さ」が、沢山あることが分かります。これらをどんどん盛り込んで 、「元気さと積極性」を持ち続けながら生活できる、シニアならではの家をつくること、これこそが高齢化社会における住宅設計の、最も大事なことなのです。
(Hints)

...つづく...