メーカーの場合、営業範囲は日本全国に広がることが多いため、各種のデータを収集・分析して地域ごとの違いを見極めた対応が必要です。ところが、小売店はもともと地域に根ざし、そこにどっぷり漬かって商売をしています。自分たちの地域は自分たちが一番よく知っているという自負もあります。
だからといって、自店とは違うエリアの店と比較することはほとんどないでしょう。「肌では感じているが、具体的数字ではうまく捉えられていない。」それが小売業のエリアマーケティングの実態です。
ここでは2つのことを提案しました。
1.自店の正確なシェアをつかみ方と見方。
2.競合店を意識した自店戦略の立て方。
「地域に合わせることがエリアマーケティングの基本」という考え方もあると思います。それは間違いではないと思いますが、同じエリアに立地している店がみんな地域に合わせた品揃えと売り方をしたのでは、競合店と何ら違わない結果になってしまいます。
小売店のエリアマーケティングで重要なことは、地域性を意識しつつも自店の独自性を打ち出すことです。店舗が小さいからといってあきらめず、「小さくても一番の品揃え、売り方」を目指し、その結果として地域で存在感のあるお店になりたいものです。


もう一つの見方は、自店と競合店との関係です。(下図を参照)
自店の規模が近くにある競合店よりも小さいとはいえ、そこそこの規模がある場合は自店の品揃えを見直し、自店の特徴を打ち出す必要があります。(=異業種化戦略)
これは有楽町のそごう(百貨店)がビックPカン(家電店)に変わったのを見れば分かるでしょう。
15000uでは百貨店として銀座で優位に立てませんが、家電店ならトップになれるのです。
自店の規模が近くの競合店と比べて圧倒的に小さい場合、品揃えの特徴を打ち出しても同じ土俵で戦っていては相手になりません。そのときは、売り方にも独自の特徴を打ち出す必要があります。(=異業態化戦略)
これは大型食品スーパーのすぐ近くでもコンビニが成り立っているということです。
競合店があっても、それが距離的に遠い場合、自店がそこそこの規模ならば独自の商圏を確立する方策を考える必要があります。(=独自商圏確立戦略)
これは駅前の大規模総合スーパーに対し、郊外に中型スーパーを出すケースです。
競合店が遠いとはいえ、自店の規模も小さければ、とりあえず高頻度商品を扱い、地域密着に努める必要があります。(=地域密着化戦略)
近くに大型店がなければ、そこにお客が集まってくることはほとんどないでしょう。むしろ、地元の人も他に流出してしまいます。ですから、せめて高頻度商品(=最寄り商品)を徹底的に強化し、そこだけは流出をくい止めるしかありません。
エリアマーケティングの目的は地域でのシェアアップです。それなら、最初に知るべきは自店のシェアです。しかし、自店の正確なシェアを捉えているお店はほとんどありません。なぜなら、自店の商圏規模さえ分からないからです。
このように言うと、「自店の商圏規模くらい分かっている」という意見もあるでしょう。でも、それはお店の影響範囲に住んでいるお客さんの人口を数え、それに1人当たりの金額を掛けた金額規模の概算、あるいは当該都市の小売業売上を指している場合がほとんどです。それでは、自店の正確なシェアを出すことはできません。
実は、自店の正確な商圏規模を出す方法はあります。データとしては「商業統計(メッシュデータ)」を使用します。メッシュデータなら、1キロ四方単位での小売業売上が分かります。たとえば、500uくらいの食品スーパーなら、自店を中心に4枚から9枚(つまり2キロ四方から3キロ四方)くらいの範囲で、そこの売上を調べます。これを分母とすると自店のシェアが算出できます。
「何だ、簡単じゃないか」と思われるかも知れません。しかし、「商業統計(メッシュデータ)」を見ると、ところどころのデータが隠されています。秘匿データと言いますが、業種別にお店が2店舗以下のメッシュでは、調査に協力してくれたお店のデータがストレートに出てしまわないようにしているのです。したがって、あなたが食品スーパーだからといって、各メッシュの食品売上を見ようとしても分からない場合が多いのです。
「じぁ、メッシュ毎のトータルの数字でいいや」と思うかも知れません。しかし、この方法はお薦めできません。なぜなら、「商業統計」にはガソリンスタンドやカーディーラーなどの売上も含まれているからです。ガソリンスタンドやカーディーラーは1店あたり平均2億円くらい、中には数十億円の規模も多くありますから、これらの業種が含まれている数字では自店の正確なシェアは出ないのです。
「商業統計(メッシュデータ)」は、それだけを眺めていても商圏の実態は分かりません。各メッシュの全業種計の数字ならば、秘匿データはぐ〜んと少なくなります。しかし、前に書いたように、それにはガソリンスタンドやカーディーラーなどの数字も含まれているので、一般の小売業の実態ではありません。
そこで、大型店データを参照しながら、「商業統計(メッシュデータ)」の中身を吟味する必要が出てきます。お店のある都市の大型店の状況がだいたい分かっているなら、この作業はそれほど難しくはありません。具体的なやり方は、以下のようになります。
〔 「商業統計(メッシュデータ)」の中身を知る方法 〕
1.当該都市に出店している大型店を地図にプロットする。
2.大型店データにメッシュナンバーを付け、それを表計算ソフトで一覧表にする。
3.大型店の一覧表を見ながら、「商業統計(メッシュデータ)」のデータと対応させる。
上記の方法で自店の正確なシェアが分かったら、その数値をどのように解釈すべきでしょうか?単にシェアが高いとか低いと言っても意味がありません。
自店のシェアを分析するときは、その店の立地している商圏の流出入率と合わせて分析する必要があります。下図を見て下さい。たとえ、店舗のシェアが同じように高くても、立地している商圏の流出入率が低い場合(下図のB)と高い場合(下図の@)があります。
@の場合は、流入商圏で自店のシェアが高いので、その地域では「真の王者」といえます。一方、Bの場合は、自店のシェアが高いといっても、立地しているのが流出商圏なので、「裸の王様」ともいえます。

先日、流通業向けの展示会を見に行きました。最新流通テクノロジーとして、サプライチェーンマネジメントと顧客管理システムが2大テーマになってました。「サプライチェーンマネジメントで5%の在庫削減ができる」とか、「3割のお客さんで7割の売上があるので、3割のお客さんの管理が大事です」といった説明です。出展しているコンピュータ会社は、それぞれが導入実績とシステムの使いやすさを訴えていました。
顧客管理の重要性は言うまでもありませんが、顧客管理だけではエリアマーケティングはできません。なぜなら、すべてのお客さんがカードで支払いしているわけではないからです。それでも、カードで買い物をした人の記録は貴重です。そこには「誰が、いつ、どのくらいの頻度で、いくらの価格で、何を買ったか」が克明に記載されているからです。たとえ、購買記録が分かるお客さんはわずかであっても、次につながるデータとして重要です。要するに、顧客管理(One to One marketing)とエリアマーケティングは似ているようでも違うのです。
下図を見て下さい。今、注目されている流通テクノロジーは図の中では横向きの矢印です。仕入先から小売店への管理はサプライチェーンマネジメントです。小売店からお客さんへの流れは顧客管理です。しかし、残念ながら縦の矢印に関する技術、つまり自店を取り巻く商圏について、競合店との戦い方については、誰に聞いても、どこを探しても、明快に答えてくれるものはありません。