駅と色彩







1.

黄色がかったくぐもりを浮かばせた、理科室へと続くわたりろうかで知り合った秋の闇と出会った、あれからずっと目を合わせていなかったというのに、駅の出口、ひさしの向こうに濡らした髪の色がひらめく、わたしは乗り継ぎの切符を買いまちがえる、

2.

帽子をかぶって、うしろすがただけを見せる駅員にかけた、路線の確認のことばは透きとおった羽のような首のうごきではじかれる、蛍光灯の下に立ちお互い同じ方を向いたわたしたちの目は、曇った長細い灯の上で揺れているが、遠い座席に蝙蝠傘を置き忘れたことは思い出したのか、告げられたのか、

3.

プラットホームに降りたくらげたちの色を数える、浅く潜った地下の駅、容赦のない青白い光は多角形に散る、先端をなぞっている夜の秒針のつめたさ、

4.

街の名前にはたどりつけずに、すりぬける、電車が停まりブリキの軸の声が告げるのはいったいどこなのだろうか、と、ホームというむき出しの、かたまった川を踏む、看板には足跡のように心細い影の文字が、去っていった誰かの、ふくらみ続ける輪郭を照らしているが、その上をただ、群青色の色鉛筆で塗っていくように。車窓は涼しくめくれていった、しかし文字の、線のからまるあいだにひそむ、互いに圧しては流れていく水のことを知らなかったわけではもちろんない、削られて匂いをもった色彩の粉末が、あしうらだけを染め上げて、


5.

雀の色がすっかり手のひらに広がってしまった、駅のしなだれた光がこすれてぼんやりと知る。切符にあいた小さな穴から覗いた階段に、そういえば赤インクに指を汚してプラットホームに立っていたこともあったと思い出す、点々と踊る時の染みをみつめるホームのぶっきらぼうな光と、その下での、わたしの息、かたい冬を踏む靴音だけがふりかえる、


6.

ロベルト・シューマンの「狩りの歌」を流す小さな駅舎で、蛍光灯のかわいた光を、浴びる、改札を抜けて、電車を待ちながらしゃべりあい、おどけあう二人の少女の背を見た、柱をいくつか挟んでも聞こえる淡いふるえの声がまどろみを重ねようとする時間を知らぬ風を装い、ききながし、まだ粒子になりきっていない音楽の残響をさぐった、声をくしゃくしゃに丸めてしまう素っ、気ない風が剥がせるわけでもないくせに、わたしの指にしつこくからんで、口を吸いもとめるようにじゃれついた、乾ききって折れる茎のような声などは、ぎらぎらした夜の手に駅の出口でかぶせられるお面をまとった人々よりも美しくはない、と、知った風な声を耳の底にねがう、