<A.D. 2007年7月 私立第三新東京幼稚園 「さくら組」>
「明日は七夕です.みんな,飾り付けをしたり,短冊に願い事を書きましょうね.」
「はーい」×多数
「おーっ!」×多数
水色の制服姿の園児達が元気な声を上げる.第三新東京市内にある私立第三新東京幼稚園「さくら組」では,担任の伊吹マヤが園児達に今日の「日課」を提示していた.明日は土曜日なので幼稚園での七夕飾りも,今日行われることになっていた.
「(せっせ せっせ)」
「マナちゃんは,短冊に何を書くのかな?」
「うんとぉ,マナは・・・しょーらい,おいしゃさんになれますようにってかくの.」
「この前,絵にして描いてくれたもんね.マナちゃん.」
「うん!」
それぞれ思い思いに願い事を短冊に書いている園児達をマヤが見て廻る.「さくら組」のおしゃまな園児,霧島マナはマヤの問いににっこりと答えていた.
「カツヤくんは,なんて書いたの?」
「じょーばいはんじょー.」
「ふーん.難しい言葉,知ってるのね?意味とか分かるの?」
「ううん.よくわかんない.」
「あらら?」
「でも,とーちゃん,かみだなのまえでよくいってるんだぁ.」
「カツヤくんのお家,お店屋さんだもんね.」
言葉の意味が良く分からないまま短冊に書き付ける園児に,マヤは少しばかり苦笑いを浮かべる.それはそれで年相応で微笑ましいものではあるのだが.
「おこづかいがあがりますように.」
「こ,小遣いって,ヨシミツくん.お小遣い,貰ってるの?」
「うん.つきに 1,000えん.」
『・・・こ,小遣い・・・月に千円って・・・幼稚園児には早すぎるし金額も多すぎるわよぉ.』
園児の答えに絶句するマヤ.彼女の持つ「常識」との違いに,マヤは心の中で叫び声を上げていた.
「アヤちゃんは・・・(クスッ)たくさんあるのね?」
「だってぇ,アイスクリームたくさんたべたいでしょ,うみにいきたいでしょ,それにじてんしゃにのれるようにもなりたいしぃ〜・・・・い〜ぱい,いっぱいあるもん!」
「そうなんだ・・・織り姫さん,彦星さんも大変ねえ.」
短冊いっぱいに願い事をつらづらと書き連ねる園児.大人びた子,子供子供している子,それぞれ微妙に個性を表わす子供達に目を丸くしたり微笑んだりしながら,マヤは教室内を順に見て廻っていた.
−*−
「シンジくん,どうして『てるてる坊主』を?」
「だって,はれないとねがいごとがかなわないんでしょう?」
「そうね.レイちゃんもそうなのかな?」
「…うん.それに….」
「それに?」
「…はれないとおりひめさんとひこぼしさん,あえないから….」
「レイちゃん,そのお話誰から聞いたのかな?」
「…おかあさん.」
「…そう.明日の夜,晴れるといいわね.」
「うん.」
シンジとレイのふたりがマヤせんせいとはなしてる.
アタシ,そうりゅうアスカ.5さい.シンジとはあかちゃんのころからいっしょなの.
レイとはねんちょうぐみからのおともだち.ふたりとも,アタシとだいのなかよし.
それにしても,ふたりともおこさまよね〜. 「てるてるぼうず」 なんかではれたらせわないわよ.
“ しょーらい,かっこいいふけいさんになれますように. そうりゅうアスカ ”
・・・・・もちろん,たんざくには 「ねがいごと」 ,かくけどね.
「あっと,わっ.」
「シンジ!」
「シンジくん!」
(どんっ!)
「だ,だいじょうぶ?レイちゃん?」
「…う,うん.わ,わたしはだいじょうぶ.」
「…よかった.」
「あ!シンジくん,みぎて….」
「え?」
・・・・・シンジったら,かざりづけのささのはでてをきっちゃったの.
いすからおちてレイとはあたまぶつけるし,ほ〜んっと,ボケボケっとしてるんだからっ.
しっかりしてよね!アンタのところもアタシんちもパパとママふたりともはたらいてるだからっ.
アタシたちでできることはアタシたちでやんなくっちゃ.
でも,シンジは 「おこさま」 だから・・・ま,しょうがないわよねえ.
アタシがシンジの 「おねえちゃん」 ,してあげなくっちゃ.
アタシのパパ,おしごとでよくがいこくにいくから,ママ,ひとりでいることがおおいの.
だから,アタシがママをまもってあげるの.
パパも 「いいこにして,ママをこまらせないでね.」 っていってたし.・・・アタシ,パパもママもだいすき!
だからパパやママのこまったかお,アタシ,みたくないから・・・いいこでいるの.
でも,でも,でも・・・・・
“ パパが おしごと はやくおわって かえれますように. ”
もういちまい,たんざくにかいたの. “ずる” ・・・ しちゃった.
「ねえ,なにやってるの?アスカ?」
「な,なんでもないわよっ.シンジ!」
い,いつのまにかシンジがきてた.み,みられてないわよね!?
シンジったら,ふだんはボケボケっとしてるくせしてみょうにするどいとこあるから.
こんなとこ,シンジにみられたらアタシのたちば ,だいなしよっ.
・・・シンジがアタシにいけんするなんて,“10年” はやいんだからねっ.
(おしまい)