− コンフォート17 葛城家 −
「ううっ.頭がちょっち痛い.水〜.」
「飲み過ぎですよ.ミサトさん.はい!」
翌朝,ミサトさんが頭に手を当てながら寝室からタンクトップにホットパンツのラフな格好で出てきた.
昨日は少し飲み過ぎだったようだ.僕はコップに水を満たすと多少荒っぽくそれをミサトさんの前に置く.
いらついてるのが自分でも分かる.昨日,直ぐに寝付けなくて寝不足気味なこともそれに拍車を掛けていた.
「あ,ありがと〜.いい主夫になれるわよ〜シンジ君.」
「・・・どうも.」
ミサトさんと同居するようになってからというもの,すっかり僕はその手の家事一般が身についてしまっていた.
必要に迫られてとは言え気分は複雑.・・・“ありがとう”って言われるのは,それはまあ・・・嬉しい・・・けど.
「いっただきまーす.」
「いただきます.」
今朝はトーストに目玉焼き,コーヒーと至って簡素なもの.学校がある時に比べると品数が少ない.
もっとも学校がある時に増える分は,昼の弁当のおかずになるのだけど.
朝のおかずが少なくてミサトさんが文句を言うことは無い.・・・コーヒーの代わりにエビチュを飲む人だし.
さすがに二日酔い気味の今日はコーヒーだけど.
「クェッ」
干物を一気に丸呑みのペンペン.普通,生の方を好むような気がするのだけどペンペンはどちらも食べる.
下手するとミサトさんよりまともな味覚の持ち主なのかも・・・・・ってこれはさすがにミサトさんに失礼か.
「私は出勤だから一緒に行けないけどぉ・・・レイの所には何時に行くつもりなの?シンジ君.」
「さ,3時ごろにしようかと・・・」
「3時ぃ〜?1時間しかないじゃない.2時にしなさいよ.シンジ君.」
今日の“見舞い”に関するミサトさんの問いに僕は答える.3時に行くと答えた僕にミサトさんは眉をしかめた.
「そ,そんな・・・2時だなんて・・・・」
・・・間が持たない.それが僕の正直な気持ち.
確かに綾波のことは気になってるけど・・・2時間も二人きりで居られる自信は・・・無い.
「間が持たない・・・とか思ってるんでしょう?シンジ君.」
「・・・はい.」
「別に2時間も居なさいと言ってるわけじゃないのよ.時間前に帰ってもいいんだしぃ〜・・・」
することが無くなったら帰ればいい・・・確かにミサトさんの言う通り.ただ,昨日はそれすらも言えなかったけど.
「それに早く来た方が一緒に居られる時間の幅が広がるじゃない?楽しい時間は長い方がいいわよ〜.」
「・・・・・・・」
「それとも,シンジ君はレイと一緒に居るのが嫌なのかな〜?」
「嫌じゃ・・・ないです・・・ただ・・・」
「そ〜んなに難しく考えないのっ.話からするとレイも嫌がってないみたいだし.気楽に行きなさいよ.」
「ミサトさん・・・」
「シンジ君.こういうのは気持ちの問題でもあるから・・・・・ね.」
「は・い・・・」
次第に熱を帯びた口調に変わっていくミサトさんに対して僕は曖昧にうなずいた.
昨日といい今日といいミサトさん,妙に“お見舞い”にこだわってる.本当に一体どうしたのだろう.
病気の時,誰かがそばにいると心強いのは何となく分かるけど・・・そんなに力説する程のことなのだろうか?
「ま,お姉さん的にはシンジ君がレイにさらなるアタックをすることを期待してるんだけどね〜♪」
「・・・いい加減にしてください.本当にそんなんじゃないんですからっ.」
・・・ミサトさん,単に僕を肴に美味いエビチュを飲みたいだけなのかもしれない.
− ネルフ本部管内 中央病院 −
結局,僕が中央病院に着いたのは午後2時半.どっち着かずの時間帯・・・中途半端な僕を表わしている.
今日は・・・何も持ってきていない.明日綾波が退院する予定だということは主治医の先生から聞いていたし,
“お見舞い”の“定番”である果物も頭の片隅に無くは無かったけど,気恥ずかしさとあの後ミサトさんによる,
「・・・シンちゃんが一口サイズに切ったリンゴを楊枝に刺して,『綾波・・・口を開いてあーんして(ぼそ)』」
「・・・で,差し出されたリンゴを前に『碇君・・・』とか何とか言っちゃったりして〜・・・・・(以下省略)」
といった絶対ありえない妄想を目の当たりにしては,何かを持っていくことは僕の思考から完全に失せていた.
それはさておき,僕は正面入り口の自動ドアを通過して面会者受付の窓口の方に向かった.
「碇・・・シンジ君じゃないかね?」
「はい?」
受付窓口に行く途中で僕は後ろから声を掛けられる.振り返ると見覚えのある白衣姿の30前後の男性.
「最上先生・・・」
「私の名前を覚えてくれて光栄だね.エヴァンゲリオン初号機パイロット,碇シンジ君.」
「・・・・・・・」
僕に名前を呼ばれて,最上さんは笑みを返した.昨日,ミサトさんに見せた時と同じ笑み.
その何か含んだ笑みに僕は警戒感を覚える.
「そんな恐い顔をしなさんな.可愛い顔が台無しだぞ.時に,葛城さんは元気かね?」
「・・・元気ですよ.とても.」
・・・備品に八つ当たりするくらいに.昨日のことが思い出される.
「それは良かった.昨日は葛城さんへの厭味が過ぎたから少し気になってたんだよ.」
「はあ.」
その含んだ笑みを崩さないまま,最上さんは僕に話し掛ける.一体どういうつもりなのだろう?
「・・・ところで君は葛城さんと同居してるそうだが,家で彼女にこき使われてないかね?」
「え?」
「どうなんだね?」
「どうして・・・そんなことを聞くんです?」
「いや,何,昨日初めて会った時,何となくそんな感じがしたからね.それだけだよ.」
「別に・・・こき使われてなんかいませんよ.」
「・・・そうかね.ま,それならいいけど.」
探るようなあるいは何か思わせぶりな感じで最上さんが僕に尋ね続ける.
このままだと際限なく根掘り葉掘り聞かれそうなので,僕は逆に最上さんに尋ねることにした.
「最上先生.綾波,明日退院できるんですか?」
「あっと,いかんいかん.忘れてた.」
「?」
「・・・院長からの指示で今日急に退院になって手続きを終えたところだったんだ.まったく上も何考えてんだか.」
僕が綾波のことを尋ねると,最上さんは急に慌て出す.そして,その後何だか不満気な顔を覗かせた.
・・・綾波,退院なんだ.僕の中で何か渦巻くような感覚が湧き上がる.
「それじゃ,綾波は・・・」
「まだ病室かもしれんが・・・・・急いだ方がいいな.早く行きなさい.」
「は,はい.」
・・・綾波の顔が見たい.
出掛ける時は会ってどうしようかとためらっていたのに,今はそっちの方の思いがためらいを上回っていた.
「急ぐのはいいけど,廊下を走らないでくれよ.」
先を急ぐ僕に最上さんから声が掛かる.僕は速足で綾波の病室に向かって行った.
− 中央病院内 ロビー −
「綾波っ.」
結局,病室では綾波をつかまえることができなくてロビーで呼び出しを待つ壱中制服姿の綾波を見つけたのは,
探し始めてから約10分後のこと.綾波が病院を去っていなかったのは幸いだった.
「・・・・・・・」
綾波は膝の上に通学用のかばんを載せてその上で本を広げていた.僕の声に綾波は本から顔を上げる.
「良かった.間に合って.」
「・・・・・・・」
綾波の紅い瞳と僕の視線が交錯する.その表情はいつもと変わらず無表情.
だが,綾波の顔を見たことで僕の中のさっきまでの渦巻くような感覚は不思議と消えていた.
「今日,退院になったんだ.身体の方はもういいの?」
「・・・ええ.」
昨日の様子からして大丈夫だとは思ってたけど,急な退院と最上さんの言葉が気になって僕は綾波に尋ねた.
それに対して綾波は淡々と答える.ふと,僕は綾波の傍らに置かれたものに気がついた.
白い花.昨日ミサトさんと僕が持ってきた花だ.
「花束・・・持ってきてくれたんだ.」
「・・・看護婦が “あなたのだから持ってきなさい” と言って渡したから.」
「そ,そうなんだ.」
病室に行った時,40ぐらいの大柄で押しの強そうな看護婦さんが室内を片づけていて僕に綾波の行く先を
教えてくれたけどその人が渡してくれたのだろうか.花は白い布で二箇所,コンパクトにまとめられていた.
「・・・・・・・」
「あ,そうだ.折角,持って帰るんだったら花瓶に生けた方がいいよね.ちょっと待ってて.」
ふと,僕は綾波の傍らの花であることに思い至る.綾波の家に花瓶になるようなものは無かったはずだ.
代用としてペットボトルを使うという手もあったけど,そうするにはちょっとばかり加工が必要だし
第一気分とか風情の問題もある.僕はいったん綾波から離れると病院内の購買を探し始めた.
こういった大病院では施設内に売店があるもので,その中で見舞い用の花や花器なども売っていたりする.
・・・案の定,購買所は病院内のサインボードのおかげもあって直ぐに見つかった.
「・・・はい.昨日僕がやったように生けるといいよ.水は1日おきに交換してね.長持ちするから.」
「・・・・・・・」
僕が病院内の購買で買った花瓶の入った箱を差し出すと綾波は目をぱちくりさせた.
「なぜ花を持ってきて生けたりするの?」
「あ・・・」
綾波の問いに僕ははっとする.
昨日,僕は綾波に「気に入らなければ捨てても構わない」と言った・・・それは僕の本心じゃないけど.
また,綾波と花を生けるといった行動は・・・あの部屋の様子からして・・・考えづらい.
そこへ花瓶を買って渡したりして・・・・・何やってるんだろう.僕は.
「ごめん・・・」
次に出たのは“ごめん”の言葉.考えてみると,僕は何て図々しいことをしたのだろう.
綾波の気持ちも考えずに・・・・・これじゃただの押し付けだよ.
「なぜ謝るの?」
「それは・・・・・ごめん.」
また“ごめん”.僕の口癖.ただ謝ることしかできない.
こんな時,本当にどうすればいいのだろう.わからない.
「・・・質問の答えになってない.なぜ花を生けたりするの?」
そんな僕に対して綾波は繰り返し問い掛ける.
綾波の口調はいつもと変わらないのに何だか非難されてる感じがして・・・また謝ってしまう.
「ごめん・・・あ・・・うん,そうだね.それは・・・」
それは・・・と言いかけて僕ははたと言葉に詰まる.
“お見舞い”に花を持っていって生ける.それはごく当たり前のことでその意味など考えたこともなかった.
あえて言うならばみんなそうしているから・・・そういうもの・・・なんだけど・・・
そのことを綾波に答えるのはなぜだか僕にはためらわれた.
別の答えを求めて,僕はミサトさんと花を求めた時のことを振り返る.
「・・・・・・・」
答えを待つ綾波の顔を恐る恐る見ながら僕は話し始めた.
「それは・・・・・“お見舞い”の気持ちを表わすためなんじゃないかと・・・思う.」
「気持ち?」
「うん・・・」
僕が綾波に答えたことは,どこか気取っていて・・・僕の言葉ではない感じがする.
でも綾波の身体のことが心配だったのは本当.それは嘘じゃない.
・・・ミサトさんと花を選んだ時,僕は真っ赤なバラの花束を持っていくことに反対した.
それは,愛を告白するものじゃないから・・・・・というのもあったけど僕達には綾波の好みが分からないのだし,
それならば香りのきつくない,色も無難なものにするべきだと思ったから.
それに・・・これは僕の勝手だけど,綾波には淡い色でほのかな感じの花が似合うかな・・・と何となく思ったから.
だから・・・・・
「・・・病気になるとさ,何となく落ち込むじゃない?ほら,“お見舞い”って病気の人を元気付けるものだから・・・」
「・・・・・・・」
「花の色や形,香りなどを楽しむことで・・・気持ちが和むと思うから・・・だから花を生けるんじゃないかな?」
「・・・・・・・」
綾波は無言で相づちを打つことも無く僕の話を聞いていた.いつもと変わらない表情・・・確かにそうなんだけど,
その反応の無さに自分の話していることに段々と自信が無くなってきて声が小さくなる.
「その・・・綾波の好みが分からなくて・・・勝手に選んじゃったけど・・・ごめん.もしかして気に入らなかった?」
「・・・わからない.だた・・・」
「ただ?」
「・・・嫌な感じはしない.」
「ほ,本当?それならいいんだけど.」
不安げに尋ねた僕の問いかけに綾波にしては珍しく少し言い澱んでから答えた.
綾波の答えに僕はほっとする.良かった.綾波の迷惑になってなくて.
「それ.貸して.」
「え?」
僕が安堵しているところに綾波が口を開く.
最初,綾波の言葉の意味が理解できなくて僕はきょとんとしてしまう.
「花瓶.花,生けるから.」
「あ・・・は,はい.」
綾波に促されてようやく言葉の意味を理解した僕は手にしていた花瓶の入った細長い箱を手渡す.
自分で差し出しておいて忘れるなんて間が抜けてる.
「・・・綾波レイさん,綾波レイさん.16番の薬局までお越しください.」
「薬局.行くから.さよ・・・・・それじゃ.また.」
「うん.また,学校で!」
薬局からの呼び出しに綾波は立ち上がり僕に淡々と別れを告げた.“さよなら”・・・では無く.
そのことに,そしてまた花瓶を受け取ってくれたことに,僕は自分の声に嬉しさが混じってるのが理解できた.
その後,僕は行きの時と同じように巡回バスで帰途に就いた.
− 再開発地域 某団地 “402号室 綾波” −
夕暮れというにはまだ早すぎる午後,殺風景な自分の部屋でレイは持ち帰った花を生けようとしていた.
シンジから渡された細長いこげ茶色の花瓶は引き出しの上の棚状のところに置かれている.
その傍らにはレンズにひびの入った眼鏡がある.・・・シンジの父ゲンドウのものだ.
それはさておき,レイはまとめていた布をほどくと花を無造作に花瓶にさしていった.
体裁も何もあったものでは無いのでその仕上がりは雑然としたものだ.花瓶にさした花をレイは見つめる.
「・・・・・・・」
それからしばらく経って,再びレイの手が花に伸びる.今度の動きは先程と異なって細やかな動き.
ただ,その動きは自分で動いているというよりは何かをトレースしているといった感じでぎこちなかった.
『花の色や形,香りなどを楽しむことで・・・気持ちが和むと思うから・・・だから花を生けるんじゃないかな?』
病院で碇君が言ってたこと.花.白い花.薄いもの.柔らかいもの.L.C.L.とは全く異なる匂い.
気持ちが和む・・・和らぐこと.穏やかになること.そう・・・花で気持ちが和むのね.碇君は.
『その・・・綾波の好みが分からなくて・・・勝手に選んじゃったけど・・・ごめん.もしかして気に入らなかった?』
わからない.そんなこと.私には“絆”の他に何も・・・・・
・・・・・・・・
『自分には・・・自分には,他に何も無いなんてそんなこと言うなよ.』
『別れ際にさよならなんて,悲しいこと,言うなよ.』
『!・・・ち,違うよっ!そんなんじゃない!』
『良かった.間に合って.』
『ごめん・・・』
『うん.また,学校で!』
・・・碇君に“花を生ける”と言った私.あの時・・・命令されたわけでもなかったのに・・・・・
・・・・・・・
− コンフォート17 葛城家 −
「・・・不通となっていた第3新東京市内のリニア各線は復旧工事完了により明日始発から正常のダイヤで・・・」
点けっぱなしのTVからニュースが流れる中,僕は夕食の用意を急いでいた.
リビングのテーブルでは朝の時と似たような格好のミサトさんがエビチュ片手に裂きイカをつまんでいる.
また,おすそ分けなのかペンペンの皿には同じものがミサトさんの手によって置かれていた.
「(もぐもぐ)・・・それでどうだったの?シンジ君.」
「綾波,今日退院になったんです.」
「へえ良かったじゃなーい.で,レイとは会えたの?」
「ええ.ロビーで.」
案の定,ミサトさんは今日のことを尋ねてきた.料理をお皿に盛り付けながら取り敢えず僕は正直に答える.
「いつもより声が明るいわね〜.何かいいことでもあったの?」
ミサトさん,鋭い.いや,それよりも僕の方が“分かり易すぎる”のだろうか.・・・多分,その通りなんだろうけど.
「そんな・・・別に無いですよ.」
「怪しいわねえ・・・シンジ君,さっさと正直に白状した方が身のためよん♪」
何が身のためなんだか・・・・・話せば話したで僕をからかうのに.
殆どワイドショーレポーター状態のミサトさん.本当に作戦指揮官なのだろうか?
ネルフにいる時との落差に時々首を傾げたくなる.
「・・・綾波が昨日僕達の渡した花束を持って帰ってくれたんです.」
僕はミサトさんに今日あったことの一部だけを話す.花瓶のことは・・・伏せた方がいい.多分.
「あのレイが?珍しいこともあるのね.ああ,それで機嫌がいいんだ.」
「ええ・・・まあ.」
「ねえ.レイとは何か話したの?例えば“愛の告白”とか?」
「・・・何でそうなるんです.綾波とは・・・」
「綾波とは?」
「綾波とは・・・綾波に“なぜ花を持ってきて生けたりするの?”と尋ねられたんです.それで・・・」
話すにつれて僕は頬が赤くなるのを感じる.改めて振り返ると自分の言ったことが恥ずかしい.
あの時は気がつかなかったけど“気持ちを表わす”って・・・なんて気障なことを.
僕はしどろもどろになりつつあるのを感じながらミサトさんに事の次第を話した.
「・・・と答えたんです.」
「・・・・・・・」
「ミサトさん?」
話し終えてミサトさんからの反応が無いことに僕は気がつく.ミサトさん,どうしたんだろう?黙っちゃって.
「・・・へえ〜シンジ君も言う時は言うんだ.感心.感心.」
「や,止めてくださいよっ.恥ずかしいんですから.」
「あら?誉めてんのよ.“気持ちを表わす”・・・素敵じゃない.」
「本当・・・ですか?」
「本当よ.うんうん,ポイント稼いだわね〜.シンジ君も.」
「すぐそういう話に持って行く・・・・・」
ミサトさん,変に間を置いたので何かと思ったけどやっぱりいつものからかいモード.
何だか余計な気を回して損したという感じ.
「よし!今日は及第点をあげましょう.」
「・・・何の及第点ですか何の.」
「惜しむらくはそのままレイの家に押しかけて“手取り足取り”教えなかったことね〜.」
「何ですか,その“手取り足取り”って.」
「花の生け方についてよ.何?シンジ君ったら一体何を想像してたのかな〜.」
してやったりという顔のミサトさん.言われた後,ミサトさんの術中にはまったことに僕は気づく.
「・・・・・・・」
「晩御飯を食べながら,じぃ〜っくりと話してもらいましょうかねえ〜.シ・ン・ジ・君♪」
とても楽しそうなミサトさん.それとは対照的に,僕は顔に縦線が入っていくのを意識せずにはいられなくなる.
それから僕は,昨日に続き2日連続でミサトさんのいい酒の肴として夜を過ごす破目となった.
「ふぅ.」
台所で後片付けをしていた僕は息を吐く.少し疲れているのが自分で分かる.
昨日今日と,ミサトさんはさんざん僕のことをからかうし,それに・・・僕自身,慣れないことをしたから.
・・・・・・・
『惜しむらくはそのままレイの家に押しかけて“手取り足取り”教えなかったことね〜.』
“手取り足取り”はともかく,綾波,ちゃんと花を生けられたのだろうか.
難しいこと・・・じゃないと思うけど,何だか綾波とは縁遠い感じがしていて.
・・・改めて昼間のことを考えると顔から火が出そうになる.
昼間,綾波には“気持ちを表わす”と答えたけど・・・それで,良かったのだろうか?
でも,綾波が花瓶を受け取ってくれたのは・・・嬉しかった.本当に.
・・・疲れていたにも拘らず,昨日に引き続きその夜も僕は直ぐに寝付くことができなかった.