【小さな花束・その後】 prologue
Written by VISI.



A.D. 2025年 第3新東京市立第壱中学校


「・・・今晩だけど,一時間ぐらい遅くなるから.・・・ああ,うん.明日までの資料の整理がまだ残ってるんだ.」

太陽が西に傾いて長い影を作り出している夕刻,一人の青年が職員室の自分の席で携帯を手にしていた.

電話の相手は青年の親しい人なのだろうか.彼は相手に予定が遅れることを告げる.

彼の机の上にはその仕事量を主張するかのように上質紙が数十枚と

電源の入ったB5サイズのサブノート端末が置かれていた.

「・・・改めて,おめでとう.本当,良かった.諸々の話は会った時にでも・・・それじゃ,また後で.(ピッ)」

ややほころんだ顔で青年は電話を切る.職員室には,青年以外誰もいなかった.

それから彼の表情は真剣なものへと変わり,上質紙を眺めてはサブノート端末に手を伸ばす.

セカンドインパクト以降の世代とあってその入力する手つきは自然で実に手慣れたものである.

だが,入力する手つきに比べて実際の作業ははかどらない.


・・・その上質紙の一番上の欄には“進路志望調査票(第1回)”と書かれていた.


サブノート端末が教科書・ノートと同様に普及しても,21世紀を4分の1過ぎたこの年になっても,

電子メールがごく一般的になっても,紙によるプリントは情報の伝達手段として相も変わらずよく使われている.

この進路志望調査票もその一つだ.

学校によっては生徒が進路志望を定型のフォームに入力して担任にメールするところもあったが,

ここ壱中では生徒に手書きで書かせて管理上必要な箇所だけを担任が端末で入力する方式を取っていた.

それはこの学校が創立されて以来ずっと変わっていない.

非合理的・・・と青年は思う.

実際,若手の教師達を中心に電子メールにしたらどうかという提案が何度か上がっている.

だが,“電子メールだと生徒の微妙な意志が反映されない”という大義名分によりそれは毎回却下されてきた.

確かにそれは一理あるかもしれない.

でも,それはそれ.今現在入力作業が面倒だという事実に変わりは無い.

現実の問題として,その作業は家に帰る・・・今日は待ち合わせの場所へだが・・・時間を確実に遅らせていた.


・・・青年の受け持ちは二年生のクラスだった.そのクラスは10年前の彼が居た所でもある.



中学二年生・・・・・

13もしくは14歳の生徒達が書き綴った自由記入欄には・・・・・


真面目に綴ってあるもの.

・・・そこそこある.

希望とあこがれが先行しているもの.

・・・それなりにある.

明らかに半分投げ遣りに書いてあるもの.

・・・何人かだがある.

妙にさめていて挑発的なもの.

・・・これもある.

“特に無し”もしくは何も書かれてないもの.

・・・一番多いのはこれ.


それらの傾向や多様性は,10年前と変わったのだろうか?それとも,変わってないのだろうか?

・・・10年前,彼や彼のクラスメート達が書いたそれらと比べて.



「・・・ふぅ.」

未入力の調査票が半分くらいになった所で青年は一息つく.

視線を窓に向けると,西に傾いていた太陽はすっかり沈んで夜の闇が建屋の周囲を包んでいた.

それから彼は,体を少しほぐすと作業を再開した.


(続く)


1998.10.17 Ver.1.00

「続編」,始めました・・・・・この話の青年が「誰」なのかはエピローグまで一応伏せさせていただきます.

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