「そんな命令,誰が出すんですか?」
「碇司令よ」
「・・・・・・・」
作戦準備中のリツコから父親の名が出てきて,初号機内のシンジは顔をしかめる.リツコに連れられたシンジとアスカは,現地で先に使徒の調査に当たっていたミサト達と合流していた.
浅間山の上空には,UN(国連)軍の爆撃機が飛来していた.使徒の捕獲という今回の作戦が失敗して事態の収拾がつかなくなった時,地上の状況如何に関わらずN2爆雷を投下するために待機している.もっとも今までの実績からして,それで使徒を殲滅できるかは大いに疑問符の付くところではあるが.
『・・・父さんにとって,僕は何なんだろう・・・』
最終的に爆雷投下を決めるのは,碇司令・・・シンジの父親である.使徒への迎撃,そして殲滅の責務を負っているネルフの最高責任者としては,その判断を下すのはある意味で当然のことである.ただ,シンジにとってそれは「酷い」とか「冷たい」とかを抱かせるものだった.
『乗るなら早くしろ.でなければ,帰れ』
・・・使徒と対峙する厳しい現実の中では,それはシンジの甘えなのかもしれない.だが,そのことを理解するにはシンジはまだ子供であったし,たとえ頭で理解したとしてもそれを納得して割り切るのはまた別の話である.
『来い』
3年振りの父との再会.ミサトの写った写真が同封された,父からの一通の手紙.もし手紙の差出人が彼の父親ではなく,別の・・・例えば国連の一機関とかの組織名・・・であったならば,シンジは自分と父親の立場を最初からはっきりと認識することができただろうか?
異聞 「マグマダイバー」 C Part
Written by VISI.
「ジャイアント ストロング エントリー!」
クレーンから吊るされたD型装備の弐号機がマグマの中に入る直前,アタシはシンジに軽口を叩く.チョットだけ・・・本当にチョットだけだけど,マグマに囲まれた中での行動にアタシは緊張していた.
「現在,深度170.沈降速度20.各部問題無し.視界は0.何も分からないわ.CTモニターに切り換えます」
EVAに乗るためにアタシは今まで色んな状況を想定して訓練してきたけど,これだけの高温高圧な所は初めて.「怖い」なんてコトは無いけど,あんまり気分の良いものでもないわ.
「深度,400,450,500,550,・・・」
女性オペレータの声・・・確か,マヤだったわね・・・と共に,金属が軋む嫌な音がプラグ内に伝わってきた.一種の極限環境だもんね.ぶくぶく膨れてて不格好なこのスーツと弐号機だけど,何も無いよりはましって感じ・・・最初にアレを見た時,「シンジの初号機の方がお似合いよっ」って言ったけど.
「・・・深度1020.安全深度,オーバー」
下に降りて行く弐号機を支えているのは,冷却液が流れる5本のパイプ.ぎしぎし言ってちょっと心許ないけど,この程度のことでしくじるわけには行かない.アタシはEVAのパイロットとして,一人で生きて行くと決めたんだから・・・・・
「深度1300.目標予測地点です」
「アスカ,何か見える?」
「反応無し.居ないわ」
「思ったより対流が早いようね」
「目標の移動速度に誤差が生じています」
「再計算,急いで.作戦続行.再度沈降,よろしく」
遥か上の地上の指揮車にアタシは報告する.CTモニターを通しても,使徒の姿は全く見当たらない.指揮車に詰めているミサトとリツコの間で話が交わされて,作戦の続行が指示される.アタシと弐号機は,引き続きマグマの中をさらに深く潜って行った.
− * −
「何よコレェッ!?」
思わず,アタシは叫んでいた.サウナのようなプラグ内から細心の注意を払って電磁柵を操作し捕獲した使徒が,突然その活動を始めたのだ.
「目標は,ATフィールドを展開!」
「キャッチャーは?」
「とても持ちません」
「捕獲中止!キャッチャーを破棄」
「クッ」
ミサトの指示で,アタシは電磁柵のキャッチャーを切り離す.直後,活動を始めた使徒がキャッチャーを完全に振り切って行った・・・折角,捕まえたのに.
「作戦変更.使徒の殲滅を最優先!弐号機は撤収作業をしつつ,戦闘準備」
「待ってました!・・・来たわね」
こうなったら,このアタシの手で使徒を葬ってやるわ.弐号機を追って下から迫ってくる使徒にアタシは身構える.EVAの武器であるプログナイフを取り出そうとしたんだけど・・・・・
「しまった.ナイフは落としちゃったんだわ」
さっき使徒を探索していた時に,固定具が破損してナイフを落としてしまったことをアタシは思い出す.ついてない.だけど,そのことを悔しがっている時間は今のアタシには無かった.
「正面!?バラスト放出!」
急速接近する使徒に,アタシは弐号機に装着されたウェイトを切り離して対応する.ウェイトが無くなって負荷の少なくなった弐号機は上昇のスピードを上げる.攻撃をかわすことには成功したけど,アタシは使徒の姿を見失っていた.
「アスカ,今のうちに初号機のナイフを落とすわ.受け取って」
「了解」
ミサトから武器の補充を告げる通信が入る.向こうはマグマの中を自由に動き回っているのに対して,こっちは吊るされた人形状態・・・武器の無い状態で戦うのは,いくら何でも無茶.さっさとこっちに投げ落しなさいよ!シンジ.
− * −
「左脚損傷!」
やっと落ちてきたプログナイフをアタシは掴み取る.だけど,使徒の攻撃の方が速かった.そいつは内部のおぞましい口を見せつけるようにして弐号機の左脚に噛み付いた.こんな所で口を開けるなんてとんでもない奴!もう,最低だわ.
「耐熱処理!」
使徒に噛み付かれて,左脚の冷却機能部が損傷する.アタシは爆砕ボルトを作動させて左脚を切り離した.この場合,熱の伝達の方が恐い.神経接続のレベルは地上の時よりも下げられているはずなのにプラグ内はサウナ状態・・・物理的にも結構やばいっていうこと.
「こんちくしょうーっ!!」
「高温高圧,これだけの極限状態に耐えているのよ?プログナイフじゃ駄目だわ」
使徒めがけて,アタシはプログナイフを突き立てる.けど,全然ダメ.こんなマグマの中で非常識に動き回る奴相手に並みの攻撃は通用しないわ・・・とそう思った時,アタシの中で一つのアイデアが浮かんだ.
「そうだっ!」
「さっきのやつ!」
シンジの奴も気が付いたみたいね.『物は暖めれば膨らんで大きくなるし,冷やせば縮んで小さくなる』・・・ ためらってる暇はないわ.アタシは,自分で弐号機につながる3・4・5番の冷却パイプを切断して使徒の口にそれを思いっきり突っ込んだ.
「なるほど,熱膨張ね」
リツコの言う通り,そういうこと!これでもし駄目だったら,ちょっとヤバイけど.
「冷却液の圧力を全て3番に回して!早くっ!!」
切り取ったパイプから冷却液が吹き出る.アタシは弐号機に渾身の力を込めて,使徒のコアにナイフを突き立てた.刃が立たなかった刀身が今度は突き刺さる.使徒は最初抵抗していたけど,次第にその力は弱まってアタシの弐号機からボロボロと剥がれ落ちて行く.
・・・こうして,アタシは使徒に勝つことができた・・・けど・・・・・
− * −
「第1循環パイプ切断!弐号機,降下を始めます!」
その状況を告げるマヤの声は,アタシには届いてなかった.残りの切れかけていた冷却パイプでは弐号機を支えきれなくて,通信の有線も切れてしまっていたから.こんな深度のマグマの中からでは,無線も届かない.
「・・・せっかくやったのに・・・・やだな,ここまでなの」
弐号機のD型装備が次々とひしゃげて行き,アタシと弐号機はゆっくりと下に落ちて行く.EVAに上へ昇って行く力は無い.数十秒後には,マグマの圧力でアタシは弐号機と一緒に潰されてしまうだろう.
「・・・・・・・」
ここで,終わりなんだ・・・もっと慌てたり,騒いだり,悪あがきしたりするかと思ったのに,その時のアタシは妙に静かな気持ちになっていた.どうしてなんだろう・・・と思うくらいに.
(ガシンッ)
そのように思っていた時,衝撃がアタシを襲った.そして,何かに掴まれたような感触を覚える.何事かと,アタシはCTモニターを見た.
「シンジ?」
そこには,初号機が左手にアタシの弐号機を,右手に命綱の冷却パイプを握りしめている映像が映っていた・・・耐熱装備も何も着けていない,通常装備の姿で.
「・・・バカ.無理しちゃって」
一人じゃ,水にも飛び込めないくせに・・・それに,もし二体のEVAを支えれなかったらどうするつもりだったの?アンタらしくないわよ・・・・・バカ,シンジ.
それから,アタシ達はクレーンによって慎重かつ迅速に地上へと引き揚げられて行った.
2000.05.21 Ver.1.00
2000.05.21 Ver.1.01
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