「こんなに範囲が広いの!?」

 「端っこまで随分ありますよ?」

 「目標のATフィールドをもってすれば,それのどこに落ちても本部を根こそぎ抉ることが出来るわ」

 「ですから,EVA三体をこれら三ヶ所に配置します.一人当たりの範囲が広くて大変だけど,頼むわね」

 「・・・この配置の根拠は?」

 シンジ達がプラグスーツに着替えた後,改めて作戦について,最後の打ち合わせが発令所内で行われていた.MAGIが算出した落下予想地点の範囲は,第3新東京市街全域から周辺の山間部までの広い範囲.ミサトが指示したEVAの初期配置について,レイはいつもと変わらない様子で淡々と尋ねていた.

 「勘よ」

 「「勘!?」」

 「そ.女の勘」

 「なんたるアバウト!ますます奇跡ってのが,遠くなって行く感じだわ!」

 「・・・ミサトさんのクジって当たったこと無いんだ」

 「(げっ・・・)」

 レイの質問に対して,ミサトは女の勘と言い切る.その行き当たりばったりに,アスカは呆れ果てる.加えてシンジの何とも不吉な呟きを耳にして,その顔はまるで縦線が入ったかのように引きつっていた.

 
異聞 「奇跡の価値は」 D Part
Written by VISI.



 「・・・アスカはなぜEVAに乗っているの?」

 「決まってんじゃない?自分の才能を世の中に示すためよ」

 EVAが繋留されているケージに向かうエレベータの中で,シンジはアスカに訊ねていた.レイにも以前訊ねていた問い.シンジの問いに,アスカは即答する.他に何があるのかと言わんばかりに.

 「自分の存在を?」

 「ま,似たようなものね.・・・あっちの娘には訊かないの?」

 アスカは軽く答えると,目線だけ動かしてレイを指してシンジに尋ねる.金網と鉄格子が剥き出しの筐体の中で光と影が入れ替わりながら,エレベータは動き続ける.

 「綾波には,前訊いたんだ」

 「ふーん,仲のおよろしいことで」

 「・・・そんなんじゃないよ」

 過去に同じ質問をレイにしたことが面白くないのか,アスカは嫌味混じりにレイとのことを揶揄する.そんなアスカの物言いに,シンジは表情を翳らせていた.

 「・・・アンタはどうなのよ?」

 「・・・分からない」

 「はぁ?アンタ,バカァ?」

 「・・・そうかもしれない」

 今度は逆にアスカがシンジにEVAに乗っている理由を問い掛ける.シンジの答えに,アスカは呆れ顔になる.

 「・・・でも,逃げちゃ,駄目なんだ・・・きっと」

 「逃げちゃ駄目って,何よ?」

 「それは・・・・・」

 (ガシャンッ)

 独り言のようなシンジの呟きに,アスカは訳の分からないといった顔でさらに尋ねる.シンジが答えようとした時,三人に軽い衝撃が走る.エレベータを囲む鉄格子の先には,三体のEVAがその姿を現わしていた.格納ケージに,シンジ達は到着していた.

 

− * −



 「目標を最大望遠で確認」

 「距離,およそ2万5千」

 「EVA全機,スタート位置」

 状況を告げる日向と青葉メインオペレータ両名のアナウンスを受けて,ミサトがシンジ達に指示を出す.それまで直立状態だった零号機,初号機,弐号機が,陸上のクラウチングスタートの姿勢に変わってスタートの時を待つ.

 「目標は光学観測による弾道計算しか出来ないわ.
 よって,MAGIが距離1万までは誘導します.
 その後は各自の判断で行動して.・・・あなた達に,全てを任せるわ」

 「使徒接近,距離2万」

 「では,作戦開始」

 「距離1万」

 「行くよ」

 MAGIによる誘導の最終距離に使徒が到達する.初号機のシンジが静かに呟くと,レイとアスカはうなずく.次の瞬間,外部から電力をEVAに供給する機能を持つアンビリカルケーブルが切り離された.

 「スタート!」

 シンジの合図と共に,三体のEVAは物凄い勢いで走り出す.出来るだけ建物を壊さないように,道路や空き地に足を運ばせながら疾走するがさすがに損害無しとは行かない.落下してくる使徒を受け止められなければ,元も子も無いのだ.

 肉眼で確認できるようになってからは,あっという間.空気抵抗を受けるので自然落下で無限に加速されることは無いが,それでも落下のエネルギーは計り知れないものだろう.

 「フィールド,全開!」

 赤熱して空を流れ行く使徒は,市街地を逸れて郊外の山間部に向かっていた.そこに近い配置だったシンジが一番で落下地点に辿り着き受け止めに掛かる.初号機からATフィールドが展開されるが,使徒自身の質量と落下のエネルギー,そして使徒からも展開されるATフィールドに,初号機が支えきれずにじりじりと押される.

 「弐号機,フィールド全開!」

 零号機のレイから,鋭い声がアスカに飛ぶ.機体のあちこちが軋んで今にも潰されんばかりの初号機.険しい表情で,レイは零号機を駆って初号機が支える山頂部に向かう.

 「やってるわよっ!」

 言われるまでも無い,とばかりにアスカはレイに言葉を返す.先に零号機が,続いて弐号機が到着して,初号機を援護する.下に押されていた状態が次第に均衡を取り戻し,逆に押し返し始める.

 「今だっ」

 「!」

 タイミングを見計らったシンジの呼び掛けに,レイの零号機がEVAと使徒との間で干渉し合うATフィールドを引き裂いてそれに応える.

 「このぉぉーっ!!」

 引き裂かれたフィールドの隙間の先にあるコアに,アスカの弐号機がプログナイフを突き立てる.高速振動する刃と使徒のコアとの間でギリギリと攻めぎ合いの音を立てる.食い込む刃によって次第に使徒のコアから光輝が失われて行く.

 (――――)

 そして,コアの光輝が全く失われて使徒は力無く崩れ落ちる.直後,天を貫くような大爆発が三体のEVAを襲った.爆発のエネルギーで周囲の土砂が一気に巻き上げられる.

 「・・・みんな,無事?」

 「大丈夫です」

 「・・・問題ありません」

 「無事よ,ミサト」

 土煙が晴れて,発令所のミサトが三人に声を掛ける.最後の爆発によって山頂が吹き飛んで巨大なクレータができていたが,EVAの方は零号機と弐号機は装甲の表面が熱で融けた程度.初号機は若干破損していたが,その大半は使徒を受けた止めた時のもので,エントリープラグ内のパイロットは三人共無事だった.

 「約束,忘れないでよっ」

 「はいはい」

 安否の確認の後,軽口を叩くアスカにミサトは苦笑いを浮かべて応えていた.

 

− * −



 「電波システム回復.南極の碇司令から通信が入っています」

 「お繋ぎして」

 「はい」

 やや緊張の面持ちで,発令所のミサトは南極のゲンドウとの交信に臨んでいた.また,既に本部に帰投していたシンジ達も学校の制服に着替えてその場に同席していた.

 「申し訳ありません.私の勝手な判断で初号機を破損してしまいました.責任は全て私にあります」

 「構わん.使徒殲滅がEVAの使命だ.その程度の被害は,むしろ幸運と言える」

 「ああ,良くやってくれた.葛城三佐」

 「ありがとうございます」

 損害を詫びるミサトに対して,冬月とゲンドウの応対は意外にも寛大なものだった.スピーカー越しに,ミサトはゲンドウ達に謝意を表わす.だが,もっと意外な言葉がスピーカーから伝わってきたのはこの後だった.

 「ところで,初号機パイロットは居るか?」

 「は,はい」

 不意にゲンドウに呼ばれて,シンジは戸惑いを覚える.そして次のゲンドウの言葉は,戸惑いの彼をさらに混乱させるものだった.

 「話は聞いた.良くやったな,シンジ」

 「え?・・・あ,は,はい」

 「では,葛城三佐.後の処理は任せる」

 「はい」

 「・・・・・・・」

 今までに一度も聞いたことの無い,あまりに意外なゲンドウの言葉に,シンジは呆然とする.その後の,ミサトに後処理を任せるというゲンドウの言葉は,シンジの耳には入ってなかった.

 『・・・父さんが,僕を褒めるなんて・・・』

 あまりにも意外で,シンジにはそのことがすぐには信じられなかった.

 
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2001.09.08 Ver.1.00

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