ある日の夕方.
「・・・ただいま」
家に戻ってきた私は,玄関の扉を開けて帰宅を告げる.
今日は所用があって,少し帰りが遅くなった.
心のかたち 人の・・・
Written by VISI.
「お帰りなさーい」
ばたばたとした足音と共に快活な声が返ってくる.
家で留守番をしていた小学生になる上の娘のもの.
「お母さん,お母さんっ」
「どうしたの?」
出迎えて来た娘は,玄関で靴を脱ぐ私を急かすように呼び立てる.
今でも口数の少ない方の私と対照的に,上の娘はよく喋りまたよく動き回る.
我が家では,この子が一番賑やかしい.
「はやく,はやく」
靴を脱ぎ,その爪先を揃えて玄関の扉に向けて置く私を娘はもどかしげにくいくいと引っ張る.
その仕草に,今度は一体何をしたのだろう? と私は考える.
良い方でも,悪い方でも,娘は色々なことをしでかしては,私や夫を驚かせてきた.
「見て見て」
せっつくように私をリビングまで引き連れた娘は部屋の中央を指差す.
指差す先にあったものを見て,私は今回もまた わずかな驚きを覚える.
『え?』
そこには,私が出掛ける前にざざっと取り込んだ洗濯物が全てきちんと畳まれていた.
「わたし一人でやったんだよ」
胸を張って誇らしげに・・・“えっへん” が出てきそうな感じで・・・娘が私を見上げる.
この前,下の子とのケンカで言われたことを気にしてたのだろうか?
「そう・・・良かったわね」
ふと,昔から私の口癖になっている言葉が口をついて出た.
一見変わってないようでいて,確かに変わっている.
そう・・・少しずつ,変わっている・・・
「・・・ありがとう.助かったわ」
私の言葉に,娘が えへへっと少し照れたような笑顔を浮かべる.
洗濯物がきちんと畳んであるとは全く頭に無かったので実際助かったし,何よりも娘のそんな姿が愛しかった.
「じゃ,しまうわね?」
そう言って私が洗濯物に手を伸ばそうとすると,娘はふるふると首を横に振った.
「・・・どうしたの?」
「お父さんにも見てもらうのっ」
「・・・・・・・」
娘の返答に,なぜだか私は少しばかりのめまいを覚える.
そしてそれから,ちょっと苦笑いになった私・・・
「「ただいまぁ」」
扉の開く音と共に 夫と下の子が私達に帰宅を告げたのは,その時のことだった.