幼いころ、手を震わせながら初めて触れたときのことを。
両親の営む理容室、休みの日に、2人でこっそり忍び込んだ遠いあの日。あんなにも胸がドキドキしたのは、
はたして、両親に見つかったときの事を思ってだろうか。
それとも、しっかり繋ぎ合った少女の手が、あまりに暖かく、柔らかかったせいだったのか。
「ぼくが、かみのけ、きってあげるね」
そして立ち上る淡い香りと、軟らかな手触りを知り
大きな椅子に腰掛けた少女の、その真紅の双眸が鏡越しに自分の視線とぶつかった。
結局、ただそれだけで、何もできなくなってしまった自分。
きっと全宇宙を見たとしても、あの時の不思議な気持ちには、かなわないだろう。
ずっとこのままで居たい。
願っていたのは自分のはずなのに、いつからか忘れてしまっていたのは、流される自分の弱さのせいだと、今はわかる。
中学校時代、わずかばかりの思い出の中に、瞳の赤、肌の白、そして髪の青は無かった。
あのときに、今の気持ちがあれば、それはきっと極彩色で蘇るはずなのに。
だからこそ彼は忘れない。
2年前、理容室の扉を開けて流れ込んできた、赤と、白と、青が溶け合ったその風景を。
あの時と同じ椅子に座った彼女を見た時のことを。
大人になり、家業を受け継ぎ、自分がどれだけ、時間や想いに対して貧乏になっていたのかを 思い知らされた。
そしてそのときから、2人の時間はまた動き始めたのだった。
「まだあまり伸びてないみたいだよ、レイ」
「いいの。私は月に1度ここに座って、あなたに髪を撫でてもらうのが、何よりも好き」
目の前にある鏡の中の夫と視線を合わせながら、碇レイはささやく様に言う。
想いの糸の行き先は、誰にも分からない。
どこまで繋がっているのか。
誰に繋がっているのか。
でも、たとえ迷いながらでも、間違えながらでも、ゆっくりと手繰り寄せることができたなら、その2人は幸せだ。
「僕はね、レイ。君と一緒だと強くなれる。これからもずっと側に居てほしい」
碇シンジは、これから先もずっと、心を込めて妻を愛していくだろう。
足りなかった言葉の分だけ。
あの頃、気づくことが出来なかった想いの分だけ。
そして、他のどんな物よりも、大切なものを与え続けてくれるお礼に。
碇レイはいつも嬉しく思う。
大切な人の心が聞こえることを。
そう思える人に巡り合えたことを。
同じ世界に生まれたことを。
同じ時間に生きていることを。
「あなたと一緒ならどこだって、そこは天国になるわ」
レイが、自分の髪を滑っていく夫の手をとりながらささやく。
シンジは、そんな言葉を遠い昔にも、何処かで誰かに聞いた気がした。
VISIさんとは、「めぞんエヴァ」内で、御近所付き合い(笑)をさせていただいている、鈴木と申します。
今回、VISIさんがHPをたちあげた、と聞きまして、「これは何か贈らせてもらわなくてはっ」
と思い、書いたのがこのお話です。(VISIさんは迷惑だ、って噂もあるが(笑) )
レイの髪をネタに何か書きたいな、とは前々から思っていたんですよ。それで、更新記録を読んで
「これだ〜!」と思い、パクらせていただきました(爆)
・・・・素敵な設定なのに、こんなのしか書けなくて、ゴメンナサイ(^^;
と、いうわけで(どんなわけ?)機会がありましたら、また懲りずに投稿しますので、その時にまた御会いしましょう(^^)
じゃねっ!
このHP初の投稿作品「遠い風景」を寄せてくださいました♪
鈴木さんからは開設祝いのお手紙をいただいていたのですが,
実はその際に投稿の打診を受けていました.もちろん二つ返事でOKしたのですが,まさかこんなに早く,
しかもあのポスターネタの作品が来るとは思いもよりませんでした.非常に嬉しい誤算です(^^).
お話を拝見しますと,言葉に無駄が無くて「あ.シンジ君だ」「あ.レイちゃんだ」をすぐに感じさせてくれますね.
「あのポスターの魅力をもっと引き出せたらなあ〜」と思っていた管理者だけにこの作品に万々歳です.
訪問者の皆さん,この作品が気に入りましたらぜひとも鈴木さんに感想メールを送ってくださいね.