Bond's Lab
 
 
 
 
T/Sパラーメーターの解説

本稿は、英語版Wikipedia 「Thiele/Small」の項をBond's Labが日本語に翻訳したものです。詳しくは、本稿のクレジットをご覧ください。

Thiele/Small(ティール/スモール)

ふつう「Thiele/Small」といえば、特定の低周波数域におけるスピーカーユニットの性能を定義するた めの、一組の電気的なパラメーターのことを指します(*1)。ユニットのメーカーは、これらのパラメーターをスペックシートに記載します。デザイナーがス ピーカー(*2)を設計するとき、既製品ユニットの中からどれを選択すべきかの指針を得られるようにするためです。パラメーターの厳密な定義は、多くが共 振周波数においてでしか行われていません。しかし、そのアプローチ方法は、コーンの大半がピストン運動する周波数範囲でも広く適用可能なものです。それは つまり、コーンが分割振動することなく、一体となって内側と外側に移動する周波数領域ということです。

スピーカーのデザイナーは、これらのパラメーターを利用して、コーンの位置、速度、加速度をシミュレートするか もしれませんし、ユニットやエンクロージャーまでを含んだシステムの入力インピーダンスや音響出力をシミュレートするかもしれません。スピーカーのデザイ ナーがよくやるのは、既製品のユニットを買ってくるのではなく、自分の好みのものを作ってしまうことです。自分が欲しい性能を定義し、そこから逆戻りして パラメーターを割り出します。そして、そのパラメーターで定義される特性のユニットを自ら製造したり、メーカーに発注したりします。このような、目標とす るレスポンスからパラメーターを生成するプロセスは、合成的手法として知られています。「T/Sパラメーター」という呼び名は、スピーカーの合成的手法の 先駆者である、オーストラリア放送委員会のA. Neville Thieleとシドニー大学のRichard H. Smallに由来します。

歴史

スピーカーエンクロージャー設計の進歩と、Harry F. Olsonなどの理論音響学者による音響的等価回路を使った分析は、マサチューセッツ工科大学のLeo L. Beranekが「音響学」という著書を出版した1954年まで続きました。その著書は、その時代の電子音響工学をまとめ、さらに発展させたものでした。
J. F. Novakは、1959年の論文で、非常に単純化された仮説を分析に用いました。その論文は、与えられた箱入りスピーカーのレスポンスを改善するための実 践的な解決方法を導き出すものでした。また、その仮説の有効性が測定実験によって実証されました。
1961年、Novakの研究に大きく傾倒したA. N. Thieleは、密閉型エンクロージャーとバスレフ型エンクロージャーについて連作した論文「アライメント」を、オーストラリアの雑誌で発表しました(そ れは、特徴的な性質を持つフィルター回路理論に基づくエンクロージャー設計についてのもので、周波数レスポンス、電力供給、コーンの動作などを含んでいま した)。その論文は、1971年に「Journal of the Audio Engineering Society」で再度発表されるまで、オーストラリアの外ではあまり知られないままでした。しかし、注意すべき重要な点があります。それは、 Thieleの理論はエンクロージャーの損失を軽視していたということです。彼の理論は当時のブレークスルーではありましたが、彼が考案したアライメント テーブルは、現実世界においては今やほとんど役立たないものになってしまいました。

1960年代から1970年代の初めには、その他の多くの人々が様々な視点からスピーカーエンクロー ジャー設計の研究を続けていました。1968年から1972年にかけて、J. E. Bensonはオーストラリアの雑誌に3つの論文を発表しました。その論文は、密閉型、バスレフ型、パッシブラジエター型を完全に網羅するものでした。
1972年6月の初め、Richard H. Smallは、非常に影響力のある一連の論文を「Journal of the Audio Engineering Society」で発表しました。それはThieleの理論を再構成し、さらに発展させたものでした。この論文は、もともと、彼が大学院に通ったオースト ラリアで発表されたものでした。そして、その大学院で彼の論文の指導主事をしていたのがJ. E. Bensonでした。
BensonとSmallの論文はかなりの部分が重複していますが、その違いは、Bensonが論文にコンピューターアルゴリズムを用いたのに対し、 Smallはアナログシミュレーターを用いたことです。いずれの研究者も、スピーカーシステムの分析にはエンクロージャーの損失を含めていました。

基本の機械的小信号パラメーター

このT/Sパラメーターは、スピーカーユニットを小さな信号レベルで測定したときの物理的なパラメーターです。 電気的等価回路モデルにおいて使われます。この中には、完成した状態のユニットでは測定困難かつ不便な値もいくつかあります。そのため、既製品のユニット を使ってスピーカーを設計する場合(ほとんどがこのケースでしょう)、より簡単に測定できる「小信号パラメーター」を使うほうが現実的です。「小信号パラ メーター」は、次の節で取り上げています。

Sd

ユニットの振動版の投影面積を「u」で表したものです。

Mms

音響負荷を含む、振動版とコイルの質量を「kg」で表したものです。振動版とコイルだけの質量は、Mmdと して知られています。

Cms

ユニットのサスペンションによるコンプライアンス(*追従性、柔らかさ)を「m/N」で表したものです(この逆 数がスティフネスです)。

Rms

ユニットのサスペンションが持つ機械的抵抗(つまり損失)を「N・s/m」で表したものです。

Le

ボイスコイルのインダクタンスを「mH」で測定したものです(周波数に依存します。通常は1 kHzで測定されます)。

Re

ボイスコイルの直流抵抗を「Ω」で測定したものです。

Bl (*3)

ボイスコイルギャップにおける磁場の強さと、磁場内にある巻線の長さの積を「T・m(テスラメートル)」で表し たものです。

小信号パラメータ

このT/Sパラメーターの値は、ユニットの共振周波数付近の入力インピーダンスを測定することによって確定する ことができます。ユニットの機械的動作が入力信号に対してきちんとしたリニア動作になるよう、小さな入力レベルで測定します。これらの値は、前節の基本パ ラメーターよりも容易に測定できます。

Fs - ユニットの共振周波数

Fsの式

Qes - ユニットのFsにおける電気的共振先鋭度

Qesの式

Qms - ユニットのFsにおける機械的共振先鋭度

Qmsの式

Qts - ユニットのFsにおける総合共振先鋭度

Qtsの式

Vas - 等価コンプライアンス空気体積

Sd(ピストン動作する領域の投影面積)の作用によるコンプライアンス が、ユニットのサスペンションによるコンプライアンスと同じになるような空気の体積。
Vasの式
ここでρは、空気密度(25℃において1.184 kg/㎥)、cは音速(25度において346.1 m/s)。SI単位系を使った場合、計算結果は「㎥」になります。Vasをリットルで得るには、計算結果を1000倍しま す。

大信号パラメーター

このT/Sパラメーターは、大入力時にユニットがどれだけの音響出力を出せるか、大まかに予想するのに便利で す。しかしながら、これらの正確な測定は困難です。

Xmax

コーンの最大リニア動作可動域(時に最大振幅)を「mm」で表したものです。機械的な要因により、振幅が大きく なると(特にこのパラメーター値を越える振幅では)コーンの動きは非線形になっていくことに留意してください。

Xmech

物理的な損傷を生じない範囲での、機械的最大可動域です。入力が非常に大きくなると、その振幅によってボイスコ イルやその他の可動部品が損傷します。

Pe

熱的な最大許容入力を「W」で表したものです。この値を特定するのは難しく、メーカーなどはしばしばこの値を過 大評価します。

Vd

最大振幅体積です。次の式で計算されます。
Vdの式

その他のパラメーター

Zmax

Fsにおけるユニットのインピーダンスです。QesやQmsの 測定時に使われます。
Zmaxの式

EBP

能率-帯域幅積(*4)のことで、大まかな指標となる測定値です。おおざっぱな一般的指標は次の通りです。 EBP>100のとき、バスレフ型エンクロージャーが恐らく最良です。EBP<50のときは、密閉型エンクロージャーです。50<EBP<100のとき は、恐らくどんなタイプのエンクロージャでも適合するでしょう。
EBP

Znom

スピーカーの定格インピーダンスで、一般的には4Ω、8Ω、16Ωのいずれかです。

η0

基準入力または許容入力におけるユニットの能率を「%」で表したものです。
η0の式
式ρ/2πcは、5.445×10-4(u・s/kg)という値に置き換えられます(ただし、 25℃の乾燥した空気の場合。25℃で相対湿度が50%の場合は、5.365×10-4になりま す)。
公表されている代表的なパラメーターを適用して計算がより簡単になるように変形した式は、
η0の式その2
式4π2/c3は、9.253×10-7(s3/m3) という値に置き換えることができます(ただし、25℃の乾燥した空気の場合。25℃で相対湿度が50%の場合は、9.438×10-7に なります)。

感度レベル

能率から感度レベルを算出することもできます。感度レベルとは、次のような入力が与えられたときの音 圧レベルのことをいいます。
能 率が100%(1.0)のスピーカーの場合、1 Wの入力に対して1 Wのエネルギーを放射します。無限大バッフルに取り付けた点音源ユニットを想定すると、そこから1 mの地点ではエネルギーは底面積が2πuの半球状に分布し、その音の強さ(*音響インテンシティ)は1/2π=0.159154 W/uになります。このときの音圧レベル(SPL)は112.1 dBになります。これは基準気圧2-5 Pa(パスカル)を基準としたデシベル値です。
以上から、感度レベルは次の式で計算できることがわかります。入力を1 Wとする方法と2.83 Vとする方法の2通りがあります(*5)。

 感度レベル@ - 入力1 W、距離1 mにおける音圧レベル
 dB (1 watt) = 112.1 + 10 log(η0)

 感度レベルA - 入力2.83 V、距離1 mにおける音圧レベル
 dB (2.83 V) = dB (1 watt) + 10 log(8/Re) = 112.1 + 10 log(η0) + 10 log(8/Re)

各パラメーターの特性

スピーカーユニットの各部名称

Fs

F0(エフゼロ)とも呼ばれ、「Hz」で表します。運動エネルギーとコンプライ アンスの組み合わせが最大となり、そして、コーンの動作速度は最大となる周波数です。
コンプライアンスが大きくなるほど、あるいは可動部の質量が大きくなるほど、共振周波数(*つまりFsのこと)は低くなり ます。逆もまた同じです。通常、Fsより低い周波数では能率は低下します。また、Fsより もずっと低い周波数では振幅が大きくなり、ユニットに機械的な損傷を与える危険があります。
ウーファーのFsは、一般的には13〜60 Hzの範囲に入ります。ミッドレンジユニットでは60〜500 Hz、ツィーターでは500 Hz〜4 kHzの範囲に入るのが普通です。Fsのスペック値に対する工場出荷時のばらつき は、通常±15%くらいあります。

Qts

Fsにおける総合共振先鋭度です(*6)。単位のない測定値で、ユニットの電気 的なダンピングと機械的なダンピングを合成した総合ダンピングを決定付ける要素になります。
共振先鋭度(Q値)というのは、電気的にはダンピングレシオの逆数です。Qtsの値は、供給されるエネルギーに比例して大 きくなり、失われるエネルギーが大きければ小さくなります。Qtsは、共振周波数(Fs) において測定します。
Qts値が0.2〜0.5程度のユニットが大半ですが、一般的ではないにせよ、この範囲を超えるユニットがあったとしても 不思議ではありません。

Qms

Fsにおける機械的共振先鋭度です(*6)。単位のない測定値で、ユニットの機 械的なダンピングを決定付ける要素になります。機械的ダンピングとは、サスペンション(エッジやスパイダー)による損失のことをいいます。
大まかには0.5〜10程度の値になりますが、普通は3程度です。Qmsが大きければ、機械的損失は小さいということにな ります。Qmsが小さければ、機械的損失は大きいわけです。Qmsの影響は、おもにユニッ トのインピーダンスに表れます。Qmsの大きいユニットは、インピーダンスの山も高くなります。
Qmsを小さくする方法の1つとして、ボイスコイルを金属製のボビンに巻くというものがあります。これは、渦電流を抑える ブレーキとして働くとともにダンピングを大きくします。その結果、Qmsは小さくなります。これを実現するには、シリン ダー内に電気的なブレーキを持つような設計をする必要があります(ただしループ回路としては働かないように)。
いくつかのスピーカーメーカーは、ボイスコイルが磁気ギャップから離れるのを防ぐために、トップからボトムまでの巻幅を小さくしています。しかし、ユニッ トが過大入力になったときに発生する鋭いノイズは尋常でなく、ユーザーはこれは問題だと感じるようになったのです。Qmsの 小さいユニットでは、紙や種々のプラスチックでできた絶縁性ボビンが使われています。

Qes

Fsにおける電気的共振先鋭度です(*6)。ユニットの電気的なダンピングを決 定付けるもので、値に単位は付きません。
導 線を巻いたコイルが磁場の中を移動するとき、コイルの動きを妨げるような電流が発生します。このいわゆる「逆起電力」(Bl×速度に比例する)は、共振周 波数付近においてコイルを流れる総合的な電流を減少させます。また、逆起電力は、コーンの振幅を小さくし、インピーダンスを増大させます。ほとんどのユ ニットでは、Qesはボイスコイルのダンピングに関して最も支配的な要素となります。
Qesは、アンプの出力インピーダンスに依存します。前述の計算式は、出力インピーダンスがゼロであることを前提としたも のです。出力インピーダンスがゼロでないアンプ(*7)を使用してQesを算出する場合は、出力インピーダンスの値をReに 加える必要があります。

Bl

「T・m(テスラメートル)」で表します。厳密には、B×l または B×l sinθ(ベクトル積)ですが、ユニットの標準的なジオメトリー(つまり、円形のボイスコイルギャップの中に輪状のコイルが配置されている状態)では sinθ=1 となります。
B×l は、「駆動力係数」としても知られています。磁石がコイルを動かそうとする力は、B×l とコイルに流れる電流との積になるからです。B×l が大きければ、ボイスコイルに流れる電流が一定であっても、駆動力はより大きくなります。B×l は、Qesに非常に大き な影響を及ぼすのです。

Vas

ユニットをフリーエア状態(*コーンをいっさい密閉しない状態)にして測定した、サスペンションのスティフネス (*コーンの動きやすさ)の値です。これをリットルまたは「㎥」で表すのです。
コーンの投影面積(Sd)と同じ面積を持つピストンを想定しましょう。ユニットのサスペンションによるスティフネスをこの ピストン内の空気体積で表すのです。仮想ピストンによるスティフネスが、ユニットのサスペンションによるスティフネスと同じになる空気体積を考えます。こ の空気体積がVasに相当します。
値が大きくなるほどスティフネスは小さくなり、一般的にはより大きなエンクロージャーが必要になります。Vasは直径の2 乗につれて変化します(*8)。公表されたVasのスペックに対する出荷品のばらつきは、±20〜30%くらいです。

Mms

可動部の質量を表すもので(*6)、単位は「g」または「kg」です。これは、ユニットのコーン、コイル、その 他の可動部品の質量、そして、コーンに触れている空気によってもたらされる音響負荷を含めたものです。Mmdのほうは、 コーンやコイルの質量のみで、音響負荷は含みません。MmsとMmdを混同しないようにし ましょう。シミュレーションソフトの中には、Mmdを入力するとMmsが計算されるものも あります。Mmdはメーカーによって非常に厳密に管理されています。

Rms

普通は単位を付けないことが多いですが、単位としては機械インピーダンスである「オーム」になります。Rmsは、 ユニットのサスペンションや動作機構による、損失やダンピングの値です。Qmsを決定付ける主な要素になります。Rmsは、 サスペンションの形態や材質、ボイスコイルを巻くボビンの材質により影響を受けます。

Cms

この値は「m/N(メートル毎ニュートン)」で表されます。サスペンションのコンプライアンス(つまりスティフ ネスの逆数)を表すものです。サスペンションのコンプライアンスが大きいほどスティフネスは小さくなり、Vasは大きくな ります。CmsはVasに比例するので、スペックに対するばらつきはVasと 同じです(±20〜30%)。

Re

ボイスコイルの直流抵抗(DCR)で、「Ω」で表されます。この値の最も良い測定方法は、コーンを何かでブロッ クしたり、あらゆる振動から遠ざけたりすることです。そうしないと周囲の音を拾い、Reとは関係のないものまで測定するこ とになってしまいます。
Reと定格インピーダンスを混同しないようにしてください。メーカーはReを厳密に管理す ることができますが、定格インピーダンスは大目に見ても多分に大雑把なものです。米国のEIA規格RS-299Aでは、Reは 定格インピーダンスの少なくとも80%以上でなければならないと規定しています。従って、定格インピーダンスが8ΩのユニットはReが6.4Ω 以上でなければならず、定格インピーダンス4Ωの場合は3.2Ω以上でなければなりません。これは任意規格ですので、定格インピーダンス8ΩでもReが5.5Ω 以下のユニットも多くあります。また、定格インピーダンスが低くなれば、それに合わせてReも低くなります。

Le

この値は、ボイスコイルのインダクタンスで、「mH(ミリヘンリー)」で表されます。ボイスコイルというのは損 失の大きいインダクターです。損失の一部はポールピースによるものですので、見かけ上のインダクタンスは周波数によって変化します。Leの 値が大きいと、ユニットの高域出力は制限されてしまい、カットオフ周波数付近のレスポンスも変化してしまいます。簡易なシミュレーションソフトでは、この Leを考慮していないことがしばしばあり、Leによる影響が含まれません。
イ ンダクタンスはボイスコイルの振幅に応じて変化します。ボイスコイルはポールピースに沿って移動するので、ポールピースがインダクターに対するスライド式 コアとして働くことになります。一般的な外磁型構造のユニットでは、コイルがポールピースの中ほどに位置するときはインダクタンスが増加し、端に位置する ときはインダクタンスが減少します。このインダクタンスの変調現象は、スピーカーの非直線性(歪み)の大きな原因になります。一般的なユニットでは、ポー ルピースに銅のキャップやショートリングを取り付けると、高周波数域で見られるインピーダンスの増大を抑えることができます。また、インダクタンス変調に よる非直線歪みも改善することができます。

Sd

コーンやダイヤフラムの有効投影面積で、「u」で表されます。Sdを測定するの は難しいうえ、コーンの形状やエッジの特性に大きく依存します。一般的には、コーン本体の直径にエッジの幅の1/3〜1/2を加えた領域の面積をSdと みなします。フレームの直径が同じユニットを比べると、従来型のエッジ(*9)よりも、幅広のロールエッジのほうが著しくSdは 小さくなります。

Xmax

コーンの最大リニア動作可動域(*6)で、「mm」で表されます。最も単純な計算方法としては、磁気ギャップの 高さからボイスコイルの巻き幅を引いた絶対値を2で割った値になります。この手法はJBLのMark Ganderによって提案されたもので、それについての論文は、スピーカー駆動源の直線動作領域を示す指針として、1981年に「Audio Engineering Society」誌で発表されました。この方法は簡単ですが、磁力と機械的な非直線性や非対称性を無視しています。しかし、ユニットによってはこれらは決 して無視できないことがあるのです。
その後、機械的測定と音響的測定を組み合わせた測定方法が提唱されました。それは、低周波数域においてユニットをドライブするレベルを徐々に大きくしてい き、出力の全高調波歪率(THD)が10%になる点を探します。そして、そのときの振幅を測定することによりXmaxを決 定します。この方法のほうがユニットの実際の性能により近い値が得られますが、測定はより難しく、時間もかかります。

Pe

熱的な最大許容入力のことで(*6)、単位は「W(ワット)」です。ただ、「RMS」と「ミュージックパワー」 (またはピークパワーやシステムパワー)の2種類が記載されることがしばしばあります。通常、ピークパワーはRMSの2倍程度になります。スピーカーの動 作原理は複雑ですので、1つの値ですべてを満たすことは難しいのです。
パワーの対処方法には、熱的と機械的の2つの側面があります。熱に対する耐 久性は、コイルの温度がどこまで上昇するかということと、接着剤やコイルの絶縁体が溶解したり変形し始めたりする温度と関係します。機械的な限界は、低周 波領域で現れます。それは振幅が最も大きくなる領域で、一部の構成部品の故障につながります。200 Hzでの最大許容入力が熱的に200 Wあるスピーカーでも、例えば10 Hzといった非常に低い周波数になると、ときにはたったの数Wでダメージを受けてしまうことがあります。
最大 許容入力のスペックは、通常は破壊試験によって決められます。破壊試験は、工業規格で定められたノイズ信号(例えばIEC 268)を与えることで行われます。フィルターでノイズ信号の低周波をカットし、ユニットの熱的な耐久性のみをテストします。機械的な最大許容入力は、実 際にはユニットを取り付けたエンクロージャーに大きく依存します。

Vd

「リットル」で表されます。コーンによって押し出される体積のことで、SdとXmaxの 積に等しくなります。Vdをある目標値まで持っていく方法はいくつかあります。例えば、コーンが小さいならXmaxを 大きくすればよいし、コーンが大きければXmaxは小さくて済むのです。Vdの値を比較す れば、ユニットが持つ低域の最大出力についての指標を得ることができます。
Xmaxが大きくてコーンが小さいユニットは、恐らく能率が低いでしょう。なぜなら、ボイスコイルの巻きの相当部分が常に 磁気ギャップの外側にはみ出してしまうからです。このはみ出した部分は、コーンを駆動するのにほとんど寄与しません。これと同じように、コーンの直径が大 きくXmaxが小さいユニットは、長いボイスコイルを持たないため能率が高いでしょう。このタイプのユニットでは、磁気 ギャップから大きくはみ出すほど長いボイスコイルは必要ないのです。

η0 - 基準能率

「%」で表します。ユニットの比較には、感度レベルよりもこの基準能率を使ったほうがより役立つことが多いので す。メーカーが発表する感度レベルは、いつも楽観的過ぎるからです。

感度レベル

スピーカーに特定の入力を与えたときに生じる音圧を「dB」で表したものです。通常は、1 Wの入力または2.83 Vの入力(8Ωの負荷に対して2.83 Vの電圧をかけると1 Wになる)を与え、1 m離れた場所での音圧を記載します。

測定ノート―大信号での動作

T/Sパラメーターの使用や解釈にあたっていくつか注意してほしいことがあります。まず重要なことは、1つ1つ のユニットはメーカー発表のスペックと一致しないだろうということです。パラメーター値が製造された個々のユニットから測定されることはまずありません。 それは、製造を続けている中での平均値にすぎません。製造上のばらつきは避けられないからです。一般に、ユニットの特性は、ある公差範囲内(ときには公表 されることもありますが)に納まるものです。Cmsは最も管理の難しいパラメーターですが、通常のばらつきの程度であれば最終的なレスポンスに大きな影響はありません。

理解してほしい重要な点がもう1つあります。大半のT/Sパラメーターは、直線動作領域である小信号レベルにお ける値だということです。T/Sパラメーターに基づく分析結果は、ユニット動作についての理想化された見方にすぎません。なぜなら、どんなユニットであろ うと、入力レベルやボイスコイルの温度などによってT/Sパラメーターの値は変化しますし、経年変化も起こるからです。コイルが静止位置からより遠くへ移 動するほど、Cmsは小さくなります。Blは、一般的に、静止状態のとき最大となり、ボイスコイルがXmaxに近づくにつれて低下します。Reはコイルが熱くなると大きくなります。一般的に、270℃で2倍程度の値になります。270℃というのは、多くのボイスコイルが熱で故障しはじめる(あるいはすでに故障してしまっている)温度です。

一例としてですが、FsやVasは入力レベルによって相当に変化するかもしれません。非直線性のためにCmsが変化するからです。平均的なフルレンジユニット(直径110 mm)で、信号レベル0.5 VでFsが95 Hzだったものが、5 Vでは恐らく64 Hzまで下がるでしょう。信号レベル0.5 VのときVasが7リットルだったユニットを4 Vでテストすれば、13リットルへの増加を示すでしょう。Qmsは、入力レベルには関係なく、一般に数パーセントの範囲内で安定します。QesやQtsの場合、入力レベルが0.5 Vから4 Vに増加したときの減少幅は13%以下です。これは、Blが変化するためです。
Vasが著しく増加し、Fsがかなり低下しながらも、Mmsの測定値はそれほど変化しないことがあります。そのため、入力レベルが0.5 Vから4 Vに増加すると、算出される能率の値(η0)は30%以上の減少を示すことがあります。もちろん、実際にはユニットの能率はまったく変化していません。計算で得られる能率が正確なのは、一定の条件がそろっているときだけなのです。
こ れらの例から次のことが分かります。それは、エンクロージャーやシステムを設計する際に採用したパラメーター値は、恐らく平均的な動作状態を表すものにす ぎないだろうということです。不運にも、この入力レベルというものは任意に変えられるべきものです。なぜなら、音楽を再生している間、動作状態は常に変化 し続けるからです。一般的に、レベル依存の非直線性が存在すると、予想よりも低い出力しか得られず、再生帯域幅も狭くなります。

ボイスコイルに生じるジュール熱(*10)が引き起こすレベル変動は、パワーコンプレッションと呼ばれていま す。非直線性を抑えるための設計技術は、パワーコンプレッションの低減にも役立つでしょうし、パワーコンプレッション以外の要因で引き起こされる歪みも低 減するでしょう。
市販ユニットの設計においては、マグネット機構を冷やすための構造を含め、以前からいくつもの設計手法が存在しています。それ は、パワーコンプレッションの原因となるボイスコイルの温度上昇、そして、それに伴う抵抗値の増加を和らげることを意図しています。マグネットやコイルを 巧みに配置してBlの直線性を改善しLe値の上昇や変調を抑制する、そのような洗練された設計手法は以前から使われているのです。
大きくて直線性の良いスパイダーは、Cmsの直線領域を拡大するでしょう。ただし、ダイナミックオフセットを避けるために、大信号でのBlとCmsのバランスを取らなくてはなりません。

ユニット動作の経年変化

一般的なユニットの機械的な構成部品は、時間とともに恐らくは劣化します。紙はコーン作りのポピュラーな材料で すが、湿気を吸いやすく、放っておくと構造上の剛性が失われるでしょう。樹脂などの水に強い材質でコーティングすると、この問題は軽減されるかもしれませ ん。ひび割れによっても構造上の剛性は損なわれます。そして、たいていそれは修理不能です。
温度の影響は強く、またその影響は一般に可逆的です。サスペンションの素材は、低い温度では硬くなります。
サスペンションは、化学的ないし環境的な影響によっても変質します。その影響は、紫外線の暴露や酸化による経年変化と関係があります。それらは発砲ゴムや 天然ゴムを劣化させますが、ブチルゴム、二トリルゴム、スチレンゴム(SBR)、ゴムと合成樹脂との混合物(例えば「サントプレーン」など) (*SantopreneTM:エクソンモービルの商標)はより安定しています。発砲ゴムは、大抵は10〜15年もするとぼろぼろになってしまいます。
経年による動作の変化がはっきり明確な形で現れることはめったにありません。そして、使用環境が主な要因となるため、その影響は予想が困難です。イギリス のワーフデール・スピーカー(*Wharfedale Loudspeakers)を創立したGilbert Briggsは、1950年代から1960年代にかけて、スピーカーユニットにおける劣化の影響についていくつかの研究を行いました。その資料のいくつか は、彼が出版した「ラウドスピーカー」という書籍に掲載されています。

使用するにつれ可動部品に対して起こる機械的な変化というものもあります。ただしこの場合、機械的変化 の多くは、ユニット使用開始後の早い段階で起こるようです。そのほとんどは、ユニットの機構部品(例えばエッジやスパイダーなど)のバネ(しなり)が弱く なるために起こります。使い始めの数時間でT/Sパラメーターに相当な変化が起こることを立証した研究がいくつも発表されています。一部のパラメーター は、使用の初期段階で15%以上も増大するというのです。別の研究では、使い始めのわずか数分後におこる小さな変化もしくは可逆的な変化について示唆して います。この変化には、ある素材の特性が大きく関係しており、信頼のおけるメーカーはこれをきちんと考慮しています。
発表されたスピーカー評価の 中には、そのような変化による聴覚的な影響についての逸話に富んだレポートが実にたくさんあります。その一方で、そのような初期変化と音質についての主観 的なレポートとの関連性は、完全には明確になっていません。ユニットの使用初期におけるいくつかの変化は相補的です(例えば、Vasの増大にはFsの低下が伴うように)。そして、周波数レスポンスの正味の変化は、結果的に非常に小さなもの(1 dB以下の小さな端数)でしかありません。
高次の(複雑な)イコライジングや強いイコライジングをかけたシステムのように極端な特性を持つスピーカーシステムの場合、T/Sパラメーターを測定する前に一定時間のエージングを行って、パラメーター変化の「アタリ」を出しておくのが賢明です。

測定のテクニック

T/Sパラメーターを測定する方法はたくさんありますが、最も簡単なのはユニットの共振周波数付近の入力イン ピーダンスを利用する方法です。インピーダンス測定は、例えば次のような方法で行われます。ユニットはフリーエアの状態にします(ユニットをエンクロー ジャーから取り外し、据え付け用の台にしっかりと固定したり、ワイヤーで吊ったり、ときにはマグネットを下にして平らな台の上に置いたりします)。また、 ユニットを試験用のバッフル板に取り付けたり、密閉型やバスレフ型の箱に取り付けたり、さまざまな重さのおもりをコーンに貼り付けたりもします。測定場所 でのノイズは測定に影響を及ぼす可能性がありますので、パラメーターの測定は静かな環境で行う必要があります。

コンピューター制御による測定技術が出現する以前の最も一般的な(そしてDIYで簡単にできる)方法は、伝統的 なフリーエアでの定電流駆動法です。これは、1961年にThieleが述べたものです。この方法では、ユニットと直列に大きな抵抗(例えば500〜1 kΩ)をつなぎます。そして、シグナルジェネレーターを使い、周波数が変化していく信号でユニットをドライブします。スピーカーの接続ターミナル両端の電 圧を測定し、その電圧はインピーダンスと比例するものとみなします。この方法は、スピーカーのインピーダンス変化が、スピーカーを流れる電流値にほとんど 影響を受けないという仮定に基づいています。これは近似値にすぎません。この方法では、ユニットのZmaxが高めに出るために、Q値(共振先鋭度)の測定値に誤差を生じます。

2つ目の方法は、定電圧駆動法です。これは、一定の電圧でユニットを駆動し、コイルを流れる電流値を測定する方法です。このときの駆動電圧を測定された電流値で割った値がインピーダンスと等しくなります。

この2つの方法に共通した誤差の要因は、安価な交流テスターの使用です。最も安価な交流テスターは、住宅用交流 電源の周波数(50〜60 Hz)で測定するように設計されており、これ以外の周波数(例えば40 Hz以下や数百Hz以上)ではますます不正確になります。そのうえ、歪んだ波形やサイン波以外の信号も誤差の要因になる可能性があります。安価なテスター は、そもそも電流の測定もそれほど正確ではなく、内部抵抗の大きさも無視できません。これも測定値の誤差の要因になります。

3つ目の方法は、これら2つの方法の欠点に対する回答ともいえるものです。この方法では、ユニットと直 列につなげる抵抗により小さなもの(例えば10Ω)を使います。そして、共振周波数付近における3つの電圧値、つまり、ユニットにかかる電圧、シグナル ジェネレーターが発生する電圧、直列抵抗にかかる電圧から結果を得ます。正確なインピーダンス値と位相の取得を可能にする背景には、ある計算の存在があり ます。それは、長々とした退屈なもので、手作業で行われることはあまり使われませんが、計算そのものは単純です。この方法は、コンピューターを使ったス ピーカー計測システムの多くが採用しています。この方法を使って計測を行う場合、3つの測定値そのものより、それらの測定値の比率のほうがより重要になっ てきます。この方法では、測定機器の周波数レスポンスが貧弱でも、その影響は取り除かれるからです。

こちらも参照のこと

参考文献

外部リンク