新しい町に着いたら、まず汽車站(バスターミナル)に行ってみる。 だが未開放区に立ち入った時は話が別だ。 ←↓アバ州で出会った高山植物たち 公安局は一本路地の奥まったところにある小さな学校のような建物だった。 ミ金川の地図 ついにぼくは自分から、「100元以下だったら払えます」などと言ってしまった。 連れてこられた金川賓館は予想外に安く、別室ながらホットシャワーが出て、7元つまり100円であった。 ミ丹巴のチベット族の民家
こんなことがあるとどうしても気分は暗くなる。「夜間、食事に出てもよい」と許されていても、何がなし路上では背後を視線を感じるようで落ち着かないものだ。 こんな奥地、しかも非開放域市でインターネットができるなんて! ミ四川省の少数民族・羌族の民族衣装

そこには、行き先を漢字で大書したプレートを貼った大小のバスが並び、また候車場(待合室)ではどんな町や村に路線が延びているかが一目で分る。日本人にとって「中国は旅がしやすい」と感じる時だ。欧米人が持つロンリープラネットなどでは、中国の地名も英語読みだ。成都は「Chengdu」というように。だから、中国人が傍にいて言葉で聞く時は彼らの方が便利だが(日本語のセイトと言っても意味不明)、地図を見るときには苦労するだろう。
汽車站を覗く時間は、「明日はどこまでたどり着けるだろう」と胸を膨らませる一瞬でもある。時刻の他に料金も明示されている。勿論、われわれにとっては安い。東チベットの場合「バス半日の行程で300〜500円」が相場だろうか。
昼過ぎにマルカムを出たバスは、大渡河沿いの数百mの懸崖をすりぬけて――途中道路工事のために足止めをくいながらも――日没前に金川の町についた。
メインストリートに並ぶ「招待所」の看板を見つけて門をくぐる。
「まあこの店構えならば一泊200円くらいかな……」
だが宿の主人はぼくの靴を見るなり「日本人だろ。すぐに公安に行きなさい」と言い、10歳位の息子に「護送」を命じた。しかたなく荷を背負い直してトボトボと歩きだす。途中からその子の友達が集まってきて、ぞろぞろと列をなす。刑場へひかれる気分だ。外国人が珍しいのか、道ゆく人びともぼくを目で追う。


日曜日ゆえ公安は不在で、守衛が電話で担当者を呼んでいる。子どもたちが片言の英語で話しかける。氏名を言ったり年齢を言い合ったり。笑いながら対応しているが内心は不安がよぎる。罰金ならともかく、フィルムやスケッチの没収は避けたい。今どき、勾留ということはないだろうが……。
やがて来たのは無愛想なスポーツ刈り・サングラスの制服の男。漢民族のようだ。室内に導いて机の前に座らせられる。人定質問から始まる。
「君は知らないかもしれないが、ここ金川は非開放区だ。宿泊だけでなく通過するためにもマルカムでパーミットを取ってこなければならない」と事務的に言い放つ。
「マルカムに戻っていたら2〜3日のロスがでる。ぼくはただ丹巴へ抜けて玉樹に行きたいだけなんだ。今夜はもう車がないから、明朝一番のバスでここを離れる」
すると公安は急に笑ってこう言う。
「君がポリスならこんな時どうする?」
「えっ」 ぼくは答えに詰まった。
「いくらの罰金だったら、君は『許す』かね?」……
白い壁の無機質な取り調べ室の壁には、巨大なレーニン、マルクス、毛沢東の肖像画、そして「厳格執法」などのスローガンが貼られている。公安は黙ったまま、ぼくにしゃべらせようとしていた。泊る場所を決めずに日没を過ぎると、人間は急速に不安感が増してくる。
負けである! 彼は急にまじめな顔になって頷くと、再び職務に忠実な公務員に戻ったように、調書に記入を始めた。財布から10元札を10枚数えて差し出す。彼は受け取ると別室に消えた。100元といえば、このあたりの月収の5〜6分の1だ。ぼくは領収書を貰えない。あのお金はどこに行ったのだろうか。
取り調べから30分、ぼくは件の公安に連れられて指定宿に向っていた。結局「罰金」支払いによって、一晩の暫定滞在が認められたわけだ。ここ金川ではぼくが「今年初めての日本人」だそうで、西洋人を入れると20人くらいが「摘発」されているらしい。「その度にこの男は『罰金』を手にするのか」とふと考えてしまった。
「でも、マルカムも丹巴も松藩も開放されているのに、ルート上のここだけがなぜ非開放なんですか?」
「政府の方針だからねえ……」としか答えなかった。

それでも四川省のメシは美味い。炒め物がメインで、素材の名を知らなくても、厨房に入れてもらって「これとこれを、チャオ(炒)ね!」と頼めば、味で外すことはほとんどない。ご飯はパサパサしたインディカ米だが、おかずと一緒なら御馳走である。
満腹になれば少しは気分も上向くものだ。一人旅では、その時の腹具合の如何によって、その町や風景の印象まで変わってくる。ぼくはようやく金川の夜のストリートを見てやろうという気になっていた。
小さな倉庫のような店内にコンピュータが5台ほど並び、子どもたちがゲームに熱中している。少年のような店員に「インターネットができるか?」と聞くと、頷いて一台のウィンドウズマシンに座らせる。アナログ回線のためモデム接続に時間がかかるが、オンラインを示す表示が右端まで達し、やがてウィンドウが開く。世界に繋がったのだ。
HotmailとNiftyをチェックする。共にウェブメール(ブラウザ上で送受信する)の機能を持ち、特にHotmailは全て無料であるために、最近では多くのバックパッカーが個人アドレスをここで取得する。自分も、相手も、世界中どこにいても、インターネットカフェがあれば互いにメールをやりとりできる、強い味方だ。
平均してインターネット接続は30分80〜100円程度。何人にでも送信できる。中国では、郵電局で順番を待って電話をかけるより手軽である。
ミ陸封された土魚(トウユィ)。殺生を嫌うチベタンはあまり食べない
→ここには予定調和はない
↓戻る