書評 その1
書評「再現不可能な贅の空間」
[アユミギャラリーニュース980601]

 月刊『商店建築』誌に97年まで連載された「旅泊の空間」が単行本として上梓されました。
 北海道から熊本まで30軒の和風旅館を鈴木喜一と写真家の宮本和義氏が訪ね、主に明治期から昭和初期の、日本の木造建築技術の最も成熟した時期の珠玉の空間を綴っています。

 パトロンとしての旦那衆に見込まれ、お抱えの身分となって思いのままに腕をふるった棟梁や職人たちの手仕事、伝統に立脚しながらも大胆に自然や洋風ディテールを取り入れたデザイン、そして何よりもその建物をきっちりと維持し、慈しみながら使い続けた旅館の人々……、全国をまたに掛けた取材行はまさに時空をさかのぼる旅のようだったといいます。

 北の海が鰊漁で沸いた時代を彷彿とさせる北海道寿都の「鰊御殿」や、創業238年を誇る信州の渋温泉「金具屋」の木造4層楼、江戸時代からの民家を移築して旅館とする岐阜中津川の「長多喜」、洗練された数寄屋の茶室で知られる京都南禅寺の「菊水」、そして楢村徹氏が改装を手掛けた倉敷の「吉井旅館」など、息を呑む瀟洒な旅泊の空間が全頁カラーで迫ってきます。

 現在は、由緒ある宿でも経営的に厳しいところもあるようですが、ここでは「本物のよさ」を残しながら、現代のニーズに合うようにダイナミックに改造を加えた事例や、新しくスタートした「登録文化財制度」の活用にも言及しています。

 巻頭の(社)日本観光旅館連盟会長・西山平四郎氏との対談もよみごたえがあり、図解も交えた「旅館建築用語解説」、全国の木造和風旅館の一覧も便利です。ぜひ一度お手にとってごらんください。

 

商店建築 別冊93
「旅泊の空間」
写真 宮本和義 文 鈴木喜一

商店建築社 定価4,300円+税

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