書評 その2
書評「旅に出ると絵を描く建築家たち」
[陸奥新報 990321]

 外国、それもあまり観光地ではない土地で出会う旅人には、建築を生業とする人が多いと前々から思っていたのだが、この本を読んでやはりそうかと合点がいった。建築家とは、旅が好きな人種なのである! では彼らは旅先で何をするのか? まちや村でたたずみ、見回し、おもむろにスケッチブックを開き、絵を描き始めるのである。

この本も三人の建築家が辺境を旅をして描いた「絵本」なのだが、建築家といっても大きなモニュメントをどんどん建てていく設計者、というイメージとはちょっと違うようだ。壊されつつある全国の民家や町並みの保存・再生に熱意を燃やす吉田桂二氏、あまり新しいモノをつくらないのがいい建築家だなどと言う鈴木喜一氏、風土性にこだわりネイティブ・アメリカンの受難の歴史に思いを馳せる白鳥健二氏。

そんな三人の、三様のスケッチに導かれるままに読者は、中国・東南アジアから北米大陸、南欧からアフリカへと旅をすることになる。建築や集落の説明では「ああ、人間はどんな土地でもそこの自然に逆らわずにしたたかに生きているのだ」ということを学びつつ、専門の狭い領域にとらわれずに、見知らぬ土地を旅する面白さがビビッドに伝わってくるのもいい。パスポートを盗まれた顛末や、スケッチをするだけで言葉も通じぬ地元の人々と仲良くなったり、イスラムと西洋文明との相克の歴史を重ねたり……。

旅の面白さはいろいろあるが、かの地の「生活の原点に触れる」という経験はとても贅沢で貴重なことであろう。一見奔放な旅を続ける三人に、建築ジャーナリストの立松久昌氏が「なぜ旅に出るのか」との問いを発している(巻末座談会)。人工的な世界に囲まれて、おカネに追われせわしく生きている私たちの暮らしを顧みると、ゆったりとした時間の中、自然の恵みを素直に受け入れて生きている人間たちの表情の輝きに、なにがしかの羨望を禁じえない。「物質文明から離れた世界にこそ本当の豊かさがあるのではないか」という著者の一人の言葉は、今の日本のあり方へのアンチテーゼなのかもしれない。

「旅をするとね。異文化を見るまなざしが深くなる。それはすなわち、自分や自分たちの暮らしへのまなざしにもなる……まなざしの深さは、ゆたかさでもある……それが、無意識のうちに建築という仕事につながってゆくと思いますね」(巻末座談会より)

こんな旅好きの建築家が多くなれば、この国の町並みももう少し味わいのあるものになるのではないだろうか。

渡邉義孝(東京を描く市民の会理事)

 

「絵ごころの旅」
吉田桂二・白鳥健二・鈴木喜一著

[A5変形版/190頁/2800円/東京堂出版]

↓戻る