書評 その3
書評「建築を巡る終わりなき旅へ」
[アユミギャラリーニュース990601]

 近代建築スケッチのために各地の建物を見て歩くことがあるが、実際の町では「近代建築」「近世以前の古建築」「現代建築」は混在して建っている。そのすべてをカバーしつつ的確に所在がわかるガイドブックが今まで、あるようでなかった。『建築知識』の連載「建築採集記」の単行本化は、だから建築愛好家から待ち望まれていたのである。

 宮本氏は写真家で、近代建築スケッチ展のよびかけ人でもある。
 これまでの建築ガイドブック類の「地域の偏り、竣工年代の狭さ、量不足、写真の不鮮明さ、補遺のなさ」に対する氏の不満は、全国津々浦々をくまなく巡る建築採集の旅へと駆り立てる。 それはまるで「雑多な建物の林立する森の中に生息する、希少な昆虫を探しにゆく旅のようだった」。地元の研究者や建築家とともに地域を廻り、ファサードをフィルムに収めてゆくフィールドワークの日々。「これは見るべき」という建物を幅広く網羅し、竣工年・設計者・施工者等の簡潔なデータと、分かりやすい地図を載せ「解説や論評はしない。感動するか落胆するかは本人次第」という姿勢に徹する。例えば水戸市の項目を開くと、旧県立水戸商業学校(1904年)や国重文の薬王院本堂(1529年)とともに水戸芸術館(磯崎新/1990年)も並んでいる。すべてが単独の写真作品としても素晴らしい。

 この関東甲信越編を皮切りに、総計1万5000作品を5年間で10巻のシリーズにしあげるというが、その後はただちに「刊行後に竣工した建築を訪ねる補遺の旅」を始めるという。
「実はまだ1万件残っているんです。エンドレスな、生涯最後の仕事になるかもしれない」と笑う氏は、あまり知られていないが細密な近代建築スケッチもたしなむ。そんな根っからの「建物大好き」写真家にして、はじめてつくりえた一冊といえよう。

渡邉義孝(東京を描く市民の会理事)

 

『建築採集記/
関東甲信越編』
宮本和義著
建築知識/296頁/全頁カラー/2400円+税

↓戻る