●吉野棟梁はどういう人か

 以前から我が家の改修に携わってくださっている吉野棟梁(株式会社東葉組 代表取締役)とはどんな大工さんか。

 欲の無い人、というのが一番の印象だ。

 弟子も取らず、いつも一人でこつこつと仕事をする。
 本人いわく「自分でやるなら楽なことしかしませんよ」。特に自然素材や伝統構法にこだわっているわけではない。

 でも面倒なおさまりや新しい提案をすると、「できるでしょう。やってみましょう!」と必ず言う。これまで断られたことはない。隠れた積極性と、それを実現する確かな腕を持っている人。
 師匠に厳しくたたき込まれた職人の技(よく「こんなことしたら昔はゲンノウが飛んできましたよ」と言う)と、若い頃一時期現場監督として管理をした経験から来る意匠的指向の尊重の姿勢。

 東葉組はその昔寺社仏閣を手がけていた。「若い頃つくった社です」と、市川のある神社を見せていただいたことがある。丸太を刻むような、腕をふるう仕事も少なくなったというのがもったいない。……今回も真壁が少ない設計にしてしまったのだけれど。

 一人だからあまり大規模なものはもうやらない、という。「小さなリフォームが楽ですから」と笑う。

 しかしあるときこう言った。

「いまから建てたら、何十年かたって自分が直しにいけないじゃないですか。責任を負えないものはつくりたくないんですよ」。

 最近、昔の自分の施工物件を修理に行くことがあるという。20年経ったら何が腐り、何が無事だったかがようやくわかってきた、ともいう。顔の見える関係 を大切にする、恥ずかしいことは決してしない。
 人の基本であるこの姿勢を、いまなお大切にしている大工の一人――それが私の印象である。

 

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