遊び2・人間観察編

「これから一分間の黙祷をささげます。では、黙祷」
課長がそう言うと、一同、頭をたれ、目を瞑って各自の心の中で祈り始める。
俺もそれに習い、目を閉じる。そして静かに祈りだす。しかしそのうちに、未熟な
俺の心の中にはいつしか邪念が現れ始め、それが黒雲のようにどんどんとふくらんでくる。

果たしてみんな、ちゃんと祈ってるのか??

気になる。確かめるしかない。
少し薄目を開け、目だけを動かして周囲を確認する。どうも皆、真面目に祈っているように
みえる。しかしダマされてはいけない。
仕事の上でも遊びの時でも、次にどうするか考えなければならない場面で、
「うーむ」
などと思慮深そうにしている奴らの多くは、ただ考えてるフリをしてる奴なのだ。
そう言う時、俺は
「お前、今考えてるフリしてるだけだろ」
といちいち確認するので、良く知っているのだ。
さっきはたまたま目を開けるタイミングが悪かったので、きゃつらのボロが見えなかったのだ、きっと。
妄想が妄想を呼び、さらに邪念は渦巻く。
さっき、一分,と言った課長は今、何をしてるのだろう?ただ皆に祈らせ、時間を計ってる
のだろうか?だとすればそれは黙祷にならないばかりでなく、ここで祈る人全員を愚弄する
行為だ。ムラムラと勝手なイカリが沸いてくる。
「まてよ…」
本当に一分なんだろうか?黙祷開始から30秒くらいたっている。だから残りの秒数を
数えれば、それはわかるはずだ。
「41、42、43…」
などとやっているうちに黙祷は終わってしまうのである。
不謹慎といわれるかもしれないが、こういうときでも、人が何をどう考え、どういう心の動きで
どんなことをしようとするのか知りたい、という好奇心はなかなか押さえられない。

このような性格なので、俺は観察、特に人の行動を見るのが好きで、コンサートに行けば他人の
手拍子の仕方を見物し、バスに乗れば全体が見渡せる一番後ろにすわり、さて、次で降りよう、と
乗客が押しボタンを押す寸前にいちいち先に押し、どんな反応をするのか確かめたくなる。
まったく知らない人でも、行動を観察することでその人のことがわかったような気になるのが
不思議だ。

ある日俺が、とある喫茶店でメシを食ってると、スーツ姿のサラリーマンらしき一人の男が
はいってきた。どこの席に座るかしばらく迷っている様子から、ははぁ、多少優柔不断的傾向
があるな、と判断する。
彼はメニューを見、俺の意表を突いて即刻、「ビーフカレーソーセージ入り」
を注文した。
なるほど、奴の好物は肉類・カレーで、しかも今、猛烈に腹が減っているらしい。
しばらく時間がたち、やがて出てきたカレーから、彼は福神漬けをどけはじめた。
む、と思って見ていると、カレーの上に長々と横になったソーセージをスプーンで切ろう
としている。しかし切れない。
しばらく戦った後に奴はあきらめ、それでも虚勢をはって「俺は最初からこれが食いたかった」
という顔をして、ライスをほおばった。
奴の攻め方の基本が分かったので、この時点で俺は水のおかわりを取りにいった。
なにしろこっちは、とっくの前に食事を終えているのだ。
再び席に戻り、奴を見た俺は
「あぁっ!」
っと叫ぶところだった。
カレーの上にのっていたおおぶりのソーセージは、無残にも真中当たりで奴の歯によって
食い千切られていた。
スプーンのあとがないことから、奴は卑怯にも手をつかったのだ。テーブルの右端に、指を
拭いたらしい紙ナプキンが丸めてほおってある。
「うーむ、許せん」
と思い、拳を握って見ていると、どうもあいつは好物を最後に食べるタイプらしく、ソーセージの
残りを口に入れ、臼歯ですりつぶしながらコップの水を飲み干して出て行った。

人のいるところにいくと、いちいちこんなことばかりしているので大変疲れて困る、と相談
しても奇異の目でみられることは明白なので、沈黙を守りつつ、ローソンの「てまり寿司A」を
食いながら、今、キーボードにむかっている。最後に残ってるのはイクラ。うん、そうだったか。