話をデカくする

どうも話をデカくするクセがあって困る。
しかもデタラメなことばっかり言ってるもんだからなおさら
始末が悪い。
たとえば、会話の流れで「毛」についての話になったりすると
「いやー、俺ってさ、身体はそうでもないんだけど、足のウラ
だけ毛深いんだよねぇ」
などと言い出す。もうとまらない。
どんどんと話は大きくなり、しまいには
「その足のウラの毛の繊毛運動で、歩かなくても動く。ザワザワと
音がするから振り向くと、すべるように歩いている」
なんてことになる。

会社の受け付けに、一人の女性がいた。仮に妖子さんということに
しておこう。
俺は前から彼女が気になっていた。なぜかというと、眉間に3本の
深いシワがあったからだ。
受付の仕事は忙しく電話や来客の応対、社内放送などの合間に自分の
仕事をやり、てんてこまい。
「でもさ、いそがしいときは、名刺とかはさめるから、なかなか便利だよなぁ」
などと言っているうちに訪れた社員旅行の朝、彼女は、黒い帽子に
黒いズボンをはき、どこで売っているのか知らないが、黒いマントまで着て
現れたので我々は大喜びし、すぐに
「そうか、妖子さんは妖術をつかうんだ」
と思うことにした。
「妖子さん、杖…忘れたらしいな」
からはじまり、皆口々に
「この間遊びにいったらさ、、(誰も行ってない)観葉植物にしてるハエトリソウや
ウツボカズラ、モウセンゴケが元気に育ってたよ」
「遊びに行こうと思って歩いてても、気がつくとまた同じ場所にもどってきてしまう」
「コウモリの群が妖子さんの家に向かって飛んでくの見た」(見てない)
「寝室にヒツギが置いてあったぞ」
「俺、この間妖子さんと妖子さんがすれ違ったの見た!」
「社員旅行の集合写真で、妖子さんが2人写ってた」
など、驚くべき彼女の実態があきらかにされ、我々は勝手に怯えていたのだった。

俺はその後会社を辞め、しばらく妖子さんネタから遠ざかっていたがある日、
久しぶりに会社の仲間と会った。
いろいろ話しているうちに一人の女性が
そういえば、この間、妖子さんの歯ブラシを見た、という。
彼女の言うには、妖子さんの歯ブラシは、一本の柄に5センチほど間隔をおいて、
ブラシ部分が2箇所あり、あんなのは今まで見たことがない、ということだった。
結局、議論の末、きっと自分で作ったんだろうということになり、先についてるほうの
ブラシはノドを磨くんだろう、ということになった。
この間、妖子さんと親しい友達が彼女と一緒に温泉旅行に行くというので、彼女の
歯ブラシの写真を撮ってきてくれるようにたのんだ。
カメラに向かって微笑んでる彼女が右手に持ってる歯ブラシは、いたって普通のもの
だった。
でも、俺はなにか術をつかったのだろうと思っている。