高校生になっある日、ユーコーと2人で廊下を歩いていると中間テストの席次が貼ってあった。
頭の良いやつはいつでも頭が良いらしく、大体において1位はヒサカワ、次はカメイという
順番であった。しかしながら俺達にはそんな席次など関係あるはずもなく、さっさと通りすぎようとすると
突然ヤツは俺に向かってデカい声で
「ヒサカワ、今回はお前にやられたよ」
などと言い出した。そのときは入学して始めての試験だったので、まだ他クラスには知り合いがあまり
いなく、それを良い事に、頭のイイ奴のフリをして周りの奴らをビビらせる作戦だ。
俺もすぐさま反応し、でも、数学はカメイ、お前の方が上だな、でもこの次は負けねーぞ、などと
これ見よがしに声を張り上げて返事をした。
中学からの友達なのだが、実に妙な奴だった。
今の俺のデタラメぶりはこいつが原因なんじゃないかと俺は思っているのだ。
中学の冬休みが終わり、俺達は一斉にゼラニウムだかの鉢植えをもって登校した。休み中に
育ててくる様に、との技術家庭の授業の宿題だったのだ。
俺達はクラスメートのカワカミという奴のゼラニウムに文句をつけていた。
彼のゼラニウムだけ、他のと比べて異常に大きく育っており、そして葉には白い斑点まであったのだ。
普段から家が金持ちで豪邸に住み、しかも成績優秀なカワカミを我々は密かにネタんでいたので
お前、なによ、これ?成績上げようと思って、かーちゃんに、売ってるのを買ってきてもらったんだろ、などと
根拠のないなんくせをつけていたのだ。
そのなかにユーコーもいたので、どら、お前の見せろ、と俺が言った所、あいつは何もはえてない
鉢植えを持ってきた。
「な、なによ…これ…?」
そしてよく見ると、土と同じ高さに茶色くなったもとはクキであったらしい丸い断面があり、それを指差して
奴は、外に出しといたら凍って、腐ってしまい、とれたのだ、と言った。
「お前、こんなもん持ってきてどーするのよ!?」
また、ある日、俺は本を読んでいて、サルには2種類あり、尻の赤いサルと尻にタコがあるサルがいる、
ということを知ったので、いつものデタラメで、ユーコー、オマエ、目にタコがあるサル、知ってる?
と聞いてみたところ、
「そんなサル、メタコとない」
などと言いやがった。
またまたある日、俺が教室の窓から徐々に紅葉に変わりつつある秋の山を見ているとユーコーが
やってきて、珍しく感傷的な口調で
「なぁ、sin…、なんかさ…この時期ってさ、山が高く見えるような気がしないかな…?」
などと言ったので、うん、そうだな。なんとなくいつもより高く見えるよなぁ、などと答えると、奴は
突然歯をムキだして笑い出し、
「ホゥ、俺はぜーんぜん高くみえねぇ」
などとホザキやがったので、怒った俺が手首の関節をヒネリあげてやると、
「わかった!わかったって!」
と言った。俺が力を緩めず、
「なーにがわかったのよ!?」
というと、奴は厳かな表情で、
「すべてだ」
といいやがった。
奴の家は中学のすぐ裏にあり、廊下にはモモンガのハクセイがあった。そして秀蔵もいた。
秀蔵は、ユーコーのじいちゃんで、電話をかけたときに秀蔵が出ると、
「ユーコーか、ちょっと待てな…ユークォー…」
という声がして、俺達はいつもそのマネをしていた。
もちろん、直接ユーコーが出る時もあったが、その時はこんな風だ。
「…もしもし?」
「あー、もしもし」
「モシモシッ?」
「もーしーもーしー」
「もーし、もしもし」
などということを1分ほどやり、そろそろ飽きてきて
「…なによ?」
ということになる。
もうすぐこの中学も卒業、というとき、クラス内で、記念の文集をつくろう、ということになり、
われわれのクラスは、ではその文集の名前は何にするのか、ということで議論をしていた。
俺は黙って皆の意見を聞いていたが、しらかば、だとか思い出、だとかの当たり前のものしかなく
実に面白くなく、俺はこれはいい、と思い、発言の為に手を挙げた。
「ハイ、sin君」
「えーっと、秀蔵がいいと思います」
そんな名前の文集は今まで生きてきて聞いたこともないが、その時はいいと思ったのだ。
しかし、クラスの女どもが、そんな一生の記念になるものに、秀蔵なんて名前はいやだ、と強行に
反対され、俺はクヤシクも意見を引っ込めたのだった。
そして、「翔」という、「秀蔵」の半分もシブさのカケラもない名前に決定され、さぁ、文章を書きましょう
、という頃に秀蔵は亡くなってしまった。
ほれみろ、お前らのせいだ、と俺は思ったが、しかたがない。
だから、その文集は、その多くが秀蔵へのお悔やみから始まる作文の多い、卒業文集としては
極めて珍しいできあがりとなってしまって、いまでも物置の片隅にしまってあるのである。