イタズラな日々

俺が中学生だったある夏の日、電話のベルが突然鳴り響いた。
「もしもし」
「あ、sinか?オレだ」
友人の岡本という名の大男だ。
「今から行ってもいいか?」
「おう」
ハードボイルドな電話が終わった後、オレは二階の自室へと階段をのぼった。

天気のいい、実に平和な昼下がりであった。
部屋には東向きの大きな窓があり、俺はその傍らで、そういえば、前に向かいの
家の庭にキジが降りて来たのをみたことよなぁ、などとわびさびしていると、視界の
端にキラッと光るものが目に入った。岡本のチャリだ。
彼はアスファルトの道を素晴らしいスピードでズシャーッっと走ってきたが、その刹那、
俺の身体は頭で考えるよりも速く階段を駆け下りていた。
玄関ドアののぞき窓をのぞくと同時にチャリが家横の砂利をける音が聞こえた。
その姿勢で待機していると、、やがてきゃつの姿が視界にはいり、ドア横のチャイムに
手を伸ばそう、としたその時、
「だあぁぁぁ!」
と叫びながら俺はドアから躍り出た。
その瞬間、岡本はサルのような顔になり、全身を激しく痙攣させ、物凄い速さで五歩、
あとじさった。
彼ははぁはぁと荒い息をつきながら、
「やめてくれって!俺、心臓弱いんだから。たのむって!」
と、赤い目をして言った。
「わかったって!」
と、とりあえずマネして一応言ったが、こんな面白いものを見せられて、そう簡単に
「分かる」わけにはいかないのだ。
憐れな岡本は、その日のうちに、別なドアで同じ手にひっかっかった。

それから二週間ほどたち、これらの記憶が薄れかけた頃、再び我が家の電話が鳴り出した。
「もしもし、オレだ。今から行ってもいいか?」
岡本だった。以前血祭りにされたのを、奴は忘れているのだ。
心の中の喜びを悟られないように、短い会話で電話を切った後、俺は考えた。
奴の自宅から家までチャリで5分。
その間にすべての準備をすまさなければならない。迷ってる時間はない。
俺は目の前にあったカセットデッキにテープをブチこみ、
「岡本ヨシナリ君,岡本君。そうさ、キミは岡本君なのさ」
などと一分ほど録音し、さらに臨場感を出すためにスピーカーを窓の近くでしかも
岡本から見えない位置に注意深く移動した。
緊迫した作業がほぼ終わった頃、2週間前と同じように、チャリで岡本が走ってくるのが見えた。
デッキをPLAY状態にし、階下に急ぐ。
奴が丁度我が家に到着したとき、二階の俺の部屋から「岡本ヨシナリ君…」の呼びかけの
声が流れ始めた。
奴はすっかり俺が2階にいるものだと思いこみ、安心しきってテープの声に、なにやら
「うるさいのさ」
などと返事をしているのが聞こえる。ばかめ。
のぞき窓には、二階方向を見上げ、にやにやしながらこっちに歩いてくる、気の毒な男が
一人、うつっている。
はやる気持ちを抑え、充分引きつけ、奴がチャイムに指を伸ばそうとしたその時、俺は
叩きつけるようにドアを開け、
「異羅っ赦意魔死!!!!!!」
と絶叫した。
次の瞬間、
「うわあぁぁぁ」
と言う声と共に岡本の巨体は3メートルも後ろにある金網フェンスのところまで吹っ飛んで行き、
灰になっていた。バンザイ。

いやぁ、イタズラというのは実に面白い。普段はものぐさな俺様なのだが、こういうときの努力
は惜しまないのだ。
このような、器具、機械を使用するイタズラは、イタズラ電話(注1)や、友人宅を訪問する際に
電話のフックをセロテープで固定してしまうというのが俺の得意技であったが、手元に何もない時
に、いったいどのようなイタズラができるのか?とある日思い、考え込んでしまった。
イタズラな日々2に続く)

(注1)良くやっていたのは、友人宅にかけるもの。
まず、5人ほど仲間を集め、たとえば木村拓三君のうちにかけるときは
「もしもし、キムラさんですか?」
「はい、そうです」
「拓三君いますか?」
「あ、あのボクですけど」
「僕も拓三です。(本人、驚く。)それではー!木村君の栄誉をたたえて三・三・七拍子〜!!」
受話器を5人でかこみ、盛大に手拍子をうち、
「ありがとうございました!」とサワヤカに切る。