「2」では、自分の術に酔いしれ、それに溺れた末にまったくいたい思いをした
異について書いた。
しかしその後、今思い出しても大変恥ずかしい思いを俺はすることになるのだ。
なんの因果か、その時も作田がからんでいる。
思えば、渓流に釣りに行き、足を滑らせて深さ3メートルもある滝ツボに落ちた時も
あいつがいた。魔物のようなやつなのだ。
ある冬の日、通っていた大学の近くに住んでいる小野寺のアパートで、俺達3人は
サケを飲んでいた。よくもまぁ、酒なんか買う金があったもんだ。
当時俺は1日400円の予算で生活していた。自宅通学だったので朝晩のメシの心配は
なかったが、昼だって腹は減る。
最初のうちこそ「定食」などをむさぼっていたが、それがカレーになり、うどんになり、
いつしかライスのみとなった。
ライスには、自宅から持ってきたフリカケを半分だけかけ、残りは翌日にとっておくのだ。
さらにバンド活動がいそがしくなり、アルバイトもする時間がなくなると、一層貧乏になる。
皆がメシを食いに行ってる時に一人だけのこり、乾パンをぼりぼりたべたりしていたが、
一緒についていくと友人達が、おかずのキャベツ、うどんのつゆ、などを分けてくれるので、
ひもじいながらもシアワセな毎日を送っていた。
そんなふうだったから、その日はパチンコで儲けたか友人のおごりだったかで酒にありついたのだろう。
まぁ、のめや、などと他人に酒を注ぐ、なんていう風習は我々にはまったくなかった。
貴重な酒は、人にやるくらいなら自分でのむのだ。
その日もそうしておおいに盛り上がった。
そして、次の日。俺は腹が減って目がさめた。しかし、食い物などどこにもないのだった。
小野寺の家には。冷蔵庫に冷やされてるのは、箸のみ、というありさまだ。
話し合いの末、安くて量が多いのはやっぱり学食だ、ということになった。歩いて10分の距離。
その日の天気は大荒れで大変寒く、強風にあおられた雪が地吹雪となり、容赦無く我々を襲った。
あまりの寒さに俺は、
「おい、走っていくぞ」
といい、走り出した。
しかし、奴らはついてこない。冷たいやつらだ。俺は引っ込みがつかなくなり、走り続けた。
それでもやはり寒かったのか、しばらくしてから奴らはついてきた。ザッザッザッと雪を蹴る
足音が左後ろから聞こえる。
そのとき、俺の頭の中に「復讐」という言葉が浮かんだ。
そうだ、復讐だ。反省してついてきたことは認めてやる。しかし、一瞬だが俺に寂しい思いをさせた
罪はそれで消えたことにはならんのだ。
心の中でニヤリと笑った俺は、まず手始めに奴らの進路を妨害するため、足音に会わせて左に
寄った。すると、生意気にもザッザッザッという足音は、右側に移動するではないか。
くそーっと思い、邪魔をするため右に移動し、さらに再度移動した足音を追って左に動いた。
期は熟した。俺は突然ストップし、
「見たか!」
と心で叫びながら、後ろ向きに猛然とダッシュしたのである!
「おおぅっ」
とくぐもった悲鳴が聞こえ、間一髪衝突を避けて俺を抜かして行ったのは、見知らぬ男だった。
頭の中が真っ白になった。
恥ずかしさのあまり立ちすくんだ俺は、さらに後方から小野寺・作田が一部始終を目撃していることに
気づき、フナムシのように逃げ出し、とりあえず校門の陰に隠れた。彼はそのまま走って行ったが、
進路を次々と妨害し、挙動不審な走り方をする、予測不能の俺をどう思ったのだろう。
なんだおまえは、とかいわれて殴られても俺はチベットのお祈りのようにjひれ伏すしかない。
いままでカモにしていた奴らには、さんざんバカにされ、人をワナにはめる恐ろしさを知り、これに
懲りた俺はしばらくいたずらを控えるようになった。しばらくの間であるが。