コシのイタミ

不幸というのはどこにでも転がっている。アポなし。
俺はその日もマジメに仕事にとりくんでいた。そして、下においてあるものをとろう、と思い、なにげなく
かがもうとしたその時、事件はおこった。
突然、コシのあたりにナマリ板を巻いたような感覚におそわれ、曲げようとすると痛みが走る。
なんなんだ、いったい?俺は初めての感覚に度を失いつつも、なんとか残りの仕事を終え、家路につく。
その日はコシに負担をかけないように即効で寝、明日の仕事にそなえた。

朝6時過ぎ、いつものように目覚ましが鳴る。さぁ、今日も頑張りましょ、と思い、起き上がって目覚ましの
ベルを止めようとした俺は驚愕した。まったく起き上がることができない。これは瞬時にシゴトにいけないことが
自分でもよくわかる。枕元にあった棒で、かなり苦労をしながら電話を引き寄せ、休むことをなんとか伝える。
ふぅ。一安心。しかしこのままでは、病院へいくことすらできないので、しばらく寝たまま様子を見ることにした。
だが、コシ以外は快調なので、しばらくすると困ったことにトイレに行きたくなってきた。このままいくと、腰痛
でしかもウンコもらし、という、ヘレンケラーばりの2重苦になることは明白だったので、なんとか転がるような
感じでベッドからおり、俺は便所に向かってイザっていった。
これ以上ないという、すばらしい姿勢の良さで便座に座った俺は夢のような自分の時間を満喫したが、
困ったことになった。けっつが拭けないのである。俺はそのままの姿勢でしばらく考えたが、我が家は
ウオシュレットであることを思い出し、見ることのできないボタンを感で操作しながら、なんとかキレイに
なることに成功した。しかし、ウチのには乾燥ボタンはついてない。どうしようもないので、そのままパンツを
そろそろとはき、それからしばらくして病院へむかう。

「前にこちらで診察したことがありますか?」
「んーと、はい。もう20年近く前のことですけど」
そうだ、俺は高校の時バスケ部に所属していて、ここにきたことがある。腰を痛めたのだ。
その時は、腰のレントゲンをとり、待合室でまってると名前を呼ばれたので、俺は診察室に入っていった。
先生はかなり面白い人で、俺が診察のためにズボンをぬぐと
「おっ!キミはいい筋肉をしてるねぇ。この筋肉は大腿シトウ筋と言って…」
などと説明をはじめるし、看護婦さんもキレイな人ばかりで、かなりうれしいのだ。
しかし、腰のレントゲン写真をみて俺は仰天した。写っているのだ、アレが。しかもしおれた野の花のように
ダラシなくよこっちょを向いて、カゲのようにぼぅっとうつっているのだった。アレ以来だ、ここにくるのは。

病院といえばこんなことを思い出した。また脱線だ。
あれは高校生の時のある土曜日で、俺はバスケの練習に参加していた。油断していた俺はパスを
受けそこなってしまった。しかもかなりキョーレツなそのパスをモロに顔面にうけ、うずくまった。
しかもメガネのレンズで目の上をかなり深く切ってしまい、大量の流血らしい。
土曜日の夕方だったので、学校の近くにある救急当番病院へ連れていってもらった。
その、「野中・江口整形外科」は結構込み合っていた。ウケツケをすませ、静かにまつ。
急患から先に診察されると聞いていたので、俺は週刊誌を読み始めた。時間が静かに過ぎていくが
なかなか俺の順番にはならない。後から来た人がどんどん先に帰っていく。そのうえ、妙なことに気がついた。
俺しか待っている人がいなくとも、呼ばれることはなく、後から来た人が先に帰る。
しかし、病院には病院の事情があるだろうし俺は元来慎み深い性格なので、オダヤカに待っていた。
そして、待合室に存在する全ての本を2度ずつ読破した時、時計は午後9時をさしていた。もう、5時間も
オトナシク待っている。で、さすがにウケツケに問いただすと、実は忘れられていたのだった。あまりの
ムゴい仕打ちにベソをかきそうになったが男らしくグッとこらえ、診察室に入る。そして、その五時間の
間に俺の傷口はふさがり、医者はバンソーコー1枚ペタリと貼りつけ、それで診察終了となった。バカヤロー!!!

で、今回の腰の病名は「ギックリ腰」だった。あぁ、情けない病名だよ。だが、「ギックリ」という言葉の
リズムになんとなくグルーヴを感じたので、なんとかそれで、自分を慰めるのだった。
この、看護婦さんのキレイな病院には、この間も行ってきた。5年ぶりの通風の発作に襲われ(メチャ痛)、
それでも患部の足をかばいながらムリしているうちに、正常な足の関節さえもガタガタになり、歩けなくなってしまったのだ。朝晩、タクシー通勤、歩いて3分のところが20分歩いてもまだつかない。
しかもヒドいびっこだったので、俺はゾンビに間違われたらどうしよう、などと心配していた。間違えないか。
やっぱ、病院はいかないほうがいいよなぁ。たとえ、看護婦さんがキレイでも。でも、かかる時は、俺は必ず
ここにくるだろう。病は気から、というが、この病院では、確かに気はよくなるからだ、わはは。