偶然とジョン・レノン

俺がまだ大学生の時のことだ。その頃はといえば、昼くらいに起きだし、とりあえず学校へ行くも
そのままサークルのスタジオに入り、楽器を弾いているか、有り余るヒマを持て余し、新しいゲーム
などを開発して遊んでいた。例えば、それらは

ピントン スリッパの裏側でシャトルを打ち合う競技
ゴールデン・パンチゲーム 10mほどお互いに離れて一人が股を開いて床に座り、もうひとりが
 股間を狙ってソフトボールを転がす、というスリルある競技。一投毎に交代し、当たるととてつもなく痛い。

などであったが、そんなある日、レイチャールズ様が旭川に来る、という情報が入ったので、我々は
金を工面して、見に行くことにしたのである。
会場についた時には長蛇の列であったが、なんともずうずうしい我々は一番前に横入りし、ステージ
正面の絶好のポジションを手に入れた。今、思うとヒドイ事したなぁ、と思うところが、俺の成長したところだ。
我々の席(といっても芝生の上なのだが)の前には、長髪で、全身が真っ黒に日焼けした、いかにも
マトモではないオニーサン方がいたのだが、酒などを飲んでるうちに仲良くなり、一緒に踊りながら
我々はステージを堪能した。

それからしばらくして、就職活動をしていた俺は、慣れないスーツに疲れ、大通り公園で一服していた。
するとなんだか見たようなおにーさんが、ハデなアロハを着て通りかかったのだ。あの一団の一人だ。
「おにーさん、俺、俺!」
「おぉ!!」
と盛り上がり、我々はバンドを組むことにした。
都合のいいことに、俺は彼の住んでいる小樽に就職が決まったため、早速連絡をし、飲みにいく事にした。
単車の後ろに彼を乗せ、Uターンをしたところにパトカーがいたので、俺は全開で逃げた。
ヘルメットを俺しかつけていなかったのだ。しかし、あえなくパクられ、オキュウをすえられ、気の毒に
思ったのか、一軒の店に彼は連れていってくれた。
レノン・センス。大きな店ではない。
ウィスキー色の明かりの中でいい音楽がながれ、俺は一発でここが気に入ってしまった。
以後、しばしば通うようになる。
仕事が終った後、文庫本を片手にぶらりと入り、本を読みつつカウンターでちびちびやってると、やがて
隣に誰かがやってきて、初対面にもかかわらず、いろいろな話がはずむのだった。
あまりにも居心地が良いので、当事の俺の部下どもをつれてきたところ、いついっても誰か彼か知ってる
顔がある、と言う状態になり、さらに飲んでるうちにその人数が増え、音楽に合わせて歌い、踊りだし、
俺はそのへんにかけてあるギターを片手に店の外に飛び出し、30メートル向こうの路地で楽器をかき鳴らす、
といったトランス状態になるのだった。

さすがに札幌に越してきた今ではなかなか行くこともできない。もうとっくに無くなってしまったが、
まだボトルが残ってたときは、
「sin、期限切れのボトルでたから、お前のに足しといてやったからな」
などと、貧乏になってしまった俺にいろいろとサービスしてくれたので、小樽に行くと、顔を出すことに
している。
そうすると、10年以上前と同じように、俺の好きなブルースやビートルズの希少盤、レイナード・スキナード
など、俺のツボを押さえた音楽をかけてくれ、あの頃と変わりないウィスキー色の灯りにつつまれた俺も
相変わらず、麦やコーンやサトウキビの精をあの頃のお気に入りの席で味わうのだ。
いいものは、変わらん。
偶然や、ちょっとした事を大切にしていきたいと思う。