海外旅行にはトラブルがつきもの、とよく言われる。そういう我々も、ここ関西空港で
「こねーな」
「うん、こねぇ。まぁ、いいや」
などと言っている。なにしろネパールから飛行機がこないのだ。しかし、ジタバタしても
状況に変わりは無いので、それはそれとして、現実を楽しむことにする。
プラス思考、と言えばきこえがいいが、要するにテキトーなのだ。
で、その後どうなったかというと、結局、その日は飛行機がこなかった。
そのかわり、航空会社の補償で関空横のホテルにタダで泊まれることになる。これはありがたい。
本州発の便に乗る為に、我々は厳寒の北海道を夜明け前に出発しなくてはならなかった。
しかも、部屋だけではなくディナー付。
単純な我々は機嫌よくチェックインした。
「うわ、すげー部屋!」
そうなのだ。タダの部屋は広く、実に立派な造りで、さらに我々のボルテージはいとも簡単に
ピークに達し、よし、フグでも食いにいってやれ、ということになった。
そうして俺はネパール旅行のついでに、生まれて初めて大阪の街を歩くことができた。
実に楽しかった。
(その後)
この後、我々は、フグとたこ焼きを堪能した。
それにしても、大阪のたこ焼き、ウマすぎ。
俺は思わず、うおお、と叫びそうになった。とにかく俺は飛行機が怖いのだ。
しかもカゼにあおられてナナメに着陸しやがって。キモが縮んだらどうするのだ。
1日遅れできたロイヤル・ネパール航空機はどこかの払い下げらしく、全くロイヤルではない。
たとえば、飛行していると、やがて右側に世界最高峰、エベレストが見えてくる。でも、見えない。
なぜかというと、窓ガラスが傷んでスリガラス状態になっており、窓ワクから1ミリ程度の僅かな幅しか
透明な部分が無い。従って、ほれ、こんな恥ずかしい体位でないと見ることが出来ないのである。
我々の仲間にはネパール2度目のマエノという奴がいたので、彼が以前世話になった友人の
マナンダール家に遊びに行き、ついでにメシも食う。
どうも俺の受けた印象では、彼らは知り合いなら誰でも自由にメシを食ってもいい、というような習慣が
あるようで、友人や友人の友人など、家族以外の人々がとっかえひっかえメシを食っている。
我々はその後、この中にいたマナンダール家の長男、ラズーとその友人2人と行動をともにする
事が多かった。
「あのさ、知ってるか。日本の文字にはすべて意味があるんだぞ」
「え、どういうこと」
「例えば、こいつの名前はマエノだろ。で、それはFRONT
FIELDという意味だ」
「おぉ、それは凄い!」
「で、こっちのイノという奴のWILD PIG FIELDだ」
「ギャハハ!じゃ、俺の名前を日本語で書いてくれ」
というので、
「ラズー・マナンダールかぁ…。こんなんでどうかなぁ」
と言い、俺は紙に書いたものをイノに見せた」
「…sinさん、なんスか、これは。既学って学ぶの過去形じゃないスか」
「ダメか。じゃ、こんなのどうだ」
外国の人と遊ぶにはこれだ。我々は極東の神秘の国、ジャパンからきたのだ。
山の上下で峠、などと教えると、素晴らしく感心してくれるのだ。
ラズーの友人2人は音楽マニアだった。メタリカの好きなネパールのメタル野郎で、楽譜の類が
出回っていないらしく、大学ノート1冊にびっしりと、様々なバンドの歌詞とコードが丁寧に
書かれていた。ここネパールでもメタル野郎は、マメなんだろうか。大豆です。
そして彼は、オンボロのアコースティックギターを所有していた。
明らかに安物で、造りも雑なのだが、音を出して驚いた。
なんだこれは。メチャメチャ鳴るではないか。空気が乾いているせいか、ヌケのよい、実に
なんともいい音なのだ。見た目で判断してはいけません。すまん。
(注)
俺はネパールに行く際に、ひそかに持っていったものがある。
ひそかに、というが、それは荷物の大部分を占めていたのだが、釣りざお2本、リール2個、
各種シカケ類、ルアー等である。もしかしたら、見たことの無いような魚が釣れるかもしれない。
川を見つけた。早速準備をはじめたのだが、汚い。濁っている。
ネパールのおばちゃん達が、下流で洗濯なぞをしている。50メーター上流では、死体を焼いている。
あぁ、ムダになってしまった。でも、いいか。ネタになったし。