兄弟というものは、何故にこんなにも性格が違うのだろうと思う。
兄貴はコツコツ型で、地道に足元を固め、しっかりとした形のものを
作り上げて行くように俺には思える。
俺はいかにラクをして、一発当てようか考える傾向がある。
宵っ張りな俺に比べ、兄貴は早寝タイプ。
北海道といえども夏は暑い。兄貴の部屋は壁の一角がすべて窓に
なっており、そこから差し込む暴力的な西日のおかげで部屋の温度は
物凄く、当然のことながら俺もその余波を受け窓全開、ドア全開で身体に
なにもかけずに寝るのが俺の習慣だった。それでも暑くてなかなか寝付くことができない。
一方、兄貴はというと、寒い冬の冷気をも遮断する2重マド、分厚いカーテン
、俺の部屋との境になってるフスマをピッタリと閉め、さらには毛布、丹前、
冬用のフトンを頭からかぶり、汗だらけになって寝る。修行僧でもあるまいし、
なぜそこまで自虐的になるのか俺はサッパリわからず、聞いてみると
「寒い」
とだけ言った。何が寒いものか。これにはついていけない。
俺と兄貴が結婚したら、絶対短期間で破局を迎えるに違いない。
ともかく眠れない俺は、あきらめて部屋の電気ををこうこうとつけ、本を読み始めた。
知らず知らずのうちに時間は流れ、もう午前2時。さて、そろそろ寝ようか、と思った
時に兄貴の部屋から物音が聞こえた。便所に起きたようだ。
寝ぼけ眼で起きた彼はフラフラと立ちあがった。、俺がもうすでに寝てるもんだと思って
いたらしい。俺が振り向くと、真っ暗の部屋の中でなんの警戒もせずに開けたフスマ
の間から急激にさしてきたまぶしい光に目をやられ、
「ウァァッ!!」
っと叫び声をあげて両手で顔面ををおさえたまま二歩三歩、部屋の暗がりへと後じさりしていった。
ドラキュラ伯爵か、あんたは。
そんな兄がついに念願のパソコンを入手した。とはいっても古い機種のものを中古・格安で
手に入れたのである。
しかし、なんのソフトも入っていなかったので何もできず、打った文字が画面に出るだけで
それをセーブもできないありさまだった。
それでも彼はひどく嬉しかったらしく、、キーボードの文字を使い2時間もかけて自画像の
作成をした。
眼鏡をかけ、くわえたパイプから煙がたちのぼる、といった、それは見事な出来映えだった
そうである。
その日、夜遅く帰ると、家族は皆、すでに寝ていた。そのまま居間に入りかけた俺は
「キーン」
という耳慣れない電気的な音に気がついた。
「テレビかな?」と思い、辺りを見まわすと、あったあった!パソコンだ。買ったんだな。
でも、画面も真っ暗だし動いている形跡もない。
「壊れてるのかな」
俺は機械の後ろについている電源スイッチを切ってみた。すると画面上になにか
丸いような模様が浮かび上がり、すぐに小さな玉となって消えた。俺は非常に不吉な
感じがして、あわててまたすぐに電源を入れた。調べてみると。明るさ調節するツマミで画面を
暗くしていたようだ。俺はいそいで寝ることにした。
次の朝、目がさめた俺が居間に行くと待ち構えていたようにニコニコ顔の兄貴がいた。
「おう、とうとう買ったさ、これ。中古なんだけど」
「あぁ、昨日みたよ」
「でも、ソフトはいってないから、まだなにもできないんだ。タイプライターみたいなもんだな」
それから彼は物凄く得意げに、まだなにもできないから、文字キーを使って自分の顔を
2時間もかけて作った、といい、昨日作った自画像にいったいどれだけ苦労をしたか
、またその出来映えがいかに素晴らしいものかということを、満面に笑みを浮かべ、とうとうと
俺に語りつづけた。
そして、得意満面の彼のテンションが絶頂に達したとき、「明るさ調節ツマミ」に右の二本の指をかけ、
ひときわ大きな声で、
「それではそろそろみていただきましょう!ジャジャーン!!」
と吠え、それと同時にグイとツマミをまわした。
「…アレ?」
なにもおこらない。兄の笑顔が凍りつき、俺の周りの重力が5G増した。
顔色を変え、しばらくその辺のスイッチをジタバタといじくりまわしていたが、やがて振り向き、
「これ、さわったかい?」
とつぶやくように聞いた。
「い、い、いやそのあの」
しかし、逃げ場所はないのだった。俺は自分の罪を悔い改めるべく、正直に話した。すると、
「ふうん、そうかい」
おだやかな表面上の言葉。しかし、そのむこうにある恨みがましい目とのコントラストが恐ろしく
俺は話をきりあげ、ふたたび急いで自室に走ったのだった。
今使っているこいつも、兄貴からもらったものだ。そして、突然思い出したように電源が
きれる。原因はこれじゃないかと俺はふんでいる。