野生の動物を見たい!と思いアフリカにいってみたいと思ったが、ここで持ち前の
好奇心が邪魔をし、話がどんどんとズレていってしまうのだ。
このツアーは添乗員がいなく、ケニヤの空港で現地のツアー会社と待ち合わせ、ということだった
ので、この広いナリタ空港の中の、一体誰が同じツアーの参加者なのかサッパリわからん。
しかし、さっきからイスに立ったり座ったりしている長身の茶色い野球帽のこの男はどうもクサい。
「間違ったら悪いんだけどさ、××ツアーかい?」
「はぁ、そうですワ」
ビンゴ!彼の名はサワイ君という。関西の学生で、ひとりでこのツアーに参加していた。
話して見るとまじめできちんとしている気のいいやつで、表情が大変豊かなので見ていて飽きない。
お互いに気が合い、すぐに我々は親しくなった。
彼は本当に「きちん」としていた。「きちん」を通りすぎてまた後戻りしてるくらい「きちん」としている
のである。そしてそのせいで、肝心なところでツイてないのだ。
遠足の前の日、服、おやつ、弁当、てるてるボウズなどを入念なチェックの末完璧に準備をし、そして
次の日は嵐だった、というタイプなのだ。
今回のツアーにしてもまたしかりで、俺にとっては格好の観察対象だった。
彼のガイドブックにはさまざまな色のアンダーラインや注意事項がそこかしこに細々と書きこまれ、
完璧なマニュアル化されていた。そして彼は、それを実に忠実に守るのである。
それが初めて露見したのは、彼の名前を尋ねたときだった。
「サワイ君さぁ、下の名前、なんていうの」
俺はその少し前、ケニヤ人のガイドに向かって彼が、
「ケンと呼んでくれ」
というのを聞いていた。だから、きっと、ケンゾウかな。ケンイチもありかな、と考えていたのだ。
ところが彼は
「ボクの名前ですかぁ?ダイスケですわ」
「△*×?ダイスケぇ?…お前、ぜんぜんケンじゃないじゃねぇか!」
彼は英語会話集のページをそのまま実行していたのだった。なかなか興味深いヤツだ。
こうして我々のサファリツアーははじまった。
![]()
朝6時に目覚めた俺はロッジの外に出た。まだ明けてもいないケニヤの朝は真っ暗だ。
また眠る気にもならず、そのままぼんやりしていると、暗闇の中で誰かが歩き回ってるような
気配がする。もしや…
「サワイ君かい?」
「あ、オハヨウございます」
やはりか。
「何時におきたの?」
「4時ですワ」
「4時!?一体なにしてたんだい?」
「イヤ、そのへんあっちこっち見てまわってましたワ」
見てまわるっていったって、なにしろあたりは暗闇だ。ネオンだってもちろんない。
動物保護区だからなーんもないのである。
「…そうですか…」
とだけ俺は切り返すことができず、そのまま一緒に夜明けを待つことにした。
ケニヤの夜明けは唐突だった。それまで暗かった東の空が突然明るくなり、地平線から
光のかけらが見えたかと思うと、盛り上がるように太陽がぐんぐんと顔を出してくるのだ。
朝焼けに照らされたキリマンジャロに圧倒的な大自然の凄さを感じ、俺は呆然と感動していた。
横には同じく朝日に赤く照らされたサワイ君がいた。
「サワイ君、それなに」
俺は彼の腰からぶらさがっている、円形の箱のようなものを指差した。
「あぁ、これですか。カトリ線香ですワ」
と彼は説明を始めた。ここにはどんな毒虫がいるかわからないし、マラリア蚊もいるかもしれない。
そこで自分は防虫スプレーをつけ、カトリ線香を焚き、ほれ、こんな超音波で蚊を撃退する機械
も買ったのだ,と言った。
そんなこともまったく考えず、なんの準備をしてなかった俺は、すごい奴だ、と素直に感心した。
話を聞きながら彼の顔を見ていた俺は、妙なことに気がついた。サワイ君は野球帽をいつも
後ろ前にかぶっているのだが、ちょうど額にきている大きさ調節用のスキマから見えるヒフが
異常に赤いのである。
「サワイ君、それどうしたの」
「さされました」
「ぎゃははははは!!」
帽子をとった彼の姿は、昔修学旅行で見た奈良の大佛様の様だった。
あまりのおかしさに流れる涙をコブシで拭いながら俺はロッジにもどった。
(サワイくん2に続く)