ここでいうサファリ、というのは車で動物を見にいくものだ。
そしてこれは、俺の予想を遥かに越え、かなり楽しいものだった。
見渡す限りサバンナがどこまでも続き、はるか地平線にぽつん、と一本だけ
生えているアカシヤがみえる。青く、広く、透明な空にはぽっかりと大きなひつじ雲が
浮かび、優しい風がそよぐ。動物たちは、動物園にいるのと違ってぴかぴかしていて
美しい。ただじっと見ているだけで、心から安らかな気持ちになるのだった。
サファリにでかけるのは、朝・夕2時間ずつだけだ。赤道直下のところなのでさすがに
日中は暑い。しかし高度があるので湿度が低く、日陰に入ればサワヤカだ。
俺はこうした時間、大抵本を読んだり洗濯をしたりして毎日過ごした。
ここはフラミンゴで有名なナクル湖のロッジだ。山の斜面に建てられたこのロッジまで
歩くのは結構キツイが、そのおかげでなかなか見晴らしもいいのだった。
俺がベンチで本を読んでいると、隣のロッジからサワイ君が出てきた。
「おぅ、どっかいくのかい」
「ヒマだからちょっとその辺見てまわってきますワ」
彼はそう言ってカンカン照りの中出かけていった。
俺は再び読書を再開し、それから30分ほど経った頃、道路をこっちに登ってくるサワイ
君をみつけた。
「どうだった」
と聞くと彼はニコニコ顔で
「いやぁ、ちょっと暑いけどキモチいいですわ。300メートルくらいむこうにプールがあってですね…」
と言い、次に
「アレッ?」
と言って身体中をゴソゴソと探り出した。
「どうしたの」
と聞くと、彼は見る間にオロオロしだし、
「カギが…カギがないんですわ…」
と血を吐くように言った。
その様子があまりにも滑稽なので俺は吹き出しそうになったが、この場面で笑うのはあまりにも
気の毒だ。歯を食いしばって本に目をやり、無理やり脳ミソに活字を叩きこんだ。うっかり返事を
すると笑ってしまう。
彼は持っていたザックをひっくり返して子細に検分した後、
「ちょっと探してきますワ。荷物見ててもらえまっか」
と、トボトボ歩き出した。
数十分経ち、ちょっと不安そうな顔で彼が戻ってきた。眉毛がハの字になっている。
「…ないんですわ…」
俺はまた吹き出しそうになったがこらえ、心から心配している声で
「受付いってみたら?届いてるかもしれないし」
語尾がちょっと震えてしまったかなと思いながら、さすがに俺は建設的な発言をした。
「…また…みてきます…」
その数十分後、かなり不安そうな顔でサワイ君は戻ってきた。ハの字眉毛の間には厳しい
シワが現れ、右手人差し指でくるくると回している超音波の機械が、彼の鬱鬱とした心情を
感じさせるのであった。
彼は戻るなり再びザックを開けて点検し、まるで幽霊の様に
「…ない…ない…」
とつぶやき、フラフラと道を降りていった。
そして数十分後、見違えるような力強い足取りでニコニコと彼は帰ってきた。
「いやぁ、プールのとこにありましたワ!あ、ホーッとした。よかったよかった」
先ほどのゆれ返しで操状態のサワイ君はかなり疲労しているようだった。
あたりまえだ。彼はアフリカの厳しい日差しの照りつける中、3キロ近くも山をのぼったり
降りたりのぼったりおりたりしていたのだ。
その日の夜、またいつものように彼のロッジから
「ぐぁらぐあらぐぁら」
と大きなうがいの音が聞こえた。
そういえばガイドブックにうがいをする様に書いてあったなぁ、と思いながら俺は眠った。
(サワイくん3に続く)