ある日、歯医者に治療にいくと、銀歯を埋め込む彼女の手のひらに、青い点があった。
それってさ、エンピツの芯刺した痕だろう!と、カサにかかって聞きたかったが、ダチではないので
止めといた。次の治療のときに痛くされたら困る。
退屈な授業中に、みんなは一体何をやってすごしていたのか?
俺のよくやっていたのは、手紙まわし、パラパラマンガ、五目並べ、ストローで作った吹き矢で誰かを
狙い打つ、というのが斧、じゃなかった、主だった。
ある中学の夏休み、俺は近所の進学塾の夏季講習に出向くことにした。しかし、行って後悔した。
内容が大変に高度であり、何を言ってるのかサッパリわからないのである。一緒の机に座っていた
2人もそれは同じだったらしく、前の席に座っている、アタマの良い3人組が時折俺達のわからない事に
おおいに納得して何度も頷いてるのを、腹たたしい気持ちでみていたのである。
と、同じ机の一人が突然ベルトを緩めた。何をするのかと思うと彼は、パンツに手を入れ、陰毛を
引っこ抜いて目の前の赤塚という頭の良い男の首筋にそれをかけた。
退屈していた俺達はすぐさまそれに合流し、我勝ちにとそれぞれの陰毛をどんどん引っこ抜き、次々と
首筋にかけた。競い合い、ムキになってやったので、瞬く間に赤塚の首筋は我々の山のようにもりあがった
陰毛で貴婦人のエリマキのようになって見えなくなった。やがて、彼はかゆかったらしく、ぼりぼりと首を掻いた。
大変に面白かった。しかし、やはり授業はまったくわからなかった。
それとは全く違うのが、高校の時の音楽の授業だった。先生は交響楽団の楽器奏者だったのだが、
授業が始まるとレコードをかけて寝てしまうのだ。ちなみに芸術科目は他に書道と美術があり、これもまた
退屈だったらしく、特に書道は2時間かけてスミをすり、最後に手本の上に半紙をおき、手本をなぞってスミを捨てておわりだったらしい。
その点、われわれの音楽は自由だった。お菓子やジュースをもちこみ、ゲームをしたり、各自好きな事を
していても、先生は寝ているのだ。我々仲間は用具室からギターを勝手に持ち出し、いつもブルースの
ジャムセッションをやっていた。今思えば、それはおおいに俺の役に立っているため、先生には感謝している。
彼はきっと「音楽」というものを押しつけたくなかったのだ、と、俺は良い方向に解釈している。
事実、音楽ならなんでもいい、というテストで俺はギターをもって歌を歌ったのだが、その時に先生が言った、
「上手だなぁ、君は!」
という言葉は、今でも心の底に輝いているからだ。先生は忘れてると思うけど。
さらに大学へ進むと、さらに授業は難解になった。俺は経済学部だったのだが、単にうかったところに
行っただけで、特に興味がある学問ではなく、よって学習意欲も希少であった。
「経済学史」という授業があった。
明日の試験に備え、俺は自宅で猛勉強していた。普段のツケがこんなことになり、自分に多少腹を立てて
いたが仕方がない。先生おん自ら著した教科書に立ち向かい、次から次へと現れてくる専門用語に目を
シロクロさせながら、
「剰余価値とは…○×☆πである、」
などと書いてあるページの下まで何度も読み返し、自分なりの解釈を加え、なんとか理解しようとしていた。
そうか、ナルホド…。アレがああなるから、こうなるわけだ…よし!わかった!完璧だぜ!
と困難を克服した自分をやや誇らしげに思いつつ、次のページに進んだ俺はコシを抜かしそうになった。
次のページには、こう書いてあった。
「と、考える必要は少しもなく、またそのような考え方は誤りである」
バ、バ、バッカヤロウ!!!
しかし、こうして、外部からのものを興味を持って受け入れるというのは、結局自分次第なのだ。
第二外国語でフランス語を俺とクラスの仲間達は受講していた。先生は比較的若いモモヨという名の女性
であったが、この授業もまた我々にとっては難解極まりなく、よって先生からなるべく離れた席に座り、
ヒマをつぶしながらひたすら時が過ぎるのを待っていたのである。
しかし、ある日、これじゃぁいかん、と思った俺は、
「みんな!マジメに授業を受けようじゃねぇか!」
と呼びかけると、熱き魂を持った仲間たちは、そうだ!と盛り上がり、みんな張り切ってモモヨちゃんの
授業に参加したのだった。
先生も、普段後ろの席に座ってふざけてばかりいる我々が進んで前の席に座り、真剣に授業参加してるので
普段より熱がこもる。
そうやって聞いていると、わかるのだ。実によくわかる。わからなかったのは俺達のせいだった。
しかし、助動詞の(だったか?)「en」はわかったが「y」というのがわからん。
「お前、ワカル?」
「わからん」
「俺もわかんねぇ」
「おし、それじゃぁ、先生に聞いてみようじゃねぇか!」
ということで、授業が終わった後我々一同は、先生のところに質問しに行った。しかし極端だ、俺達は。
「先生、このyと言うのがわかんないんです」
彼女は大変喜び、俺の友人に教科書を出すように言った。
「あの、ここなんですけどね」
「ああ、これね。これは次のページの…」
といってめくったページを見て我々は魂が消し飛んだ。そこには巨大なチン×ンの絵がとてつもなくデカく
描いてあったのだ。そんなモノを描いて何のメリットがあるというのだ?
我々は全員うつむいたが(その中にはメタル野郎の三上もいた)、さすがにオトナの先生は岩の様に
動じなかった。てきぱきと質問に答えてくれた。
しかし、その回答はもはや海のモクズと消え、この思い出だけが残っているのだ。
きっと、俺の中ではそっちのほうが重要な出来事だったのだろう。
嗚呼、美しきかな。人生。