俺は話をする際に、固有名刺を出して説明するため、聞いているほうは、その人のことを、
ずいぶん前から知っているような気になるらしい。
俺も未だに会った事はないにもかかわらず、そういう気になっている奴が数人いる。
その筆頭はタケダという奴だ。
彼の話は高校時代、よく友人のマツウラから聞いていた。聞けば聞くほど妙な男であった。タケダという奴は。
彼の話を聞けば聞くほど、俺はタケダがどんな奴だか知りたくなり、それでマツウラはある日、学校に
写真を持ってきてくれた。マツウラと、彼のクラスメート達が数人、写っている。タケダはどいつだ?
「ホラ、この宇宙人みたいな顔した奴よ」
なるほど、こいつか。俺は宇宙人には会った事はないが、そうか、と納得してしまうような得体のしれない
ところがタケダの持ち味だ。
得体が知れないといえば、彼の家も時空間が歪んでるらしい。
ある日、マツウラはイナガキという友人と共にタケダの棲家に遊びに行った。タケダの家は一戸建ての
団地にあり、同じような形の家が沢山並んでいるその中にあるのだが、明らかに他の家と違った特徴が
あった。それは何かというと、カベの色である。クリーム色の家が立ち並ぶ中、タケダの家の壁だけが
不気味にネズミ色なのである。
「ホラ、ここだよ」
とタケダはにっこり微笑みながら言い、玄関を空けると、そこにはネズミの死ガイがあった。
それを見たイナガキは怒りだし、俺は帰るからな、と言ってマツウラを残し、逃げる様に去ってしまった。
ハラをくくり、タケダ家にあがりこむ。そして、初めてタケダの部屋に入った。ムっとする熱気がたちこめる
部屋を見て彼は驚いた。マドがない…。
マツウラはその不思議な部屋で2時間ほど過ごし、白く丸い、ピンポンダマのような形の、まったく
味のしないお菓子をご馳走になったそうだ。そして、無事生還した。
今思うと、それはフなのではないか?とも思うのだが、いくらタケダでもオヤツにフは食わんだろう、
とも思う。昔ニボシが好きだった俺は、友人が来ると、食え、といってよくニボシをだしていたのだが。
もっと言えば、胃腸薬の強力わかもと、も大好きで、よくボリボリと食べていたが、さすがにこれは
オヤツに出した事はない。
このように、タケダは謎のベールに包まれているのだ。きっと潮の満ち引きにも、奴が関係しているらしい。
放課後、学校の購買部の前でパンを食っているとマツウラがやってきた。彼は五右衛門のような
サムライ顔をしていてなかなかいい男なのだが、エロ本を買いに行く時にはきちんと変装をして出かけた
そうである。まぁ、そんなことはどうでもいい。マツウラ、すまん。
「sin、タケダに電話してみるか?」
おぉ、それはいい、と言う事で彼は受話器をもちあげた。タケダはいたらしい。何か話している。
そのうちに、ちょっと待て、sinにかわるから、などと言って俺に電話を差し出した。ゴタイメンだ。
「おぅ、タケダか?久しぶりだな」
などと初対面の挨拶をすると奴は、聞き取りにくいモシャモシャした声で。マ、マ、マツウラにかわれって、
などと言っている。
「なんかお前にかわれっていってるぞ」
それを聞いたマツウラは怒りだし、バカ、なんでsinと話さねーのよ、ん?なーにが見知らぬ人と話すのイヤダ
よ?などと言っている。明らかにタケダの方が正しいのだが、次に彼はタケダを脅し始めた。
お前、しらねーぞ。sinはな、うちの高校で番はっててな、なまら怖えーんだぞ、などと電話口で叫び、
「ゴメンと言っといてくれ」
というメッセージを俺にことずててくれた。
一見、マツウラはタケダをいじめている様にみえるかもしれないがそんな事はなく、時々一緒に
飲みに行ったりもしていたらしい。ある日、行き付けの居酒屋でタケダが泥酔したそうで、便所に
連れて行ってあげると、たまたま個室が満室だったらしく、タケダは片っ端からドアを叩き。
「あけてー!あけてー!吐きたい!」
と騒ぎ始めた。恥ずかしくなったマツウラは逃げる様に席にもどり、ヒトリで飲んでいた。
すると20分程して店員が彼のところに来てこう言った。
「あのー、マツウラさんの友達、ちんちん出したまま倒れてますけど」
最初に述べたタケダの写真は、小学校の時の炊事遠足のものだったらしい。
彼らの班は、ジンギスカンを予定していた。めいめいが道具を分担して持ち、タケダはジンギスカンのタレを
持つ係だった。タケダはなにかとイナガキに擦り寄る。
「ねぇー。ねぇー、あのさー」
それがあまりにもシツコイので、イナガキもついにイカり、うっさいな、オマエは!とタケダを突き飛ばした。
運悪くそこはイワの上で、しかもタケダは運動神経ゼロなのでそのまま落ちて行き、ケガはなかったが
ガシャッっと何かが割れるような音が響いた。
「アッ!マズい!」
リュックの中のタレの瓶が見事に割れてしまったのだ。
その後、なんとかして無事にジンギスカンは出来上がったが、タケダは先ほどの一件でイジケてしまい、
じゅうじゅうとうまそうに焼けている肉どもに背中を向け、なぜか一人でスイカを食っていた。
その時、タケダが突然こっちを振り向いた。ん?どうしたんだ?と思ったその時、
「アックショイ!!」
という音と共に奴の口の中にあったスイカの咀嚼したのが大量に飛び出し、
「ジューッ!!」
焼スイカ。