「今日からみんなの仲間になるsin君です。今日は引越しの片付けがあるから
これで帰るけど、みんな、明日から仲良くね」
と先生が言ったので、俺も心持ち頭を下げ
「よろしく」
と言った。小学校二年生の時の事だ。
どこにでもある転校の風景である。しかし、恐ろしいことにそうではなかった。
たぶん、日本中を捜してもこんな経験をしたのは俺一人くらいだろう。
新しい我が家はちょうど二つの校区の境界線にあり、我がハハは、
俺を間違って違う学校に連れていったのである!
俺の粗忽さはやはり俺のせいではなく、明らかに遺伝だった。おかげで俺は
挨拶だけして消えた幻の転校生になってしまったではないか。
それがわかったハハはあわててもう一つの学校に連絡をとり、次の日、俺は
付き添いもなく、一人でトボトボと山道を歩き、学校に行かされるハメとなった。
教室にはまだ誰もきていなく、自分の席さえわからないので、俺は一人で教室内を
ぶらぶらしていた。
「あれ、お前誰??」
「おぅ、俺は転校生だ。よろしくな」
転校の2度目の挨拶はこんな風だったが、普通は先生に連れられ、、興味の目と
少しの照れくささの中、自分の席に向かうものである。
しかし、この性格なので、すぐ友達になり、俺は先生が来る前にみんなと遊んでいる
のだった。
中学生になったとき、俺は「目撃者」を探すことにした。
なんせめずらしい体験だ。
中学は付近の3つの小学校の生徒が集まっていたのだ。
それでまったく関係ない話を思い出した。気にしないで書く。
俺が行った小学校では、Kという珍しい名字の男の噂が広まっていた。
彼はもう既に、近くの学校に転校したあとだった。
授業中、彼は
「せんせい、トイレに行ってきていいですか」
といい、便所に向かったらしい。そのまま授業は続く。
10分、20分と時間が経過するが彼はなかなか戻ってこない。
さすがに先生も不審に思い、みんなでトイレに見にいくと、
「タスケテクレー!タスケテクレー!バシャバシャ」
という音が聞こえ、あわてて便所に駈込むと、落ちていた、ということだった。
そして、中学生になった今日、俺の席の前に座ってる男の名は、Kだった。
俺は言った。
「あのさ、M小学校から転校したか?」
「おう、いたよ」
みつけた!コイツだったのか、ウワサのKは!
そこで俺は物凄く得意になり、決め付けるように言った。
「お前、おちたろ。便所に」
すると彼は突然イカりだし、
「チガウ!転んだだけだ!」
と叫んだ。この後、ヤツはグレてしまったが、俺の発言が原因ではないことを切に祈っている。
話を戻す。とうとう、最初に行った学校の俺の所属するはずのクラスだったヤツを発見した。
「あのさ、1日だけきて姿を消した転校生いなかったか?」
「あぁ、そういえば、そんなヘンなやついたなぁ。なんだったんだろ」
「覚えてたか!あれは俺サマだ、ギャハハハ!」
なぜ俺は得意になっているのだろうかと思ったが、気分が良いので、まぁ、いいのだ。
気になるKのその後だが、実は俺の職場によく来ていることがわかり、去年、偶然に再開
し、友達付き合いが復活した。俺は20年以上前のあの出来事の真相を知りたくてウズウズ
しているのだが、またグレて、彼の奥さんにご迷惑をかけるのはアレなので、ガマンしている。
うーん、思い出は美しく、かつ、笑える。