円山公園駅から地下鉄に乗ってきたその男と、座席に座っていた俺の目が
合い、彼はニコリと微笑んだ。といっても知り合いでもなんでもないのだ。
「あ、ギャランドゥだ」
年齢不肖。中学生のようにも見え、かつ30代にも見えるその男を、俺達はギャランドゥ
と呼んでいた。
奴に始めて会ったのは、地下鉄南北線の真駒内方面乗り場だった。いつものように大学に
いくためそこを通りかかると、何かの歌声が聞こえてきた。なんだろう、と思いそっちに歩いて行くと
込み合う朝の地下鉄ホームで、西条秀樹さんのギャランドゥを、しかも振りつきで踊り歌ってる
奴がいた。今でこそパフォーマーやストリートミュージシャンは珍しくないが、当時はあまり見かけなく
しかも楽器も持たずに、しかもこんな時間からバカをやっている奴が少し気に入ったので、
しばらく見物してから学校に向かった。
「おい、さっきさ、地下鉄にヘンな奴がいたぞ。なんか歌ってたぞ」
「あ、ギャランドゥのことか?」
友人達に話を聞くと、彼は少しヘンな奴で、様々なことをあちこちでやらかしているらしい。
友人が地下鉄に乗っていると、ギャランドゥが人ごみの中を
「チャーラッチャー」
と刑事ドラマの名作「太陽にほえろ」のテーマを歌いながら走ってきて、友人に手帳のような
物を見せ、
「こんな人を見かけませんでしたか」
などと聞いたそうである。なかなかにネタの豊富な奴なのだ。
そんな訳で、俺は彼の顔を知っていた。そして奴は、「今日の出し物」を突然始めた。
「エー、ツギは西18丁目、西18丁目でぇ、ございます」
社内アナウンスのマネであった。彼を知らない他の乗客は、突然のモノマネに驚いている。
しかし、よく通る声、聞き取りやすい口調、これが実にうまいのである。俺は大喜びで見ていた。
「ツギは西11丁目、で、ございます。降り口、は右側にかわります」
そうして西11丁目についたとき、丁度土曜日だったため、半ドンで仕事を終えた人々が大勢
乗りこんできて、その人ごみのウズに彼は巻き込まれ、まったく見えなくなってしまった。
しかし、その人ごみの向かう側から
「新札幌行きでございます…」
まだやっているのであった。
なんでボウズ、というのもいた。奴とは一度きりしか会ったことはない。
冬の地下鉄琴似駅、上りエスカレーターの出口付近のベンチに座ってバスを待っていた俺は
なんとなく、エスカレーターをぼんやりと見ていた。
すると、地平線から太陽が昇るように頭が見え、次にニコニコした顔が見え、やがて全身がみえた。
顔が見えたときに我々はなんとなく目が合い、そのままなぜか俺は目をそらせず、彼はまっすぐに
俺のほうへと歩いてきて、俺のとなりにちょこなん、と座った。小学生のように見えるが、同年代の
ようにも見える。
なんで「寒いね」
俺「ん?ああ、寒いね」
なんで「なんでこんなに寒いのかね?」
俺「なんだって!?」
俺は驚いた。小学生ピッチャーにいきなりフォークを投げられた感じだ。
「いや…その、冬だからさ」
「ふぅーん。バスの中はあったかいかなぁ?」
「うん、暖房入ってるからあったかいよ」
「なんで暖房はいってるの」
「えぇ!?それは、その、乗ってる人にいいようにさ」
「ふぅーん」
なんでボウズは立ちあがり、後ろにあるキオスクの方に立ち去った。でも、「なんでー?」という
声がかすかに聞こえたので、キオスクのおねーちゃんになにか質問していたのだろう。
再び俺の横に座った彼は
「肉マン買ってきた。あったかい」
と俺に報告し、カバンからミミカキをとりだして耳掃除をしながら、肉マンをパクつきはじめた。
バスがきたので、それじゃぁね、といって奴に別れを告げた。
俺は最近西18丁目駅を利用するのだが、最近よく見かける高校生カップルがいる。
仕事を終え、駅に向かうと、改札機の所でずっと制服姿で立ち話しているのだ。
ミニスカートの子がなかなかカワイイので、目ざとい俺は、スグに顔を覚えた。
その日も8時半ごろ駅に向かった俺は、彼らをみつけた。しかし、いつもとちがう。
彼女が改札機にすわり、彼がその前にしゃがむような格好ですわっている。
なにしてるんだろな、と思いつつ改札を抜けた俺は、ときおり彼女の手がちらちらと
動いているのに気がついた。なんと、彼女はときおりスカートをめくって、彼にパンツを
見せてあげているのだ。
なんという非常識!なんというタダレた青春!キミタチ、そんなことをしていて、いったい
ハズカシイとはおもわないのか!?
俺は怒り心頭に発し、来てしまった地下鉄に乗り、家路についた。
そして、次は、彼の後ろに並ぼう、と強く思った。でも、あれから会ってない。実に残念無念。