イタリアのウマさ

出張でパリ、ヴェネツィア、フランクフルトにいった。買い付けにいったのさ。
「わー、sinさんって素敵!一流のエリート商社マンなのね!」
残念ながらそれはまちがっている。俺の役回りは、荷物持ちといったところだった。
多くの女性が見てるだろうに、実にくやしいぞ、俺は。

ヴェネツィアは運河だらけだよ。車なんか走ってない。バスもタクシーもみんな船!
中央分離帯は運河に打ちこんだ木の杭だよ。
フム、では道路は?というと、せまくてごっちゃごちゃ。節操なくくねくねと曲がった道路は
かなり俺好みで、どこを歩いているんだかさっぱりわからん。

道路に面した居心地のよい食堂に入った。
リストランテ。トラットリアよりも格式が一段高いらしい。
イタリアにきて、イタリア人とはじめてのイタリア料理。
水もワインも頼まないとでてこない。水もけっこう高いので、ワインにする。
料理を適当に頼んでもらうと、しばらーくして、得体の知れない、黒い、べったらこいモノが
じゅうじゅうと音を立ててあらわれた。
「…なんスか?これ?」
きのこのステーキだという。さっそくナイフで切り、口に運んでみる。
「う、ウマい!!」
飲みこまなければならないのが残念なくらいだ。胃袋が喜んでいる。
俺はこの瞬間から完璧にイタリアを友として自分の中に迎えた。
「これはイカ墨のリゾットスか?」
これなら食ったことがある。でも、目の前にあるリゾットは前に見たそれとちがって、
さらに強暴的にドス黒い色をしていて、もっとディープな感じだ。
それをスプーンで口に運ぶ。
シビれた。あまりのうまさにクラクラした。生臭く感じる一歩前の絶妙な濃厚さで、
イタリアの奴隷になってもいいかな、とチラリと思うほどのものだった。
それにしても、よく食うやつらだ、イタリア野郎は。
実はこの前に、前菜もくってるし、ワインはうまいし、肉とクリームをこねくりまわしたもの
やら、なんたらかんたら物凄い量の料理が出てきて、俺なんかは逆に苦痛になるくらいの
ボリュームなのに、食うのだ、全部。まるで掃除機だ。
到底われわれポンニチ達は食いきることができずに、、ヒノマルの旗のもとに玉砕してしまった。
イタリア人というのは、どうも物凄い集中力を持った国民性のように、俺には思えた。
ウマい料理をたらふく食い、女性をクドき、サッカーを愛し、素晴らしいデザインと性能をもった
ものをつくりだす。どれもこれも集中してやる。もちろんそうでない人もたくさんいるだろうが。
また、集中しておおげさらしい。
これは何かの本で読んだのだが、戦争中、敵の様子を探りに行き、
「敵の数10人」
と報告する。
その報告を聞いた小隊長は中隊長に
「敵の数100人」
さらにさまざまな報告経路を経た後、最終的な敵の数は10万人に膨れ上がり、
「に、逃げれ!」
ということになるらしい。

その後、どこで何を食ってもはずれはなく、すべての料理が大変ウマかった。しかし
これからイタリアに行く人は、コース料理をたのんではいけない。絶対に食いきれん。
でも、今でも思い出せばツバがわいてくる、あの「きのこのステーキ」だけは食べてみてほしい。