ヨシダ兄弟

誰にでも幼い頃、というものはあるのだ。
もちろん、俺にもあった。同じ人類なので当然至極といえばそうなのだが、
一部の友人たちの中には
「いーや、お前にはないね」
等と言う奴必ず出てくるので、ま、転ばぬ先のツエ、てえやつだ。

小学生のガキだった俺は、毎日とにかく走り回り、遊びまくっていた。
お気に入りは道端に落ちているウンコの爆竹での破壊活動だ。
ハヤブサのような鋭い目でウンコを見つけては爆破する。一歩間違うと
自分も巻き込まれてしまうので、細心の注意を必要とするのだ。

学校がハネると一目散に家に帰り、玄関にかばんを放り投げ、そのまま
チャリにのって遊びに行く。
俺が近所のシゲタという奴と話をしていると、隣に住んでいるツカサという奴が
チャリでこっちにやってきた。俺は内心「チッ!」と思った。なにかとウルサイ奴なのだ。
案の定、奴はまた無理難題をふっかけてきた。
「おまえら、これできるかァ?」
なんなのだ、そのエラそうな言い方は。
で、奴が言うワザとは、チャリで走行中、右90度にハンドルを切り、次の瞬間
180度左に切り返す、という恐ろしいワザであった。
俺はどう考えてもムリだ、と思ったので、お前やってみろや、と言うと
奴は当事の高級自転車だったジャンプ5という愛車にまたがり、50メートルくらい
離れたところから我々に向かって猛然と加速をはじめた。
そして我々の目の前で走行スピードがMAXに達した時、唐突にハンドルを右90度に
切った。
「グワシャ」
と資源ゴミを踏み潰したような音とともに、奴は奴が走るはずだった方向に向かって
すっとんでいき、顔面を地面にこすりつつ止まった。
ばかめ。どう考えてもムリだ。しかもそんなことをしてなんのメリットがあるのだ?
しかし、そんなことはオクビにも出さず
「ツカサ、大丈夫か」
などとさらりと言ってのける俺なのだ。

近所の有名な悪兄弟、ヨシダ兄弟も俺の近所に住んでいた。
こ奴らはギザ10とかで車に傷をつけるのが大好きな奴らなのだ。
ある日、シゲタと俺、そしてヨシダ兄弟の弟と三人で学校から我が家に向かって
歩いていた。我々の通っていた学校は山を一つ越えた遠いところにあり、スズメバチ
が巣を作っていたりマムシがでたり、はたまたコウモリまで出現する、という、大自然いっぱいの
弱肉強食学校で、いつも帰りにはその辺にあるヤマブドウを食ったり、藪を散策しながら家路につくのだが
どうもヨシダの挙動が不審なのだ。
いつもは人一倍そこらへんの草花を蹴り飛ばしながら歩くくせに、今日は妙に静かで、孤独の影を
背負ったように無口なのである。
変だ変だと思いながら、もうすぐ家、と言う時に、奴は突然、俺、近道して帰るから、などと叫び、
だだっと草原を駆け抜け、そのむこうにある高床式の物置の向こうに消えていった。
俺とシゲタは呆然と、ヨシダが消えた草原の向こうを呆然と見ながらたちつくしていた。
そこから家まではごく僅かで近道の必要などなく、奴の行動が全く理解できなかったからである。
しかし、そのまま立ち尽くしていると、我々は信じられない光景を目の当たりにする事になったのである。

                         (注)俺は中学の美術で1をとったことがある。

これが我々の目にした光景である。そして、そのあと、さらに衝撃的なものが出てきた。
たまらず我々は走り出し、物置の向こうに回り、判りきった事を叫んだ。
「お前、なにやってんのよ!!」
ヨシダ弟は以前にも右足だけ足跡が黄色かったので、お前、ウンコ踏んだろ、と詰問したのだが
その時はかぼちゃだ、と言い張り難を逃れたのだが、今回は現行犯だ。言い逃れはできない。
それでもヨシダは泣きながら弁解し、我々は奴の罪を許した。もちろん、この先奴に対して優位に
立つ、という計算が既に働いていたのだ。
その後、奴の一家は知らないうちに引越しし、例の現場にはコンブだのメカブだのが(うまい)うっている
店となった。ちなみに現場は札幌の西野3条8丁目である。ここを通る人は黙祷するように。

おまけ
中学の美術で1をとったのは本当で、俺は絵が極端にニガテなのだ。
ある日の授業で、ブロンズ粘土で自分の手を作る、ということをやった。拳の置物を作る、というもの
だったが、友人たちがせっせと作製しているのを俺は冷たい目で冷ややかにみていた。
友「ん?どうした?」
俺「お前の作り方は間違っている!はじめから握った形を作っても、作品に表情が出ない。
最初にまず開いた形の手を作り、それを握らせないとホンモノはできないのだ」
「ふーん。ま、好きにしたら」
そこで俺は開いた形の手を精巧に作り上げた。それは自分で言うのもアレだが見事な出来栄えだった。
我ながら満足し、次に俺は手を握らせる作業に入った。が、しかし、5本の指すべてがぽろぽろと
とれてしまい、手のひらのみ、となってしまった。ホロ苦い思い出である。ほろ。