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私たち夫婦は1998年10月25日に日本を出て、およそ一年間、5大陸・32ヶ国を回って,先日帰国しました。いつ頃、どういうきっかけで世界一周旅行を思いついたの?という質問をよく人にもされますが、自分達でもよくわかりません。ただ一つ確かなことは、出会った時点で既に二人とも"生きているうちに、この目で世界中を見て回りたい"という夢を抱いていたということです。やがて、力を合わせて夢をかなえよう、ということになり、私たちは結婚しました。
それから2年、準備には時間をかけました。私たちは最初から"世界一周"にこだわっていたわけではありません。どうしても行きたい国々が世界中に散らばっていたため、結果的には世界一周ルートが最も経済的かつ効率的だということがわかったのです。“ 世界一周航空券 ” − 各航空会社の路線さえあれば、世界中どこでも16都市まで乗り降り自由、スケジュールの変更も自由という、私たちのような個人旅行者には持ってこいのチケットがあるのです。
旅のスタイルは “バックパッカー”。これは大きなバックパック(リュックサック)一つに、旅に必用最低限の装備を詰め込み、それを背負って各地の安宿街を自由にわたり歩く者を指します。10代後半−20代前半の若者がほとんどですが、中には私たちのような30代、あるいはそれ以上の人もたまに見掛けます。
行き先・移動手段・宿泊先などのスケジュールは自分たちで決めなくてはいけません。行く先々で多くの手間がかかりますが、この手間こそが旅の醍醐味だと思えるようになると、もう病み付きです。何といっても現地の人たちとのコミュニケーションのチャンスが多い!バス停、鉄道駅、タクシースタンド、港。移動する数だけ人との出会いがあり、良い思い出にするも悪い思い出にするも自分達次第。時には現地の通貨価値がわからないまま、相場の何倍もふっかけられているのにも気づかず翌朝になってから悔しがる、なんてエピソードは数え切れないほどあります。
しかし、旅といえば何といっても食事!特に私たちは"その土地のものが一番旨い"をモットーに、行く先々で現地の人達がよく集まる店を探し、言葉が通じないのも構わず入っていって"みんなが好きな物を下さい!"といっては食事を楽しんでいました。食事こそは万国共通言語。「 おいしい! 」といわれて嬉しくない人はいません(どこへ行っても最初に覚える言葉はこれでした)。どういう食材を、どう調理するのか。それを見ながら料理の話をするうちに人々と打ち解け、その土地の文化・風習などもわかっていく気がしたのです。
そんな旅の道中で特に印象深かった料理にまつわる話を3つ、ご紹介しましょう。
ベトナム・ホーチミンではハマグリがかなり食べられている上、結構いけるという噂を耳にした。魚介類に目がない私たちだが、東南アジアをしばらく旅していて最近ろくなシーフードに会わない。たまには屋台を離れて、普段は近づきもしない"レストラン"に行ってみようか!
選んだ店は仕事帰りの地元ベトナムサラリーマンでにぎわう"炭火焼屋"。言葉が通じないせいもあるが、ベトナム人って、いつも騒がしい。ビール片手にわあわあわめいているさまは日本のビアホールみたい。
さて、ベトナムでは外国人と見るや相当ボラれる、というのが常識。言葉は通じないまでも"私たちホーチミン生活長いんだもんね"という態度で、適当に何品かオーダーする。まず、焼肉(何の肉かわからない)が運ばれてきた。テーブルの上に置かれたベトナム風醤油ニョクマム(魚醤)をかけて食べる。旨い! 次に名物チャーゾー(ベトナム風春巻き)。小ぶりでカラッとした揚げ春巻にライスペーパーを巻いて食べる。アチチッ、肉汁たっぷり。いける! 皿に盛られた生野菜も付いてきたぞ。そして、最後に運ばれて来たのが、本命のハマグリ。最近の日本ではもう見かけないほど大きい、手の平大のジャンボサイズ。口がパカッっと開いていていっそう食欲をそそる。これにもニョクマムをかけて、一気に口に入れる。焼き立てで熱いけどジューシーで美味い。大満足して、周りを見回してみると、噂通り、店内の客のほとんどが、みーんなハマグリにかぶりついている。
「やった。これぞ地元の味!」と満足感に浸っていたところ、一つおかしなことに気付いた。みんな食べながら,貝殻をポイポイ床に捨てていくのだ! 当然テーブルの下には食べかすがつもっていく。綺麗な床もソースやらなんやらでべったべた。
「うそ−」とつぶやく。良く見るとカニの甲羅、エビの殻、更には飲み終えたビールビンや空いたお皿まで何もかも床にポイッ、ポイッと投げ捨てている。
「なんてお行儀が悪いんだろう。」とあっけにとられたが、やがて、どうやらここではあたりまえらしい。
食事を終えた客がウエイターに「お勘定」と言うと、待ってましたとばかりに店員が床に放りっぱなしの皿やビールビンを拾いながら数え始めた。飛び散ったソースはモップがけして、あっという間に元通りのピッカピカ。日本でいうなら、回転寿司の会計と掃除を同時にやってるようなもの。しかし皿の色で値段がわかるはずはなく、店員も時々よくわからなくなるらしい。
「あんた何食べた?」なんて客に聞いてるのがおかしかった。
ベトナム人って汚いのか、きれい好きなのか?
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| ホーチミンの大衆食堂(コム) | 揚げ春巻き(チャーゾー)は小さめ 手前の魚醤(ニョクマム)に つけて食べた |
オーストラリアのとある牧場に泊まった時のこと。日没直前にカナーボン郊外の牧場にたどり着いた私たちはハラペコだった。夕食には牧場で用意されるオージー料理。どんなものが出るのか楽しみに待った。
メインディッシュはうわさのオージービーフ。別名ゾウリステーキと呼ばれるだけあって、その大きさには驚かされたが、お味のほうは、塩コショウして網焼きしただけのシンプルなもの。どうってことはない。ところが、その後に出てきた"テールシチュー"が信じられないほど味わい深いものだった。いったい何種類の材料が溶けこんでいるんだろうと目を白黒させたほどだ。もう一口、もう一口! といくらでもお腹に入る。(これ、もしかして・・・!?)
聞けば、このシチュー、カンガルー(!)のテール(尻尾)を使っているという。どうしてもこの美味しさの秘密が知りたい。いや、ぜがひでもおしえてもらわなきゃ! 私は勇気を出して料理を作ったジョーに声をかけた。
「シチュー、すごく美味しかった! どうやって作っって?」
「ふふふ。そんなに美味しかった? それはね。。。」
彼女はうれしそうに笑い、丁寧に教えてくれた。
「オニオンをみじん切りにして、カラメル状にゆっくりゆっくり炒めて、それから他の野菜を入れるの。野菜は何でもいいけれど、セロリとトマト、ペッパーは必ず入れて。ウェルダンに焼いたテールと、フレンチオニオンソイ、ローズマリー、ミックスハーブも普通のシチューと同様に加えて煮込んで・・・」
私は必死でメモをとっていく。そして、話は肝心の材料選びのポイントへ・・・。
「一番大切なのは、肉の選び方。大人になったのはイマイチね。大体このくらい(ウエスト位置)の背の高さのものが一番美味しいのよ。ところで、日本でもカンガルーは手に入るの? 」
はっ!とわれに返った。そうか、日本には、カンガルーはいなかったっけ・・・。あまりの美味しさに、夢中でレシピを尋ねた自分が恥ずかしくなって、思わず苦笑してしまった。ジョーはそれを察したのか
「もともとこれはオックス(雄牛)のテールシチューのレシピだから、牛で作ってごらなさい。きっと美味しくできてよ!」となぐさめてくれた。
カンガルーの肉は、ルーミートと呼ばれ、オーストラリア全土で、年間7千〜8千トン生産されているとのこと。そのうち2千トンはオーストラリア国内で消費され、のこりは輸出されているという。もしかしたら、日本にも入ってきているのかもしれない。いつの日か、どこかで手に入ったら、ぜひ、あの味の再現をしてみたいと思っている。
タコスは代表的なメキシコ料理。私たちはメキシカンが大好きで、日本でもよく専門店に行っていた。ところが、メキシコのエンセナダという港町で、私たちは思いがけないタコスに出会った。
港町といえばシーフード! と早朝港へ直行した。お目当てはこの町の名物、シーフードタコス。
まずは、小さな店が10軒あまり軒をつらねる魚市場を見てまわる。生のままでも食べられそうな新鮮な魚介類が所狭しと並び、売り手も威勢がよく、活気にあふれている。これまでも色々な国で市場をのぞいてきたが、こんなに新鮮な魚介類を目にするのは久しぶりだ。並んでいるのはマグロ、カジキ、カサゴといった日本でもお馴染みの魚だが、それらに混じって鮮やかなオレンジ色のガリバルディ(カリフォルニア沿岸のコンブ林に住む魚)が並んでいた。異国を実感する。意外に多いのが貝とエビ。現地名"アルメハ"と呼ばれるバカガイによく似た二枚貝は黒、白、ピンク、と色とりどり。一尾一尾を手で剥いたエビを、芸術的といいたいほど美しく並べて売っている。
さあ、この新鮮なネタからどんなタコスができるんだろう? 期待に胸をふくらませながら、市場の向かいの小さな店に入った。まず魚タコスとエビタコスを頼んだ。待つこと10分。ところが出てきた料理はイメージしていたのとほど遠い、ふにゃふにゃの、巨大餃子の皮のようなものが二つ折りになっている。中身はどうなっているんだ? どう見ても、これは天ぷらだ。
「これ、どうやって食べるの?」 と店のお姉さんに思わず聞いてしまった。教わってまたビックリ! その巨大餃子(?)を手の平にのせ、中にキャベツ・タマネギの千切り、トマト、コリアンダーなど(テーブルの上に並べてあった)を好きなだけ入れて、手巻き寿司のようにクルクルッと包むのだ。そして各種とりどりのソースを自分の好みに合わせてたっぷりかける。タコスというと"辛い"というイメージがあったが、辛いチリソースのほかに甘いアボガドソースや酸っぱいサワークリームなど色々な味付けがあった。
赤・青・白のソースですっかりカラフルになったタコスにかぶりつくと、口の中で、ジューシーな天ぷらとトマトの甘味、アボガドの爽快感、チリの唐味が一気に混じり合う。天ぷらがこんな風に変身するなんて、恐れ入りました!ちなみに中の具も、魚、エビ、タコ、貝柱とバラエティーに富み、まるで寿司屋のネタみたいだった。
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| ペリカンとカモメがお出迎え | 色とりどりのサルサ(ソース) 左から、赤:辛 緑:甘い 赤黒:激辛 白:酸っぱい |
自分で味付けした、魚タコス |
食の専門誌、月刊 「味の味」 2000年 2月号掲載