料理を通じて人と出会う


[1] なんと山奥にもビアガーデン!?(ドイツ・ミュンヘン)

  ミュンヘンではタイ旅行で知り合ったルッツ夫妻の家にお世話になった。ミュンヘンは“ビールの都”、その名の通り夫妻はビールが大好き。
 毎日夕食にジョッキを傾けるのはもちろんだが、食事が済むと近所のビアガーデンヘ行く。私たちも友人夫婦と共に1リットルのマンモスジョッキでガンガン飲まされた。ドイツのビールでは生コウボがそのまま入った、どぶろくのようなヴァイツェンビールがすこぶる旨い。
 ところで、ルツツ夫妻の趣味は山登り。週末にバーバリアン・アルプスにピクニックに連れていってくれた。ロープウェーで標高1,560mまで上がった後、ドイツの最高峰ツークシェビッツエ山を正面に見ながら、登山道を進む。傾斜が60度もある急な崖道をテクテクと歩く。一っ問違えば谷底に転落して一巻の終わりだ。森林帯を抜け、氷河が削った広大なU字谷のパノラマを楽しみ、万年雪を眺めて進むこと3時問。やっとの思いでたどり着いた谷の最奥部に私たちが見たものは・・・何とビアガーデンだった!
 ミュンヘンの人がいくらビール好きといっても、まさか登山中に、しかもこんなに険しい山奥でビアガーデンに入るとは!? これから下山するというのに、そんなに飲んで大丈夫なの?
 ルッツは、「今日はビールはやめておく」と言って私たちを一旦は安心させたものの、おもむろにビールのレモネード割(これはビールとは呼ばないらしい)をジヨツキで1リットル飲み干し、「さあ、行こう!」。 これほどのビール好きだとは思わなかった。
 ミュンヘン市民の一人あたりの年間ビール摂取量は、平均350リットルだそうだ。つまり一日1リットル! いやはや恐れ入りました。

 ミュンヘンのビアホールで
マンモスジョッキを傾ける
こんな山道の最奥に
ビアガーデン
があった!

[2]2100%天然フルーツシェーク (カンボジア・シェムリェップ)

  カンボジアの誇る世界的な遺跡“アンコールワット”を訪ねたシェムリェップの村で、私たちは意外なものに出会った。フルーツシェイクである。夕方になると、村のそこかしこで色々な屋台が立ち始めるが、シェイク屋さんは、一番人気があるという。
「ここに来たらシェイクを飲まなきゃだめよ」
ある安宿でこう言われた私たちは、これから〃美人三姉妹の店"に行くという日本人グループの後について行った。人気の店だけあって、屋台だけでなく、歩道にもテーブルと椅子が並び、20人は座れそうだ。評判の三姉妹はともかく、ガラスケースに収められた何十種類ものトロピカルフルーツの多彩な美しさにはまず目を奪われた。バナナ、リンゴ、パパイヤ、マンゴー、トマト、ジャックフルーツ、スターフルーツ、ドリアン……。
シェークといっても、"某ハンバーガー屋〃さんで食べるものしか知らない私たちは、一体、どんなものが出てくるのか興味津々。
「どのフルーツにしますか?」
まずは、好きなフルーツを選ぶ。もちろん〃ミックス"なんていうのもアリだ。美人のお姉さまがフルーツを適当な大きさにカットしてミキサーに入れ、練乳、砂糖、リンゴ汁を加える。最後に、わきの発泡スチロールの箱からかち氷を取り出して突っ込み、ガガッとかき混ぜる。ただそれだけなのだ。人工着色、味付けなど一切なし。正真正銘のナチュラル・シェーク。細かく砕けた氷がキンキンに冷えて美味しい。
 いろいろ試した結果、一番気に入ったのはジャックフルーツだった。パイナップルとバナナをミックスしたような不思議な味わい。すっきりさわやか。一度口にしたらやめられない。値段はわずか1000リエル(32円。〃フルーツの王様"ドリアンのシェイクも人気があるが、香りが強烈だから他のフルーツとのミックスは要注意とのこと。
 冷蔵庫がまだ普及していないこの国で、庶民の一番の楽しみはこのフルーツシェイク。私たちも毎日シェイク屋台に通う常連客になった。あのシェイクを飲むために、もう一度カンボジアに行ってもいいとさえ思うほどだ。

[3] バナナの葉に盛られたご飯……ランチは葉っばの上?《南インド・チェンナイ》

 チェンナイはインド南部の都市。どの国に行っても〃庶民の味"を求める私たちは、町の小さな大衆食堂に突撃した。表に "MEAL"(食事)と書いた看板があるだけで、メニューもない。
 席に着くと、真っ黒に日焼けした40歳ぐらいのおじさんが、ニコニコしながら私たちのテーブルに大きなバナナの葉っぱを敷いた。
「どつから来たんだい?インドは初めて?」
この店には、日本人は滅多に来ないらしくニコニコ顔。こっちも白然と笑顔になる。おじさんは、このバナナの葉っぱにコップ一杯の水を掛けると、手で葉っぱをこするような仕種をした。
「あー、自分で洗うんだ」
 言われる通りに皿(つまり葉っぱ)をきれいに洗う(?)と、店の子供たちがやって来て、さーっと料理を並べ始めた。2種類のカレーをひしゃくでポンポンと葉っぱにあける。つづいて小皿が2枚。1枚には真っ赤なチャツネ(もちもちして甘い)、1枚には真っ白なヨーグルト(酸つぱい)。大盛りの白いライスと黄色いサフランライス、チャパテイという薄焼きパンまでのって、食卓はいっぺんに華やかになった。
「きれいだなー」と感心していると、おじさんがライスの上にひしゃくでスープ(サンバルソース)を掛け、右手でかき混ぜて食べる仕種をした。
 ほ〜、本当に素手で食べるんだ。見よう見まねでライスをかき混ぜ、口に入れる。ライスはちょっとつまみにくいけど、本場では食べ方も真似なくては:…。
 ふと気づくと、子供だけでなく大人までがテーブルを取り囲んでいる。好奇心いっぱいのニコニコ顔。私たちがカレーを口に入れるたびに「お〜っ」と喚声を挙げる。妙な盛りあがりだ。
 南インドのミール(定食)は何種類ものおかず(?)をご飯と混ぜて好きなだけ食べるようだ。ベジタリアン(菜食主義)が多いので、おかずの材料は肉を使わず野菜のみ。しかし種類は豊富で、毎日食べても飽きない。一つのおかずがなくなると、おじさんがすぐにやってきて、お代わりをよそってくれる。わんこそばみたいで嬉しかった。

バナナの葉の上に
並んだライスと
何種類ものカレー
こちらは、おしゃれに
小皿に並べた
ミール(定食)

(4)スープは最高、でもお刺身は嫌い? (ベネズエラ・.ロスジャノスでピラニア釣り)

 ベネズエラの“ロス・ジャノスす”は南米を代表する大河オリノコ川流域の大湿地帯。百種類を越える野鳥、ワニ.カピバラなど野生動物がいっぱい。
「今日はピラニア釣りに行こう」
朝、ガイドのヘンリーが言った。
「えつ?ピラニア?」
 ピラニアといえばアマゾン川が有名だが・オリノコ川にもいるらしい。
釣り竿はなく、太い糸に直接釣り針を付けるだけ。エサは何と牛肉の角切りだ。えっ、こんな簡単なシカケで釣れるの? 陸の上でも鋭い歯をガチガチさせているピラニア。
「うわ〜っ! 危ないっ!」
!指なんか簡単に食いちぎられそうだ。シカケをぽいっとその辺に投げ入れるたびにガツガツッと手応え。まさに入れ食い状態だ。
「これ、食べるの?」
「もちろんさ。夕食を楽しみにね」
作るのはピラニアスープ。ピラニアの肉と刻んだタマネギに、水を加えて柔らかく煮る。少し冷ましてから電働ミキサーへ。しばらく混ぜて、なめらかになったところで鍋に戻し、ミルクを加えて再び温める。塩で味をととのえて出来上がり。濃厚な、コクのある、ふか-い味わい。ふつうのクリームスープとは比較にならない。たとえるなら最高のトンコツスープか。同地ではこれが唯一の調理法らしい。魚の旨味を引き出す方法を知っているんだなーと感心する。
 しかし、日本人としては活きのいい魚を前に、スープだけなんてもったいない。やっぱり刺身だ。そこで、釣った中から1尾だけもらい、自分で捌くことにした。歯に気をつけながら三枚におろして"ピラニアのタタキ〃に挑戦。醤油の代わりにレモンを絞って、「いただきま〜す」と声も弾む。美味しい! 薄いピンク色の身は歯こたえもある。でも噛んでいるとやわらかく、さっぱりとした甘みは、フグ刺しに似ている。
「うまいよ〜」と、得意満面に試食を奨める。でも、彼らは気持ち悪がって逃げまどうばかり。こんなに美味しい刺身なんだから、一口食べてから決めて、と言いたくなる。あ〜、醤油とわさびがあったら…。ピラニアの刺身は、その外見とは裏腹に、あっさりした上品な味で日本人好みだろう。でも傷みやすくて日持ちが悪いので輸出はできないそうで、日本では味わうことができない。残念だ。

釣り上げたピラニアの
思わぬ大きさに驚く
尾頭つきの活け造りに
挑戦

(5)インドネシアの〃おふくろの味" ガドガドサラダ

 インドネシア・スマトラ島の山奥のブキッラワン村。村の人々は、川と共生している。料理に使う水はむろん、洗濯、入浴、トイレもみな川の中。向こう岸では野生のオランウータンがターザンごっこ、宿の敷地内では野生に戻った(?)ニワトリやヤギの親子が歩き回っている。食堂のメニューには「チキンカレーを注文する方は3時問前にお知らせ下さい」と書いてある。その辺のニワトリを捕まえてから料理するというわけだろう。
 さて、インドネシアに来て初めて知った料理に“ガドガド”がある。これはキャベツ、ジャガイモ、ニンジンなどのゆで野菜に、ピーナッツソースをかけて食べるホットサラダだ。辛いものばかりと思っていたインドネシアで、この甘ーいソースはユニークだった。一度食べていっぺんに気に入ってしまった。何故か懐かしい味なのだ。
「美味しかった〜。料理教えて教えて!」といつものようにせがんだ。
 即席料理教室の開幕。ヤシの葉っぱで葺いた、素敵なキッチンに移動した。作り方はシンプルだけれど、ソース作りはちょっと面倒だ。揚げたばかりのピーナッツ、ニンニク、エシャロット、チリ、ブラウンシュガー……といった材料を、硯のような平たい石の播り鉢と石ころ(=すりこぎ)ですり潰すので、時問がかかる。できあがったソースを茄で野菜と卵、キュウリにかけると、キッチンはガドガドのあったかーい香りにつつまれた。
 早速食堂でスタッフや他の宿泊客と食べながら、ガドガド談議に花が咲く。パパがインドネシア人だというオランダ人女性の話。
 ある日オランダ人のママが昼からずーっとキッチンにこもってガドガドを作り夕食に出したところ、一口食べたパパが、「違う、こんなのガドガドじゃない」と言った。ママは激怒し、パパはしばらくご飯も作ってもらえなかった。
「お母さん、一生懸命作ったのにかわいそう」と私が言うと、横のインドネシア人スタッフ日く。
「ガドガドは、家によって味が全然違うからなあ。僕の彼女もガドガド作るけど、やっぱりママのガドガドが一番美味しいよ」
インドネシアの〃おふくろの味"ということか。道理で懐かしい味だったのだと納得した。

すり鉢と石ころで
ソースを作る
ガドガドサラダの
できあがり!

食の専門誌、月刊 「味の味」 2000年 8月号掲載


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