nurse01 正しい患者家族学 nurse02

家族の善意が患者を苦しめることもあります。

■はじめに

  患者さんのご家族の中で、患者さんの回復を願わない方はいないでしょう。しかし、患者さん病気を治したりしていく上で、患者さんのために良かれと思ってやることが、結果として患者さんを苦しめ、時として命を危険に晒すこともあるのです。
 
 このホームページへいただくメールのおよそ半分は「家族・友人・知人が病気になったので、今度お見舞いに行きたいが、どうすれば良いのか?」というものです。そういうご相談への一つの回答として、この文章を書いてみました。

■ 「頑張れ」は禁句

【解説】僕の大学のときの友人で、東南アジアからの留学生がいました。彼が最初に覚えた日本語が「頑張れ」だったといいます。我々日本人は、けっこうすぐに頑張れと言ってしまいますが、これほど患者にとって無意味な言葉はありません。概ね、こう言われたときには、患者はこう思っています。

 「命がかかっているんだから、あなたに言われなくてももう充分頑張っている。これ以上何を頑張れというの?あなたも病気になってごらんなさい」

 僕が入院していたとき、やたら僕を励ますおばちゃんがいました。曰く、病気くらいでへこたれないで、病は気からというのよ、などなどです。最初は有難く拝聴していましたが、僕がはぁはぁとしか相槌を打たないのが気にくわないらしく、だんだん説教口調になってきました。そこへ医師が来て「別室で検査結果をご説明します」とのことでした。
 1時間ほどして、そのおばちゃんが帰ってきましたが、さっきまで元気だったおばちゃんは看護婦さんに車椅子で運ばれてきました。生気は全くなく、口をあんぐり開けてよだれをだら〜っとたらしています。僕はびっくりしてしまい、「どうなさったんですか?」と尋ねると「私はがんなのよ。もう助からないの」。「そんなこと言わずに、共に頑張りましょう」と僕が言うと「あんたに何がわかるのよ!」。こういう人にかぎって、自分が実際になってみると泣きが入ってしまい、だめなようです。

■ 食事を無理に食べさせない

 一般の方はもちろん、医療関係者の中でも、抗がん剤治療中で食欲がないときに無理に食べさせようとする方がいます。そもそも「二日酔いで食欲がありません」とはわけが違うのです。抗がん剤は、基本的には細胞分裂のスピードの速い細胞をターゲットにデザインされているので、悪性細胞はもちろん、良い細胞でも毛根細胞、消化管の細胞、爪の細胞、生殖細胞などが全部ダメージを受けます。つまり、食べ過ぎ飲みすぎで食欲がありませんというレベルではなく、実際に消化管がダメージを受けているのです。特に、口内炎が出来ているときには、消化管も同じようにダメージを受けていると言われます。そんなときに無理に食べても、栄養が吸収されるはずもありません。

 「体重が減るとよくない」という信仰も根強いですが、無限に減っていくわけではないので、大丈夫です。ずっと食事が摂れないと問題ですが、抗がん剤投与から数日経って、食欲が復活してからしっかりと食べれば良いのです。「食べなきゃ治らないわよ」というセリフをよくご家族の方がおっしゃってますが、大きなお世話です。ある医師によると「体力のない末期の患者さんに無理に高カロリー輸液をすると、死期が早まる」そうです。

 あと、これは患者本人にありがちな勘違いですが、特にCHOP療法をしてプレドニンを服用していると、異常に食欲が出てきて、「俺は副作用が全く出ないよ」とか言って、バクバク食べている患者さんがいらっしゃいます。実際は消化管がやられているのに、普段よりも多くの食事を摂るわけですから、結果はみえてます。だいたい、3〜4クール目あたりで消化管が悲鳴をあげて、ゲーゲー吐き出すというパターンです。食欲があっても、腹八分目、胃腸に不負担をかけないように食べるというのが良いと思います。

■ かぜをひいてたら見舞いには行かない

 抗がん剤治療をしていると、白血球(好中球)の数が減少して、通常ではかからないような感染症にかかったり、感染症への抵抗力が著しく落ちたりします。こういうときにゴホゴホ咳をしたりしている人が見舞いに行くと、それは歩く生物兵器でしかないわけで、国連の査察対象になるのは必定です。やめましょう。具体的に白血球がどれくらい減ったら生物兵器になるかは、医師に確認するのが良いですが、概ね「2000を切ったら黄色信号、1000を切ったら赤信号」と言われます。

■ 見舞いの品はよく考えて

 「食わなきゃ体力がつかないぞ」とか言って、寿司をもってきたご家族がいました。白血球が減っているときには自殺行為なのでやめましょう。その他、生鮮食品やサラダなど、火の通っていないものでいろいろ危ないものはあるので、わからなければ医師や看護婦さんに確認しましょう。花をもっていくのも、白血球減少時には危ない場合があります。土の中にいる微生物は、抗生物質が効かないものが多いので、ここから感染症を起こすと致死的になる場合があるからです。だいたいこういうときには、家族が帰ったあとで看護婦さんが花をゴミ箱に捨てています。

 じゃあ、具体的にどういうものが良いかとなると、僕が患者さんにお見舞いの品をもっていくときには、紅茶のティーパックとか、ペットボトルの飲料水とか、お菓子とか、そんなものです。以前移植病棟にいる患者さんにカステラを持っていったら、看護婦さんがレンジでチンしていたので、びびりました。

■ 子供は連れていかない

 お年を召した方がお孫さんの顔をみたり、お母さまがお子さんに会う。元気100倍になりそうなものですし、実際にそうであることも多いのですが、そうでない場合もあります。

 まず、子供は歩く生物兵器です。別に咳とかをしていなくても、いろいろな病原菌を持っているのが普通です。お孫さんに会ってカオをスリスリしているおじいさんとかがよくいて、微笑ましい光景ではありますが、同時に危ない光景でもあります。

 また、特に幼いお子さまがいるお母さまの場合、お子さんがお母さんの姿をみてショックを受ける場合があります。以前、見舞いに来たお子さんが副作用で脱毛したお母さまの姿を見て「ママじゃない!」と叫んでしまい、お母さまはショックで寝込んでいました。子供は常に本音トークなので、こういう場合取り返しがつきませんし、病気と闘っているお母さまを時として気弱にさせてしまう場合があるので、注意が必要です。

■ 見舞いの時間は考えて

 以前、ある患者さんのところへ会社の同僚が大挙しておしかけ、寝ていた患者さんを叩き起こして「元気かー!昼間から何寝てんの〜」とか騒いでたことがありました。はっきりいって、拷問です。吐き気が強い患者さんの場合、抗がん剤投与中に睡眠剤を投与してもらって眠っていることも多く、それが苦痛から逃れる唯一の手段なのです。眠っている場合には、静かに立ち去る。どうしても起きているときにお見舞いしたいのなら、担当の看護婦さんに大丈夫かどうか確認したり、事前にアポイントを取るようにしましょう。

■ お金の話はしない

 ある医師が「入院治療費の請求書が患者さんに届けられる日は、患者さんが皆暗くなっているので、あまり病棟には行きたくない」と言っていました。患者は、家族が思っている以上にお金のことを気にしているものです。よく「早く会社に行ってくれないと、子供の学費も出ないし、家のローンも払えないし、ぶうぶつぶつ・・・」とお金の話しかしないで帰っていく奥さんがいますが、それがご主人の回復を遅らせて、結果として家の稼ぎを減収させることにつながっているのかもしれません(こういう奥さんをみていると、本当に嫁選びは大切だな〜、思いやりのない奥さんをもらうと地獄だな〜、と思ってしまいます)。

tnt01.gif (1122 バイト)忘れられない話

■その1 

 正月、ある患者さんのところに、ご家族や親戚の方々が大挙して訪れました。そのとき、ご家族はおせち料理を持ってきました。患者さんは全身状態が悪く、食止め(食事をとるのを禁止されている状態)だったのですが、ご家族やお孫さんの前で元気な姿をアピールしようとなさってか、普段は起きることすらままならないのに、おせち料理をぱくぱく食べていました。

 普段であれば、医師なり看護婦さんが止めに入るのですが、正月なので人員が少なく、誰も止めに来ません。同室にいた僕は、さすがにこれは危ないと思い、おせっかい覚悟で「食止め中に食べると危ないですよ」と言ったところ、

「あら〜、あなたは誰も見舞いに来てくれないから、そういうこと言うのね。あなたもおせち食べる?」

ときました。僕は「いえ、けっこうです、ご勝手に」と言って、ふて寝をしてしまいました。

 その患者さんは、その夜、猛烈な腹痛を訴えて、そのままお亡くなりになりました。

 翌日、ご家族がお見えになったのですが、曰く

「最後においしいものを食べれて、おじいちゃんも幸せだったわね」

 おじいちゃんを殺しておいて、それはないでしょう。


■その2

 病室で、医師とご家族が今後の治療についてお話をなさっていました。医師が「これ以上の抗がん剤治療は意味がありません」と言うと、ご家族は「もう治らないというのですか?ぜったいに抗がん剤治療をやってください」と言っていました。それから、しばらく、医師とご家族は押し問答を続け、結局医師が折れて、その日から抗がん剤治療が始まりました。

 その患者さんは、2日後の夜、猛烈に吐きまくって、そのままお亡くなりになりました。

 翌日、ご家族がお見えになったのですが、曰く

「医者におじいちゃんは殺されたようなものよ」

 おじいちゃんを殺しておいて、それはないでしょう。

ご家族の皆様、正しい知識をもって患者さんと接しましょう。

 

 


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