大星夜アンプ Star Night Treasure

アンプ作りのお話

  プロローグ  
私自身、若い時代から何台ものアンプを作ってきた。しかしそれらは、アンプ作りのためのアンプ作りであり、音楽を音楽として聴きたいという純粋な願いとは、少々ことなったものだったのだろう。このところは、本来の目的に合ったかたちで、アンプを作る、というか作らざるを得なくなってきている。この目的のために作っているアンプが、題して大星夜アンプである。
事の始まりは、Western Electric 755Aスピーカーが拙宅にやってきたことに始まる。聴きなれたレコードを何枚かかけてみると、愕然としてしまった。当然のことではあるが、愛聴盤というものは、どこにどんな音が入っているかを暗記しているものであるが、このスピーカーで聴くそれは、まったく別物であった。今迄聴こえていなかった音が、豪華絢爛に再現されてくるのであった。  
  それはあたかも、澱んだ東京の空に浮かぶ見慣れた星空から、一転して空気の澄み切った山の頂きから仰ぎ観る天空の星星の情景そのままに、天空一面、星、星、星のショーの大星夜を目の当たりにしたようなものだった。
星星が煌く音となり、その微粒子が壮大な音楽を構築しているかのようであった。今迄、自分は一体、何を聴いてきたのだろうという悔しさと、まだレコードにもCDにもいくらでも秘められた音が入っているのだという嬉しさが頭の中を過ぎった。  
  755Aの悲劇と再臨  
その後、悲劇が襲うこととなる。S社製高級アンプの200Wの出力が、暴走し耐入力6Wのボイスコイルを焼損するのである。アンプのケミコンからは白煙が上がり、755Aは無言に沈黙した。私の人生は、この後暫しセピア調に色どられる。  
  しかし再生装置は、工業製品である。見事に復旧した755Aは、ボイス・コイルの位置合わせと、ビスコロイドの調整により、以前に増してその再生能力を高め、復活したのである。S社のアンプは、クズ鉄として葬られたのは、ご想像のとおりである。以降、Western には、出力トランスのあるアンプを使用することとした。また、壊れたものは、自分で修理、動いているものも自分でメンテナンス、チューニングを心がけている。おかげで、カートリッジのダンパー交換からWE555のオーバーホール、調整までするに至った。
     
  2A3シングルアンプ  
市販の高級アンプが逝ってしまったあとは、20年前に設計した2A3のシングルアンプを引きずりだしてきて使った。出力は、3Wで、トランスを背負っているので、スピーカーには直流が流れないので、安全である、というか、傷めるほどの出力が出ないのだ。  
  以降、Western Electric を鳴らすためのアンプの改造、設計、試作が続けられている。  
     
  大星夜アンプのテーマ  
WE755Aは、そのシステムの音を忠実に表現する。アンプの音をそのまま出してしまうところがある。アンプの素性が露呈してしまうのだ。オーディオ用のアンプでは、周波数特性とか、歪みがどうのとかという基準は、みんなクリアしている。音色がどうのこうのという問題も、組み合わせる装置やケーブルでコロコロと変わる。これに一喜一憂していたのでは、永遠に堂々巡りである。
そこで、新しい基準を設けることにした。これは単純明快で、本来ソースに入っている音が聴こえるてくるか否かを基準にしようというものである。もはや、音色の好みの問題ではない。再生できているかいないか、聴こえてくるかこないかであるから誰でも分かる。音が完全に再現できていれば、あとは各自の好みで音色を決めればよい話しである。
比較は、単純明快である。アンプを用意して、ソースを再生してみる。片方のアンプの再生された音が、あたかもスモッグのかかった大都市の夜空に見る星の数としよう、大星夜アンプの目指す音は、あたかも空気の澄みわたった高山の頂きから仰ぎ見る夜空の星々のショー、あたかも宝石箱をひっくりかえしたように、豪華絢爛な音の輝きを堪能しようというものである。本来そこにあるものをただ、あるがままに再生しきろうというただそれだけである。一般のアンプは、そこまで徹底して造られていない。出しきれていない音の部分を音色を付加することで補い、あたかも再現できているかのごとくの音を造り上げている。再生できていない部分の音を他の音に尾ひれをつけて修飾を加え、バランスさせているのだ。大星夜アンプ基準で比較試聴するとその差には唖然とすることとなる。
  当然ながら、大星夜アンプは、この目的のためには手段を選ばずに設計される。実用性は、皆無であり、重量、大きさ、コストも無視されている。究極のなんとかとか誰かが言いだしそうであるが、そのようなことにも興味もない。ただひとつでも多くの音の星々を輝かそうとしているだけである。  
     
  非日常世界
 

大星夜アンプ基準でアンプが追い込まれていくと、場合によっては非日常的な世界への入り口を垣間見ることがある。伝説のショパン弾きと語りつがれている、ウラディミール・ド・パハマンの演奏が、78回転のSPにわずかに残されている。RVCがこれをLPに復刻して発売している。当然CD版もある。このレコードを普通の超高級システムで再生すると、騒々しいスクラッチ・ノイズの中に沈んだ演奏がか細く聴こえてくるだけである。スモッグの濃い空を通して遥かかなたの星を見ようとしてもかすみ、揺らぎ、その何たるかは、茫洋として分からない。

カートリッジレベルからモノラルで追い込んだシステム、アンプは大星夜級を使用する。そしてこれにWestern Electric 555 Receiver を繋ぐ。キャパシターのカットオフは200Hzである。スクラッチ・ノイズは、音楽とは完全に分離して聴こえるので、まったく邪魔にならない。眼前に100年の時の流れを遡って、パハマンが現れる。そこに居るのである、そして私たちに語りかけている。その声は血の通った、まさに肉声を彷彿させる。ひとたび演奏に入ると、モノトーンのはずの100年前の演奏が、総天然色のような色彩を帯びてくる、その演奏はあまりに美しく、ひとたび剥製となった動物の心臓が再び鼓動を始め、血を得て、生き返ってきたかの様を呈する。まさに黄泉がえりである。あまりに生々しく、美しさを通り越した不気味さ不可思議ささえ感じられる。

 

常人は、私も含めてこの世界には、踏み込まないほうが無難かも知れない。これは、Western 555 Receiver の特異なる世界で、594A Loud Speaking Telephone では、再現しない世界であり、WE555 の謎のひとつである。

 
11/24/2003
 
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