粤菜(広東料理)/Cantonese Cuisine



「食は広州に在り」という有名な言葉がある。広州は歴史的に広東文化圏の中心地だった。「広府」と呼ばれていたくらいだからね。香港がまださい果ての漁村だった時代だ。
今でこそ、腕のよいコックは軒並み香港に移ってしまったから「食は香港に在る」のだ、とか、いろんな言い方がされているが、それでも広州、佛山、順徳、大陸のどの町をとっても、そりゃもう大変な食い道楽ですよー。競争厳しいし。地元の人はとことん味にうるさいし。まあ、香港であれ大陸であれ、広東料理が中国四大料理の一翼を担うにふさわしい、豊かで魅力あふれる料理なのは間違いない。

特徴は何といっても、食材が豊富なこと。中国の他の地域の人がてんから食べる気ないようなものでもうまいといって食べちゃう。蛇とか犬とかね。あひるの水掻きとか。蛾のさなぎとか。稲の茎に住む芋虫とか。みんな食べたことあるぞーい。うひひひ。(下記コースメニュー参照)

そして、とにかく何が何でも新鮮さにこだわる。市場から、今、生きたものを買ってきて調理するのでないと納得しない、そういう世界である。ものの数年前、すでに1990年代に入っており冷蔵庫も普及し、地域では停電も起こらなくなった時分に、私は若い女性の口から「野菜を冷蔵庫に買い置きしておくのはよくないよ、おいしくなくなるから」という言葉を聞いて、目からウロコが100枚くらい落ちたことがあります。価値観ってここまで違うもんかと。市場に行くと魚のウロコがそこら中に散ってますけどね。おつりの札に付いてきたりしますけども。
だから、缶詰なんて人間の食い物ではない。と、結構本気で思っておられる。鶏はごちそうだけど、冷凍の鶏なら話はぜーんぜんちがう。ここはわれわれのサンマ観に近いかも知れませんな。それが、一事が万事ですべての食べ物に通ずるの。
で、近年は広東省でも、生鮮食品のスーパー方式販売が増えたり、お惣菜セットが出たりで、「鮮度の落ちた」売られ方が増えております。社会の商業化が進んで、消費の選択肢が増えたということではあるんだけど、これは広東人の生活観にとってけっこう大変な変革なのかも知れない。

で。豊富な食材を、新鮮なうちに、うす味で手早く調理する。素材の味を賞味する!これが肝なの。だからわかるね、エビならさっとゆがいて、くれぐれもゆですぎないで、それをただタレにつけて食べる。これがいっちばんのごちそうなんだよ。これだと、新鮮なエビでないとおいしくないんだって。チリソース炒めなんて最低。わかるね。あれは、鮮度が落ちて地元の客が見向きもしないエビを、味つけでごまかして外国人に売りつけるための定番メニューなんだい。
ついでに言うと、外国人(日本人も含む)大好きの炒飯も、どっちかっていうと、猫も食わない冷やご飯の再生メニューですな。炊きたての白ごはんをかっこむ方が、地元の人は絶対好きです。

ご飯ついでに思い出した。味が薄いのがもちろん広東料理の特色なんですが、それだけってわけじゃない。しっかり味がついてて、ご飯を進ませるために存在してるみたいなおかずも、いろいろある。高級な宴会料理にはあんまり出てこなくて、どちらかというとつましい家庭料理になるけど。
関西の某高級店で「こりゃ広東料理とは言えん!」と騒いでる人を見たことがありますが、別に濃い味の広東料理だってあるよ。塩漬け卵や塩漬け魚とか、トウチとか、サテソースとか、何でも使いますがな。日本料理には生のものが多くて、それは確かに大きな特徴だけど、でも熱を加えてるからこりゃ日本料理ではなーい!てなこと言われても、そりゃ、茶碗蒸しだっててんぷらだって困るだろう。そーゆーもんです。





じゃコースを召し上がれ



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前菜

広東料理の華、焼味(しうめい)。チャーシューや子豚の皮など、豚や家禽のロースト料理である。同じ名前でも、日本のチャーシューメンのチャーシューとは、根本から違う料理。
高級なフルコースにも欠かせない一方で、庶民の毎日の一膳飯や持ち帰りのお惣菜としても定番中の定番。あらゆる食のシーンに浸透しているのよ。写真は盛り合わせ。
焼味を一手にさばくカウンター。レストランの目立つ場所に据えられています。街でもよく見る。あひる、がちょう、鶏、チャーシューなど、鈎でぶらさげて陳列しつつも、注文に応じてカットしていく。食事を終えて帰る時には、あひるが首だけになってたりする。
ぶ厚い包丁を振り上げ、自分の指を落としそうな微妙なタイミングで骨ごとぶった切っていく職人さんの姿には、一種のいなせさを感じる。
これぞ焼味の王、焼味の中の焼味。子豚の丸焼き乳猪ユイジューです。祝い事や祭祀には欠かせないごちそうにして供え物。大願成就した後のお礼参りにこれを携えて来る人をお廟で見たりする。さて宴会では姿造りの格好で出てきて、ウエイターの手でまたたく間に取り分けられる。甘辛い味噌と粗い粒の白砂糖(端にある四角の小皿)をつけて食す。うまいっ。目のあった場所にチェリーを飾ってあるが、電球を仕込んで目を光らせる趣向まであったりして、そこまでするかー。




ぜいたく料理

(そんなカテゴリーは本当のコースにはない)

あわびのスープは、ずばりぜいたく料理です。私の世界観では。おしまい。後ろに控えるチャーシューは、ぜいたくではありませんが、文句なく美味。夢みたい。香港・[金庸]記にて。(がちょうが超有名な店だが、1998年2月当時、家禽インフルエンザの影響でがちょう抜き。悲しかった)




家禽類

広東料理といえば、何はなくとも鶏。それも生けしめのまるごとに限る。白切鶏(パーッチッカイ)という茹でた料理がもっとも代表的です。茹で方がすごく難しい。肉は完全に火を通しながら、骨の中は生を保ち、真っ赤な鮮血が見えなければいけないという。葱とにんにくと生姜と塩のたっぷり入った油につけて食べますああたまらん。 鳩は赤みがかった肉で、歯ごたえもしっかり、味もしっかり。私は大好物ざんす。鳩には塩こしょうとウスター味のソースがペアでついてきます。
ちなみに、鳩は食用の養殖。ぬあんと真っ白でかわいいっ!!(写真もあるけど、見たいですかここで?)
鶏の骨のかけらが口に入ったら、決して呑み込まないこと!必ず完全に出しましょう。鶏の骨は消化されることがなく、呑むと食道や内臓を傷つけて生命にかかわることもあります。と、教えられました。




海鮮類

蟹。殻のまま味をつけて盛ってあるから、日本人は面食らうでしょう。調味料でねちゃねちゃのを掴み、歯で殻を食い破って中身をしゃぶります。箸は先が太くて役に立ちません。とにかく噛み破ってしゃぶる。主賓も社長も団長も、全員そうしてんだからほら。自分の中に棲む動物を感じるひとときです。 帆立貝てんこ盛り!にんにくとねぎを効かせて蒸してある。至福のひとときが約束されます。
ただ、最近は香港でも広東でも、海産物の水質汚染や中毒事故、伝染病媒介などがあり、少し心配。食い道楽の都よ蘇れ!



ゲテモノ類

(そんな区分はないっちゅうに)

ゲテモノ三連発の第1弾。蜂の子です。もっともこれは長野県の誇る昆虫食(by本多勝一)。ゲテモノ呼ばわりしてはいけないのかな。 ゲテモノ第2弾、これは議論の余地ないでしょう。蛇皮のベルト、じゃない蛇皮の財布、じゃない蛇皮炒めっ!!!見ただけでわかるなっこの柄っっっ!!!これ絶対噛み切れないんだよ。さすが高級皮革。鍋の具にして最初から最後まで煮ると、とろとろに柔らかくなりますが(実は食ったことがある)。 そしてゲテモノ三連発の第3弾は、まっくろくろすけでわかりにくいですけど、ゲンゴロウさんであります。バター炒めみたいにしてあった。手で硬い羽をむしり取ってから胴体をかじり取り、頭は残します。ゲテモノと向き合う時は、無心になる。ものを考えず、何も頭に浮かべない。これが鉄則と心得ます。





魚(淡水魚)類

見ているだけで陶酔しそうなほどきれいな、魚の蒸し物。材料も新鮮なら出来ばえも鮮やか、と、そういう「きれい」です。でも、Y字形の小骨が多いし、味も海の魚と少し違うから、はじめは慣れないかも知れませんね皆さん。[魚完]魚、草魚などが代表格です。 同じ蒸し魚でも、輪切りにして調味料と合わせてから蒸篭で全部を蒸してある。こういうのははじめて見ました。魚は種類わからないけど、すこし小型で身がしっかりした、[魚完]魚類とは違うタイプ。 中国産うなぎの料理です。これはちょっと洋風?アレンジを効かせてある、珍しい作り方。切れ目を入れて粉をつけて揚げ、表面を松かさ状態にしたのに、ケチャップ系ソースをあしらってある。皮が分厚くて硬いのが難点でした。





野菜類

きのこと青菜を炒め煮して盛り合わせた料理シンクーパーシィソー。漢字は入力に限界があるので勘弁ねは、野菜料理の代表選手。干し椎茸もいいけど、新鮮なふくろだけが使われてると、これがまたおいしいよ!野菜は季節の旬のものが登場する。 彩りよい野菜炒めですが、ここはぜひバスケットに注目!食べられるんですよこれ。じゃがいも製のをご存知かも知れませんが、これは何と、中国南部に多いタロイモ系、芋頭(ウータウ)で作り上げてある。良く見ると細かな赤い縞目が入ってるのでわかる。 広東人は野菜にうーるさいの何の。とにっかく青菜炒めがないと承知しない、それが新鮮でおいしくないと許さない。「今日は何がある?」「菜心、芥蘭、白菜、豆苗、生菜......」「じゃあ......」と自分が納得する野菜をもらう。注文の際に必須の会話。ウエートレスさん一日に何百回でも律義に繰り返してる。客には聞いて選ぶ権利があるのだ。
ちなみにこれは白菜(パークチョイ)。日本語と違うのよ。





季節料理......でいいのか?

こっこれはまた、なかなか珍しい料理。ザボン(沙田柚=サーティンヤウ)の皮を土鍋で煮込んだ一品です。当然、ザボンの出回る秋冬のメニューと言えましょう。驚くほど分厚い皮が、ねっとり、とろとろ、の柔らかさになっている。その舌触りプラス爽やかな香気が身上なんだろうね。




スープ・主食

えと、スープは、実際のコースでは前菜の後に出ます。でも、メニューでは最後のほう、主食のすぐ前に並んでます。というわけで、ここにおいてやって下さい。
コーンスープです。粟米羹(ソクマイカン)といいます。あっさりとやさしい味で食べやすいので、日本人にも安心。ただ私はちょっと退屈にも感じる。
沙河粉(サーホーファン)。米の粉が原料の広州名物。きしめんのような、薄くて幅広の麺です。ただし、中国語では小麦粉製品だけが「麺」と呼ばれ、米製品は麺状でも「粉」と呼びます。区別が厳密。さてこの河粉は、普通よりかなり幅広。で、まるごと蒸篭で蒸してあるのが、とても珍しい。
ちょっとピントが甘くてすみません。残念である。
このボリューム大王な料理は、チャーハンなんですけど、このように具だらけの餡がかかっております。こういう餡かけチャーハンが、福建炒飯フッキンチャーウファーンです。餡の具はえび、いか、チャーシュウ、帆立、きくらげ、にんじん、たけのこ、青野菜、などなど、まあ豪華なこと。リサイクル食材の活用であるにしても、おいしくて満足できるから許す。



デザート

紅豆沙ホンダウサーは日本人もほっとする、ずばりぜんざい風甘味デザートでしょう。陳皮の香りをきかせてあるところが、和風とは一味違う。また、甘さも決して強くはなく、あっさりしている。
黄色く見えるのは蓮の実。結婚式のごちそうだったので、子沢山(=連子)につながる蓮の実(=蓮子)が、縁起物として投入されているわけです。
こちらは日本にありそうでない、世にも珍しい一品。デザートとして食べちゃう豆腐で、その名も豆腐花ダウフーファー。軟らかな(絹ごしっていうのかねやっぱり?)豆腐に甘いシロップをかけただけのシンプル極まりない食べ方だけど、栄養があってからだに優しくてすうっと胃に収まって、おやつや夜食にほんとぴったりです。ホットかアイスをお好みでどうぞ。
なお、スーパーにあるパック入りの市販品は、豆腐自体が甘い。見た目は豆腐なので、うっかりそれで味噌汁作った日本人がいるそうな。







ごちそうさまあ



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