茶餐庁(香港式喫茶店+大衆食堂)

"Tea Restaurant" Hong Kong Style







「East Meets West」と珍重されるかと思えば「中国と西洋のごった煮のどっちつかず」などとあざけられ、いろんな向きから言いたい放題言われ続けた香港の文化ですが、その地に咲いて根づいた徒花、か、はたまたユニークな果実か。私は後者だと言いたいぞ。世界中で香港にしかない(香港人が移民した先、サンフランシスコとかバンクーバーとかは別よ。ありゃ香港の飛び地が勝手にできたみたいなもんだからね)、ティー・レストラン茶餐庁(チャーツァンテーン)

もともと、イギリス式のティーや軽食を出す店として始まったものであることは間違いない。今も必ずある「下午茶餐(ハーンーチャーツァン)=アフタヌーンティーセット」や、フレンチトーストからステーキまで、充実した洋食メニューがその証拠だ。ここでいう「充実」とは、品数の多さを指す。出来や味は、完璧にローカライズされている!何よりも、西洋人が食べに来るということがまずない。別にまずいからってわけじゃない。たぶん英語があまり通じない雰囲気、というか、完璧にローカルの人々の空間として成り立ってる雰囲気なんですね。店内に英語の表示なんてない店がほとんどだし、西洋人にとっては何を出してるやら訳わからないし(ひでー)。

それに加えて、数限りない広東式軽食のバリエーションが展開される。おかずをのせた皿めし各種に、麺(ミン)・ビーフン(米粉マイファン)河粉(ホーファン。ビーフン同様米粉製で幅広のめん)・日本風うどん(日式烏冬麺ヤッセッウートンミン。腰がもう一つのゆでうどん。ちょい割高)各種。公仔麺(コンチャイミン)=インスタントラーメン(というメニュー。まじだよ)。炒めた野菜などのちょっとしたおかず。それらを組み合わせたお値打ち定食。独り者の簡単な食事には、世界の何より打ってつけだ。ここらへん、大衆食堂という以上に適切なたとえを知らない。

で、何を食べるにしても、飲み物をつける。なんたってティーが看板なのだ。古式ゆかしく紅茶が基礎中の基礎。それもミルクティーが定番。レモンティーももちろんあるけど、レモンじゃ濃すぎる。というのは、茶餐庁の紅茶は入れ方がすごく濃く、これはミルクティー仕様なのだ。缶詰の薄黄色っぽいミルク(花[女乃]ファーナイという)がたっぷり入ったところに、自分で砂糖を10g以上入れる。これではじめてちょうどいいようになってるのだ。事ほどさように、ティー・レストランの紅茶と聞いて、高級ホテルのアフタヌーンティーみたいなのを想像しちゃいけない。これはすでに独自の様式なのだ。中国大陸や海外では、「港式[女乃]茶コーンセッナーイチャー=香港式ミルクティー」という言い方が生まれているほどなのよ。

紅茶以外にも、飲み物はいろいろあるよ。すんごくいろいろある。言い出すときりがないが、とても珍しいことだけちょっと言う。カフェオレがない代わりに、コーヒーと紅茶を半々にした鴛鴦(ユンヨン。おしどりの意味。おしどり夫婦のようにナイスなペアということ)というものがある、氷小豆ミルクみたいな飲み物(紅豆氷ホンダウピン。うまい)がある、ホットコーラ(熱可楽イッホーロッ。味???)がある、オバルティンやホーリック(ミロみたいな市販の粉末飲料。前者はミロの色で後者はミルク色)がメニューにある。んなとこかな。

要するに、茶餐庁には、ちょうどあてはまるものが日本にない。中・洋二本建ての大衆食堂兼甘いものやつまみも揃えた喫茶店、くらいにしか言いようがない。香港人から見ればある程度洋式が入ってる場所だが、西洋人にとってはたぶん一切そう見えない。
そして、絶対に、おしゃれな場所ではない。サ店だからといって、高校生がここでデートしたりは決してしないのだ。茶餐庁は、通りすがりの腹ごしらえの場、あるいはご近所の人の茶の間だ。近所の顔見知りがサンダル履きでふらっと入って来ては、競馬のテレビ見ながらなんか腹に収める。そういう、あまりにも大衆的で日常的な飲食プラス息抜きの場なのである。



写真をクリックすると拡大できます
Click pictures to expand

これ、実は友達の店なんです。新しいのでこぎれいだけど、ひとつも気取らない感じは典型的です。ガラスのドアにメニューの貼り紙べたべたは、欠かせない雰囲気作り。 今日の定食は、チキンカレー(でも広東料理風よ)か麻婆豆腐ご飯に、マッシュルームクリームスープとコーヒー/紅茶つき。で23HKD(400円強)。どーですこの、中洋の公平な扱い! 関公こと関帝、三国志の関羽です。商売する人はみなこれをまつる。ついでに黒社会(暴力団)でもまつる。ついでに警察でもまつる。よっぽど御利益があるんだろうか。




左のこれが、茶餐庁の王道メニュー、ミルクティー(熱[女乃]茶イッナーイチャー)。ミルクが入ってこの色。甘く甘くした方がおいしい。右は巨大蒸し器で蒸し上げたカステラ、千層[米羔](チンツァンコウ)。母の味!がする。ほっとする。食事用のぶっとい箸で食べるところが、断じてカフェやティールームじゃなくて茶餐庁。 「河粉が売り切れたから、スパゲティでしてあげるわ」といって、広東軽食の定番・干炒牛河(コンチャウアウホー)が、同じ作り方でスパゲティになってきた。しょうゆ味炒めの牛肉スパに、大びんのとうがらしをつけながら食す。どうですこの、中洋自在の融通!
(ただしここまでするのはあまり一般的ではないぞ。これは友達のとこだから。)
で、これが茶餐庁の店内。たぶん、ボックスシートなところが、中国式食堂とは違う、洋風の象徴なんだと思います。と言って西洋人の目にどう映ってるかはまた別。
中国人は、四角いテーブルに定員の決まった作りつけの椅子なんか、ほんとは少しも好きじゃない。融通無碍な円卓にどんどん丸椅子を足してみんなで座るのがいいに決まってる。




香港人の一日は茶餐庁から始まる。ここで朝食を摂る人はどれほど多いことだろう。朝はどの店もモーニングセットを中心に出していて、メニューはどこもほとんど変わりなく、AセットからDまで4種とかFまで6種とかを展開する。その一つがこれ、高菜と豚肉千切り入りの汁ビーフン雪菜肉糸湯米シュッチョイヨクシートーンマイ、プラス右を見よ! ......これが欠かせないパートナー。マーガリン付き食パンと目玉焼き[女乃]油方飽煎蛋ナーイヤウフォンパーウジンダーン。パンはトーストしてなくて、ロールだったり丸パンだったりもする。目玉焼きは半ば生。これらをナイフとフォークとスプーンで食するわけです。コーヒーか紅茶がついて20ドル台前半が相場かな。




「中国料理」表紙へ