ドルフィン・エクスプレス
《あらすじ》
おれは、テール。海の宅配便ドルフィン・エクスプレスの配達員だ。ある日届けに行った荷物の受け取りを拒否されてしまった。送り主に返すしかないが、その名を見ておどろいた。フルヤ・サンゴロウ? 伝説のヨットレーサーの? サンゴロウとレースするのが、おれの夢だったんだ。そのサンゴロウの荷物を受け持つなんて…… おれは、自分で荷物を返しに行き、そして、サンゴロウにあった。だが、そのときすでに、事件は起きていた……
《もくじ》
1.金色のイルカのマークのとなりに書かれた
ナンバーは4。栄光の四番ってやつ。
2.信じられないきもちで、そのなまえをみなおした。
うみねこ島、海岸通り6番。それが住所だった。
3.どくん。ふいに、おれの中で、なにかがうごく
のを感じた。からだがぴくっとふるえた。
4.「ネロ・ラブトス。やまねこ族の古いことばで、
深い海にすむ竜、という意味だ」
5.その首が船めがけておりてくる。ゆるゆると、
なめらかにうねりくねって……
6.知らなかった。おちびのジョナが、そんなことを
かんがえていたなんて、これっぽっちも知らなかった。
7.トパーズ色の目が、まばたきもせずに、まっすぐ
こっちを見る。ネロ・ラブトス。ここにいちのか。
8.「あんたはおれの夢だった。あんたに
会うのをずっと待っていたんだ」《登場人物など》
テール
ドルフィン・エクスプレスの配達員。ヨットレースで二回優勝したことがある。枯れ草色の毛なみでなぜか首すじだけたてがみのように長い。ブルーグレイの目は父親譲り。
〈ドルフィン・エクスプレス〉
海の宅配屋。波からおどりあがるイルカのシルエットがシンボルマーク。
ホワイト・テール号
テールの小型レーシングヨット。白いヨットで、白地に青のほそいストライプのはいった帆。二個のトロフィーをこれでとった。
サンゴロウ
フルヤ・サンゴロウ。船乗り。すらっとやせた黒いねこ。みどりというより、金のまざった青という色合いの目。四つの大きなヨットレースで優勝している。伝説的な優勝記録を持つ。
サラの港
三日月島でいちばん大きな港。
三日月島
月ねこ族が多く住む島。〈ドルフィン・エクスプレス〉の事務所がある。わりと大きな島で、まわりには小さな島がたくさんある。
ヒナコ
〈ドルフィン・エクスプレス〉の社長夫人。月ねこ族のおじょうさまの出。きれいな水色の目のかなりの美人でやり手。エクスプレス便の配船部長。
ヨク
エクスプレス便の配達員。去年テールといっしょに入社した。まじめないいやつ。
リオナ
ヒスイ島に住むやせた若い娘。サンゴロウが送ったエクスプレス便の受取人。
ノアの岬
三日月島の西がわの岬。テールが育ったいなか町がある。
うみねこ島
サンゴロウが住む島。三日月島からは高速客船でも丸一日かかる。ヨットレースのレベルがとにかく高い。とくに毎年西海岸で行われるレースはとびきりハード。
〈ルチア園〉
テールが育てられたところ。家のない子をひきとる施設。
海王石
たまご形の石。宝石と言うほどの石ではないが、うみねこ島で売れる。ヒスイ島でとれる。
ネロ・ラプトス
やまねこ族の古い言葉で「深い海にすむ竜」という意味。
店員
テールがうみねこ島のサンゴ細工屋であった若い白ぶちねこ。慣れた様子なので、テールは店員と思いこんだ。サンゴロウをオヤブンと呼ぶ。
ジョナ
小がらな三毛ねこの娘。テールといっしょに〈ルチア園〉で育った。
《感想》
今はしがない配達員だけれど、以前ヨットレースで2回優勝したことが忘れられないテール。幸せな思い出を守ることはたいせつだけれど、思い出の中で足踏みしていては、歩き出せない。伝説的な記録を出し、4つもの大きなレースで優勝をさらったサンゴロウは、テールにとってなりたかった自分、なのだろう。それが、あっさりとヨットレースの世界から消えてしまった。なぜ? テールは知りたかったのかもしれない。どうしてサンゴロウがレースの世界から足を洗ったのか。自分と同じように、限界を感じて見切りをつけたのか。あの記録で、そんなこと、あるだろうか。それとも、レースよりも惹きつけられるものがみつかったのだろうか。
テールは、きっともう一人のサンゴロウ。もしかしたら、サンゴロウもテールと同じようになっていたかもしれない。あのとき、記憶を失わなかったら。
足踏みしていたテールを踏み出せたのはなんだろう。サンゴロウとの出会い? それともジョナ? そのために倉庫で暮らすほど大事にしていた思い出のヨットが壊れても笑っていられたのは、壊れる前に一歩踏み出せていたからだろう。
希望は、希望を持って進んでいるひとは、だれかの風になれる。そっと背中を押してあげる風。帆をふくらませ、前進させる風。その風が吹き抜けるとき、心の中の暗いものも追い払われることだろう。
風になれ、テール。自分というヨットを進ませる風に。