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 海外旅行が大好きだったひろさくが、トクに力を入れていたのが韓国の伝統食材である「キムチ」でした。一泊二日の日程で韓国に向かい、早朝から「キムジャン」(キムチを漬けること)の準備で賑わう市場の様子を見学。そして、その日の昼便で日本に戻る…などという、少々荒っぽい旅ではありましたが、実際に現地を訪ねて感じる思いは、やはりテレビや雑誌で見るものとは違い、大変な迫力がありました。
 以下のレポは、平成十年に韓国・ソウルに出かけた時の様子をまとめたものです。映像は、Hi8 ビデオで撮影したものをキャプチャーしています。韓国や、キムチに関心がありましたらご覧ください。

 可楽洞農水産物卸市場
 ソウル市内では最も大きい総合市場として知られる「可楽洞農水産物卸市場」は、ロッテワールドから南に続く松坡大路沿い(松坡区可楽洞)にあります。近代的な高層住宅が立ち並ぶなか、忽然と現れる巨大マーケット。広大な敷地には、野菜・果物・魚と取り扱う商品ごとに独立した棟が建ち、その内外では畳一枚分の小さな店から従業員を何人も使って手広く商売をしているところまで大小様々のお店が軒を連ねていました。入りきらなくなった白菜や玉ねぎ、ネギなどが軒先から通路なかほどまでせり出し、ただでさえ狭い市場内の通路は一般客の車や業者のトラックが列をつくり騒然としています。しかし、そうした状況にはお構いなく、見るからに逞しそうなアジュマ達が通りかかる買い物客に盛んに声をかけ、屋台や荷物を満載したリヤカーが合間を通り抜けて行きました。

トラックに満載の白菜リヤカーで運ぶ人も…。

 目指す白菜と大根の山は、同じ市場の地下鉄八号線松坡( Songp’a )駅寄りにありました。トラックの荷台に積み上げられた白菜や大根は、まさに圧巻ともいえる様で、お百姓さんが手塩にかけて育て上げた自信作の数々が披露されています。白菜をおろす人、横付けされた買主のトラックへ積み上げる人…、何人もの人々が手際よく、そして丁寧に作業をこなしています。様子を見ていると、買主のトラックに積み上げられる白菜の量は、概ね荷台の半分くらいでした。残りのスペースは、大根やその他の材料を積むためのようです。作業が終わると、すぐに別のトラックが横付けされ同じ作業が始まります。そのたびに落ちる白菜の葉は辺りに散乱し、足の踏み場もないほどでした。韓国の白菜は、日本のものに比べ水気が少ないことから実がしまっており、キムチ作りには最も適した品質を誇っています。日本の漬物も同じですが、水気の多い食材を使うと漬け込みをした時に塩の作用による浸透圧の関係で水分が多く排出され、漬物そのものの味が発揮できません。そのために人々は、産地の気候や土壌などを考慮しながら、研究を重ね、品種改良を行い、究極とも自慢ともいえる味を作り上げてきました。市場に並んだ白菜もそうした過程を経て作り上げられたものであり、キムチ作りに全力を注ぐ人々の経験と知恵が十分生かされた産物といえましょう。
 白菜の山と隣り合わせにある大根売り場。その様子は、薪を積み上げた状態によく似ており、「こんなにも大根使うのか…!」と驚かされるほどです。韓国の大根は、日本のような細く長いものではなく、太ったものと人参のような細い大根(チョンガ大根)の二種類がキムチ漬けに使われるようです。
 さて、このように運び込まれた野菜の産地はどこなのか?、今回この旅行記を制作するにあたり問い合わせをしてみたのですが、「ソウル近郊の農村では…」という答えがほとんどでした。新鮮な素材を毎日のように市場へ届けることを考えれば当然のことかもしれませんね。

 別棟には唐辛子専門のお店だけが並び、店先には日本のものより遥かに大きい唐辛子がざるに山積みされ、なかでは、唐辛子を粉にする作業が行われていました。韓国の唐辛子は、日本で一般的に唐辛子といわれる「鷹の爪」とは違い、長さが 10cm もある大きなもので、収穫後、天日に干し乾燥させ、唐辛子の赤みを引き立たせます。水原の民俗村でも、家の縁側に干された唐辛子を見ましたが、次第に赤みが濃くなっていく様子を見ながら人々はキムジャンの訪れを感じていたのかもしれません。

 さて、十分色づいた唐辛子は、キムチの薬味として利用するために粉にしなくてはいけません。挽き方には、「粗挽き」「中挽き」「細挽き」の三種類ありますが、粗引きの唐辛子を多く使うと辛さが増し、細挽きのものはキムチの色づけと殺菌作用を補う役割を果たすことから、用途に応じて使い分けるだけでなく、配分も各家庭で差があるようです。粗挽きだけでは、キムチの表面に粉が残り辛くなるものの、赤く染めるまでには至らず、視覚的にもう一歩ということでしょうし、色付けの作用がある細引きだけでは、鮮やかな赤色になるものの「辛さ」を強調することはできません。バランスよく、粗挽き・細挽きを配分することで、キムチ独特の「辛さ」を導き出すことができるわけです。最も、実際に作ってみないと微妙な違いはわかりませんが…。

十二月は「キムジャン」の季節
 午前十時くらいになると、業者のトラックが一斉に帰り始め、やがてさきほどまでの混雑が嘘のように市場内は静かになりました。しかし、これで売主のおじさんやおばさんたちの仕事が終わったわけではありません。白菜の売り場では、二個ごと紐で結わえ商品を整える作業が始まりました。これは、十時くらいから自家用車で買い付けに来る一般客が向けのためではないかと思いますが実際はどうなのでしょうか。いつの間にか降り出した雨にも驚かず、凍える手で手際よく作業を進める人々には、今日の取り引きがうまくいったことを示す笑顔がありました。

 可楽洞農水産物卸市場−。周囲の都会的な町並みからかけ離れたこの一角には、市民の台所を一手に引き受ける人々の活気と情熱、季節の香りが漂っていました。

 キムチの歴史と効能
 ソウルの貿易センタービルにある「キムチ博物館」には、キムチに関する様々な資料や実際に使われていたかめなどの道具が展示されています。なかでも、キムチの歴史を辿るコーナーでは、今日世界中の人々に親しまれているキムチの歴史を古文書や文献などを使い解説しているわけですが、その冒頭には「沈菜」と記述された古文書の写しが公開されています。
 「沈菜(チムチェ)」
 韓(朝鮮)半島では、キムチが誕生する以前すでにその「沈菜(チムチェ)」と呼ばれる塩漬けした野菜が存在していたといわれています。塩水に野菜を寝かせ漬け込んだもので、現在日本で行われている漬物の原形ともいえるものです。
 ところが、16世紀後半、当時南蛮貿易を通じて日本に伝えられていた中南米原産の「唐辛子」が、壬申倭乱(豊臣秀吉による文録・慶長の役)の際半島に持ち込まれたことにより、塩漬け野菜から肉や魚(塩辛)といった動物性の素材を取り入れた多種多様な味へと大きな変化を遂げることとなりました。このような過程のなかで誕生したものが現在のキムチであり、その歴史は唐辛子の伝来から始まったとさえ言われるほどです。
 「沈菜」から「キムチ」へ、多彩な素材を使うことを可能にした「唐辛子」にはどんな効果があったのでしょうか。一つには、唐辛子を入れることで肉や魚の生臭さを消し、同時に抗菌(殺菌)作用のあるにんにくや生姜を合わせることで動物性素材(魚や塩辛)の腐敗を防ぎ長期保存を可能にしたことがあげられます。二つめは、「しょっぱい」ものから「辛い」味への変化により失われる塩味が唐辛子の「辛さ」で補われていること、また、ご飯(米)との組み合わせにより食欲を増進させる働きがあることなども唐辛子効果といえるでしょう。キムチといっしょにご飯を食べると、何故かいくらでも入ってしまうことは多くの方が経験されている事実でもあります。
 塩漬け野菜に薬味を加え、かめで発酵させながら生成される「キムチ」は、海の幸・山の幸をふんだんに利用した栄養価の高い食品であり、長年にわたり培われてきた経験の味は、韓(朝鮮)半島の伝統芸術といっても過言ではありません。

 キムチの種類
 素材が豊富なら種類も多彩なキムチ。日本では、白菜と大根をベースにした 白菜キムチ、オイキムチ(キュウリのキムチ)、カクテギ(大根のキムチ)が一般的に「キムチ」と呼ばれ定着しています。しかし、実際には野菜ならどんなものでもキムチに使うことができるそうで、韓国の家庭では何種類ものキムチが食卓にのぼるようです。
 
 キムチの作り方
 日本の漬物も各家庭に伝わる自慢の味があるように、キムチにも実に多くの味が存在しているようです。寒い北部(ソウル周辺)よりも暖かい南部(釜山周辺)のほうが辛味であることや、沿岸部では魚が、山間地では当然のごとく山の幸がふんだんに使われていることは知られていますが、そうした地域的なものだけでなく、保存方法や薬味の配合、唐辛子の挽き具合などにも微妙な違いがあり、同じキムチが存在しないとさえいわれています。ここでは、一般的な白菜キムチを漬け込む手順をご紹介しましょう。

<白菜キムチが出来上がるまでの手順>
    ・ 白菜を塩水に漬け込み柔らかくする
      塩を利用することは、白菜に含まれていた水気を外に出すことと、日本の漬物と同じように保存状態を良くする意味がある。

    ・ 漬け込みの済んだ白菜を水で洗い、水分を十分に切る
      水を十分に切らないと、漬けてから水がでてきて味が落ちてしまう。また、流水で白菜を洗う時には塩加減を確認することが必要で、 1. にもあるように保存状態を考慮した塩抜きが重要。薬味の塩辛や魚からも塩分は補充される。

    ・ 薬味の準備
      ねぎ、せり、にんにく、しょうが、塩辛(アミなど)、海草を用意する
      <ねぎ><しょうが>は、肉や魚の生臭さを消すとともに体を温める効果がある
      <にんにく>は、抗菌作用・食欲増進の効果がある
      魚介類では生たらや生ガキ、いわし、タチウオが使われる
      唐辛子には、粗挽き、中挽き、細挽き(粉)の三種類
      <唐辛子>に含まれる「カプサイシン」は、食欲増進と体を温める効果がある
      調味料として塩、醤油、酢、胡麻油などが使われる

    韓国の赤唐辛子は、可楽洞農水産物卸市場や水原の市場で見かけましたが、長さが 10cm位あり、日本の「鷹の爪」とよばれる小粒の唐辛子とは全く比較にならない大きなものでした。お店では唐辛子そのものを店先に並べ売っていたり、挽いたもの(粉になったもの)が売られています。お店で唐辛子を機械で挽いているところです。こうした様子は可楽市場でも見学できますので訪ねてみてはいかがでしょうか。

    ・ 薬味の配合
      薬味を白菜に塗る
      テレビや雑誌などに掲載されている写真を見ると、白菜の葉一枚ずつ(内側)に塗り込むような作業をしていた  ように思います。こればかりは実際に作業している現場を見なくては勝手がわかりません。

    ・ 薬味が塗られた白菜をかめに入れる   
     発酵食品であるキムチは、保存状態によって味が大きく変わります。これは、発酵により発生する乳酸菌の作用が、本来食材に含まれていないビタミン B群を生成することで栄養価の高い食品に変化するためで、温度が高いと発酵が進み酸っぱくなり(酢酸菌の発生)、寒すぎると発酵がおこりません。こうしたキムチの特徴から韓国では、温度差の少ない(適温は四度くらい)土の中にかめごと保存する方法が最良とされています。また、長い冬の栄養源として長期間保存に使われるこれらのかめにも、それぞれ味付け(塩加減)を代え順に封を開けていくという工夫もされています。
     ソウル市郊外の水原市にある「韓国民俗村」では、各時代の家屋や暮らしぶりが学べるように各地から移築された建物が常時公開されていますが、李氏朝鮮時代の復元家屋の敷地には、確かに土中に埋められた保存用のかめはもちろんのこと、キムチを保存したと思われる大小のかめが勢揃いしていました。近年では、住宅事情に合ったコンパクトなプラスチックやステンレスの容器が使われているようです。
 最終日、金浦国際空港に続く道路沿いにあるお土産屋さん(韓国食品店)に立ち寄りました。現地の旅行会社が提携しているお店に旅行者を連れて行くことは、ソウルに限らず団体ツアーでは定番となっており、買い物に興味の無い人にはちょっと面倒のようですが、ガイドさんが店員さんとの交渉を通訳してくれるこの企画に、私はちょっとだけ期待しながらいつも参加しています。
 韓国のツアーでは、最終日に「キムチ」の売り場に案内します。これはすでにご紹介しましたように、「キムチ」がおいしく食べられるようにという配慮によるものです。白菜キムチはおおよそ一週間くらいで食べきるように作られていますので、ガイドさんの「キムチは最終日に買います」という案内は、このような「キムチ」の特性を考慮したお客様への好意と受け止めるべきでしょう。値段も安く、たくさん買うと値引きやおまけが付きますので結構お買い得かもしれません。帰国時の税関でも「キムチ」と係員に伝えれば特に問題はありませんでした。

 <参考> 金浦国際空港の免税品店で販売されているキムチ
 空港では、「宗家(チョンカ)」というブランドのキムチが販売されており、三種類のなかの「白菜キムチ」を購入しました。材料には、「白菜・大根・唐辛子・にんにく・生姜(しょうが)・ねぎ・えび塩辛」が使われています。真空パックされていますので、キムチの汁が零れ出すことはありません。量は 1kg。賞味期限は約一ヶ月です。

 さて、ここで名物の「唐辛子味噌(コチュジャン)」を見つけました。韓国では、みそやしょうゆも自家製で、キムチ同様各家庭ごとに独特な味わいを持っているといわれています。煮た大豆をつぶし(このあたりは「豆腐」の作り方と同じ)、麹(こうじ)や唐辛子の粉を混ぜ、発酵させた後に天日に干し乾燥させる。レシピなどを見るとここに「塩水を混ぜ熟成させる」とあります。そして、できた「唐辛子味噌」は、せりや春菊などの野草にからませ味噌汁に入れるとのこと。韓(朝鮮)半島でも味噌汁が食卓に並びます。味噌の他にこうした調味料が加えられた野草が加わると、あっさりした日本の味噌汁よりも華やかで楽しみも多いかもしれません。

… 制作にあたりご協力頂いた方々の紹介 …
 ・ 母と私の完全手作りキムチ キムチの(有)ミズノ
   http://www.kimchiya.com/
 ・ 齋藤 博之さま

<参考資料>
キムチ博物館
 ソウル市南部の江南区(地下鉄二号線三成駅)にある韓国貿易センタービルには、キムチの歴史が「沈菜」から始まったことを示す文献や以降の歴史を記録した古文書、道具が展示された「キムチ博物館」が開設されています。
 訪問した当日が土曜日だったこともあり、午後の三時に閉館となってしまいましたが(平日 朝九時〜夕方六時、日曜日・祝日休み)、小学生くらいのグループが見学に訪れ、熱心に「キムチ」の歴史や調理道具の絵をノートに書き写している様子が印象的でした。アーケード内の一角を利用した博物館ですので規模は小さなものですが、伝統の食文化を後世に残すため国内各地から収集された展示物はどれも価値のあるものばかりです。
 ただし、展示物の案内が英語と韓国語のみの表記なので、キムチに造詣の深い日本人向けにぜひ「日本語」での案内も加えて欲しいと思いました。また、ガイドブックによっては、この博物館の所在地が「貿易センタービル内」とだけ書かれたものがありますが、地下鉄駅からほんの僅か離れた「アーケード内」とはいえ、見つけることは容易なことではありません。案内板が無いため(もしかしたら「韓国語」表記の案内があったのかもしれませんが…)、広いビルのなかを捜し歩くこととなってしまいますので注意が必要です。

ロッテワールド民俗館 ( LOTTE WORLD MUSEUM OF KOREA FOLKLORE )
 ロッテワールドのショッピングセンター三階にある「ロッテワールド民俗館」。韓国の歴史や文化を再現した民俗展示館で、先史時代、三国(高句麗、百済、新羅)時代、高麗時代までの文化を模型や出土品(複製)を使って紹介している「歴史展示館」、朝鮮時代の宮中行事や生活様式を 1 / 8 に縮小再現した「模型村」、農楽(サムルノリなど)や冠婚葬祭などが演じられる「ノリマダン」、伝統市場の各テーマで構成されています。

農楽
 田植えや稲刈り、冠婚葬祭、村の祭事の時に行われたもので、歌や打楽器を使った演奏、舞踊などが組み合わさった総合芸能として親しまれてきました。日本の田楽とよく似た性格を持ち、豊作を願い、収穫を感謝するためでなく、打楽器を打ち鳴らすことで邪気を追い払い、神を呼ぶための意味もあったようです。「サンモ」と呼ばれる紐を付けた「チョンリプ」を被り、跳ね回りながら踊る姿は、農楽の見せ場として知られています。




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