『三角関係』


(後編)

家を出た翌日、そしてその翌日。
2日間以外、男は顔を見せていない。
友は毎日交代で顔を見せてくれた。
(リョウの気持ちを試そうとしたから、撥が当たったのかな)
「リョウはどうしてる?」
教授宅に入院して初めて自分から男のことを話題にした。
「ううん。私は知らないわ。ミック知ってる?」
外が騒がしいので、かずえの声が自然と大きくなる。
「それにしても、今日は騒がしいのね」
いつもの静けさが、今朝から消えていた。
「あれはリョウだ」
「リョウ?」
「そう。教授宅に侵入しようとしてる。カオリに会いたいんだと」
「ほっほっほ。さすがに早耳じゃの、ミック」
教授が病室へ入ってきた。
「姿を消す前にリョウが言っていましたから。『これから準備だ』って」
「準備?」
「今まで教授宅に無断侵入を成功させた者がいないからさ。武器はもちろんのこと、食料やらなにやら必要になる。やつは今、戦場より過酷なところにいるのさ」
「???」
「昔、失敗もしてるしな」

教授は医者として、そして世界のあらゆる情報を覗ける男として、裏世界に生きている。だが、もうひとつ別の顔があった。
『セキュリティ』
いつのころからか、患者の命を守るためには、どんな手段も使うようになっていた。
侵入者を知らせるセンサーから、トラップにいたるまで、ありとあらゆる手段を使う。
海坊主のトラップが実践型なら、教授は守護型といえる。
その上、素晴らしい庭を汚すことなく、美しく仕掛けられている。
芸術作品だった。
今までそれは一度も破られたことがない。
無断侵入者に対して情けはかけなかった。
裏の世界で生きている誰もが、自分の名を上げるために何度挑戦したであろう。
リョウや海坊主・ミックも、まだ若かりしころアメリカで挑戦している。
しかし、3人とも5日ともたなかった。
将来一流スイーパーとなった者が、まだ若かったとはいえ5日で半分も侵入できない。

「たしか、リョウが日本に来たてのころじゃったかの。冴子君の仕事を受けるのが嫌で、ゲームをしたな。侵入できれば仕事もしなくていい。しかも、もっこり付き」
「その話は初耳です」
「あのときは2日であきらめたんじゃよ。『こんなしんどい思いをするくらいなら、仕事を受けたほうがマシだ』ってな。ほっほっほ」
「もっこりより仕事を選ぶなんて、なんてもったいないことを……」
「ミック!」
「ジョークだよ、カズエ。愛してる」
2人は人目を憚ることなく唇を重ねた。
その光景が、女には恥ずかしいものでもあり、羨ましくも思う。
「今回はどうかの? 香君に会うためじゃからの」
「絶対に諦めない」
ミックとかずえの声が重なった。
この2人がここまで自信を持って言い切れることが、わからない。
毎晩のように愛されているのに、女には言いきれる自信がなかった。
かの女のときでさえ2日だったのなら、自分は……。


3日、4日・・・今日で7日目。
男にあきらめる気配はなかった。
「私のときはもっこり付きでも2日だったのに、香さんに会うだけで7日。愛してるのね」
かの女が忙しい仕事を抜け出して、見舞いに来ていた。
セキュリティが作動していようとも、訪問者に対しては抜け道があるのだろう。
涼しげな顔で姿を見せた。
「そんなんじゃないでしょ。昔、失敗してるからリベンジしてるのよ」
「何馬鹿なこと言ってるの。あなたに会いたいからでしょ」
いつも冷静なかの女が、怒鳴り声をあげた。
「そんなこと……」
女はそのまま俯いた。
あって欲しいとは思う。
自分に会うためだと思いたい。
女の偽りのない気持ちだった。
「あなたに会うためよ、香さん」
男のことは何でもわかっているといわんばかりに、窓の外に熱い視線を送っていた。
それが女には悔しくて仕方がない。
「リョウを愛してる、香さん」
「はい」
(想いだけは誰にも負けない)
頬を紅く染め、かの女に強い眼差しを向けていた。


「教授。私には香さんの気持ちが分かりません」
女のこととなると、男同様、感情を押し殺せないでいた。
「わしには、おまえさんの気持ちのほうがわからんよ」
「どういうことですか?」
「おまえさん達は、いつもリョウのベッドで話をしとるのか。香君には黙って仕事をしてたんじゃろ。不安になるのも無理ないじゃろ。不安なんじゃよ。ほんとに仕事なのか、それとも……」
「男と女の間に、友情は生まれることがあるんです」
「それを香君に証明してやるんじゃな」
「今で3分の2くらいかしら。もう少しですね。きっと最後まであきらめないわ、彼」
清清しい笑顔を教授に向けた。


10日目の真夜中。
ガチャ。ガラ。
窓が開いた。
「リョウ?」
「香ちゃん、まだ起きてたの。夜更かしはお肌によくないよ」
言葉はふざけてはいるが、眼差しは真剣だった。
久しぶりに会えた喜びにあふれた瞳だった。
「リョウ、どうして」
「会いに来たの。元気かなぁって」
「どうしてこんなこと。10日も……。名前あげたかった?」
(そんなことが聞きたいわけじゃないのに)
「ばか。そんなことのために、こんなしんどいことするか」
頬に手が触れ、甘い視線が女を捕らえる。
「お前に会いたかったから」
「えっ」
「香に会いにきたんだ」
「ほんと?」
「あぁ」
「私も―――、私もリョウに会いたかったよ」
女は男に抱きついた。
「本当か」
「うん」
男は強く抱きしめ返した。
「リョウ?」
そして、そのまま眠りに落ちていった。
「ほっほっほ。10日もろくに寝てないんじゃよ。それに数日ぶりに、おまえさんに会えてホッとしたんじゃろ」


男はその日の昼過ぎまで目を覚まさなかったが、女を離そうとはしなかった。
なんとか起き上がれたのは、夕方近く。
シャワーを浴びて、また眠りについた。
その翌朝やっと体力が戻り、女の家を出た理由を聞いていた。
「今は2人の寝室でしょ。ベッドでしょ。いつも1人で寝かせてくれないじゃない。だからそうだと思ってた」
頬を染め、女は語った。
「そうだ」
「じゃぁなんで、冴子さんが……。リョウは平気? 私とミックが……」
男の心に醜い嫉妬が生まれる。
(香とミックが……、考えたくもない)
女の唇を塞ぐ。
自分のものだという証が欲しかった。
「リョウがいなくて、寂しくて、泣きたいときもあるんだから」
「香」
「時々でいいの。毎日じゃなくてもいいの。嘘でもいいの。私を見て。愛して」

病室のドアがノックもなしに開いた。
男は近づく者達に気づいていたはずなのに、女を離さない。
激しく、唇を重ねてくる。
「Oh! じゃまだったかぁ」
男は唇を重ねたまま、訪問者に銃口を向けていた。
訪問者はかずえとミック。
外にはかの女がいたが、男は女を抱きしめ求めていた。
女を離そうとはしなかった。
これ以上いては、男の怒りを買いかねないことは容易に想像できる。
本当に撃たれかねない。
「じゃぁ、私達は帰りますけど―――、ひとつ、だけ、質問して、いいですか」
ミックの後ろに隠れて、かずえが怯えぎみに声を掛けた。
「なんだ」
不機嫌な返事が返ってくる。
「何日がんばるつもり、だったのかなぁって。 無断侵入」
2人の視線が男にそそがれる。
「それはバカな質問だな」
今度は軽く―――。
「俺は、香を諦めたりしない」
軽く触れるだけのキスを何度もした。
「リョウ・・・ダメ・・・」
男によって、女は大人の女へと変えられ、甘い声を漏らす。
男の視線は女にだけ向けられ、その答えさえも女しているようだ。
周りは見えてはいなかった。
キスをやめようとしなかった。
「香。男と女の関係に、友情が生まれることもあるんだよ」
「・・・っん・・・」
「冴子やみんなはいい友達さ」
「リョウ」
「おまえだけを見てる。ずっとな。おまえだけを愛してる。嘘じゃない」
「リョウ」
「俺を信じろ。香」
訪問者2人とかの女は、いつの間にかその場を立ち去っていた。


そのまま甘い時間が流れていった。



ふぇい様のお言葉

あゆみ様から素敵なお話を戴きました。

も〜!香のリョウを想う気持ちが切ないっす!!
冴子のバカ!って言いたくなっちゃいましたよ!
(冴子って言うより、リョウのバカァ!!って感じ?笑)
自分の部屋に他の女を入れるなっての!
カオリンじゃなくても怒るぞ!

いやぁ、でもでも。
その後のリョウの行動ったら♪
そんなに想っているんなら悲しませちゃダメよ、リョウちゃん。
たっぷり甘い時間を過ごして欲しいもんです。

あゆみ様 本当にありがとうございました!!
掲載が遅くなってごめんなさい!
次回作、サイト更新の方も期待してます!

<あゆみ>こんなステキなお言葉を頂けて、めちゃくちゃうれしいです。

(あとがき)
こちらも、ふぇい様に贈らせていただいたものです。
楽しんでいただけましたか?

古典風に書いてみました。
平安時代の男は、和歌だけで女を落としたんですよ。
(下世話な言い方ですが)
そして、部屋に入れてもらうまでは、決して諦めたりはしなかったということです。
私の知っている限りの平安男は。
リョウにもどうしても諦めて欲しくなかったんです。

最後まで読んでくれてありがとうございます。