《醤油の染みのついたTシャツ@レバノン大使館》

 

金曜日の朝、旅行代理店で、中国のビザを入手する。
これで、中国からパキスタンを経由して、イランまでのビザを揃えたわけだ。

イランからは、ごく普通に考えると、そのままトルコに入ることになるだろう。
日本人旅行者のアジア横断旅行では、普通は、インドか中国から出て、パキスタン、イラン、トルコまでがルートとして確立している。

実は、誰か日本人旅行者がノートに書いた、このルートの詳しい説明書(?)があって、そのコピーが日本人旅行者の間で廻し読みされ、コピーを繰り返されて、日本人旅行者は、みんな同じホテルに泊まり、おなじ食堂で飯を食っている、という、かなり信頼できる情報すら流れているのだ。

つまり、イランとトルコの国境を越えるのは、日本人にとっての定番コース。
ここは一応、押さえておきたい(ま、押さえなくても、どーでもいいが)。

しかし、僕には、イスタンブールまで行く気持ちがない。
僕はイスタンブールに3回(ギリシアから飛行機で、シリアからバスで、ブルガリアから夜行寝台列車で)行ってる。

イスタンブールの見るべき所は、一応、一通りは見ている。
そこで、正直言うが、イスタンブールの、日本人観光客に付きまとうトルコ人(特に絨毯屋)のみなさんたち、イスタンブールに沈没している日本人旅行者諸君に、あまりいい感情を持っていないのだ。

 

そこで、ふと、レバノンのことが頭に浮かぶ。

僕は、世界一周旅行のまだ初期に、エジプトから、ヨルダン、イスラエル、シリア、トルコ、と北へ旅を続けたが、その時に、レバノンにだけは行かなかった。
レバノンが内戦中だったからだ。

だが、ダマスカスのバスターミナルの近くで、レバノンの首都ベイルートへの乗合タクシーがたくさんあるのを見た。
それを見て、えーい、タクシーに乗っちゃおうか…、という衝動を覚えたことを記憶している。

国境までたいした距離ではないので、行って入国できなければ帰ってきてもいい。
そのころレバノンはシリアに占領されている状態だったので、案外とすんなり行けるのではないかと考えたのだ。

ただ、手にしていたのが、ヨルダンで取ったシリアのシングルエントリービザで、一度レバノンへ出国した場合、再度シリアへ入国するとき、もう一度取り直さなければならないだろうと考えた。
それは結構面倒かもしれない…(簡単かもしれないが)。

そこで、まずは、シリア旅行の白眉、パルミラの遺跡を見るのが最優先、とバスに乗り、そうなるとそのままアレッポへ進み、レバノンのことはすっかり忘れてしまった。

最近は治安も回復して、しかも、ツアーの観光旅行で、日本人がどんどんレバノンを訪れている。
なんでも、バールベックという巨大なローマ神殿があるらしい。

だから、この機会を利用して、レバノンを訪問してみてもいい。
しかし、訪問しなくてもいい。

というのは、僕は旅行中にどこへ行くかを考えて、その場でルートを決定していくので、旅に出る前には、ただ、旅行の可能性だけを考えるからだ。

レバノンについては、陸路国境でも空港でも簡単にビザが取れる、という話をどこかで読んだような気がする。
それならば、ビザを用意しておく必要はない。

しかし何度も書くように、ビザの条件というのは、あっという間に変化する。
昨日まで通れた国境が、急に通れなくなったり、突然、ビザ取得に非常に難しい条件が付くこともある。

行くとしても行かないとしても、あらかじめビザを持っていた方が、旅の自由度が増すのだから、値段が安いならば、取っておいても悪くはない。

そう思って、中国ビザを手にしたその足で、東京のド真ん中、千代田区永田町2丁目にあるというレバノン大使館へ向かった。

 

世界旅行者である特徴は、とにかく歩くこと。
そして、歩いていると、捜しているものが(捜してもいないものも)、自然に向こうから現れてくるのだ。

例えば、昔、チッチョリーナ(ポルノ女優でイタリア国会議員)が有名だったころ、ローマを目的もなく、ふらふら歩いていると、捜してもいないのに、自然とポルノ映画館が向こうから近づいてきて、目の前で映画館のドアが開き、いやだというのに、彼女の本番映画をじっくりと鑑賞させられたことがある。

チッチョリーナの本番映画をローマの映画館で見た日本人はほとんどいないだろう。
こういう特殊な経験をたくさん積み重ねているから、僕は世界旅行者と呼ばれるんだよね(うふふっ)。

 

営団地下鉄赤坂見附駅から、汗をかきかき、長い坂を登って、参議院議長公邸を右折し、永田町2丁目付近のなにかありそうな、大使館のにおいのプンプン漂う細い通りを歩くと、マンションの上に、国旗を見つけた。

その国旗の中心には、なにやらクリスマスツリーのようなものが描いてある。
なるほど、なるほど、これが有名な「レバノン杉」ってわけだよ!
つまり、このビルにレバノン大使館があるんだね。

思った通り、このビルの5階にレバノン大使館があったが、なんと、同じビルの4階にはヨルダン大使館が入っていた。

5階でエレベーターを降りて、レバノン大使館の名前を確認する。
4階で降りると、ヨルダン大使館に入ってしまうので、確認が必要だよ。

ドアが閉じているので、ブザーを押すと、内側からの機械的操作で、ガチャッとロックが外れる。

中に入ると、正面に窓口があり、そこに日本人女性がいた。

ビザ申請の手続きを尋ねと、申請書一枚に写真一枚、発行は1日か2日後、料金はシングルエントリーで2700円。

ふむふむ、この日数と料金なら、簡単だね。
ビザを取って置こう。

ところが、受付の女性は、さらに僕の身分を証明するものと、レバノン国内で法律を守りますという英文レターを要求する。

そんなものは、簡単に出せるが、それでは、今日の申請は無理だなー。
月曜日に、また来よーっと。

申請書をもらって、外に出て、「僕は書けるが、普通の人間だと、法律を守りますという英文レターはちょっと難しいかなー」とぼんやり考えながら歩き、赤坂東急ホテルにある店のショーウィンドウに写った自分の姿を見ると、びっくり。

Tシャツに醤油の染みがついて、汚らしく、汗で広がっているのだ!
さらに、今日は近所の旅行代理店に中国ビザを取りに行くだけのつもりだったので、髭も剃らず、髪に櫛も入れずに、部屋を飛び出していたんだよ!

そーか、なるほど、僕という人間自体を怪しまれたんだ!

ここで、ビザ申請の一番大切な法則が再確認された。

醤油の染みが汗で広がった汚らしいTシャツでビザ申請に行くと、ビザを取るのが難しくなるかもね。

soy sauce stained T shirt may hinder your visa application