《天津港の甘栗タワー/中国》


【天津港フェリーターミナル/中国】

天津の港の入り口は狭かったが、奥はなかなか深く、両側にクレーンや倉庫がずらりと連なっている。
僕はそれらの一つ一つの風景を、船が滑るように進み、そして、ゆっくりと接岸するまで、デッキからずっと眺めていた。

船が完全に接岸し終わったのを確認して、デッキから下へ降りると、船の案内所の前に、入国審査を待つ人の長い列が出来ている。
僕も慌ててバックパックを持って、列に並ぶ。

入国審査とはいっても、日本人に対してはごく形式的なもので、するすると列は進む。
パスポートに無事入国スタンプを押してもらうと、船を降りて、次は天津港税関のビルへと歩く。

天津港は天津甘栗の輸出港として世界的に有名なので、岸壁に甘栗が山になって積んである。
港の税関のビルには、通信用らしい高いタワーがあって、そのタワーの上に大きな甘栗のモニュメントが載っていて、精いっぱい天津らしさを表現している。

これが有名な通称「天津の甘栗タワー」と呼ばれるもので、日露戦争のころから、天津港の目印になっているという。
税関の入り口には、「天津甘栗の町、天津へようこそ!」と、日本語の看板までかかっていた。

建物に入ると、通り抜けになった、がらんとした部屋がある。
そこが税関らしく、税関職員が中国人船客の大きな荷物を、コンクリートの床に広げて、一つ一つ細かく調べている。

「まいったなー。でも日本人はパスポートを見せればノーチェックで通れるはず」と思ったとおり、パスポートを見せて、目で「いいでしょっ?」と合図を送ると、何も見ずに通してくれた。

建物を抜けると、中国女性のガイドさんが待っている。
同じ直行バスで北京へ向かう10人ほど集まると、彼女がバスへと、案内してくれた。

その途中、歩きながら、僕が「天津といえば、天津甘栗が有名ですよねー」とたずねると、「そうです。私たち天津人民は毎日天津甘栗を食べるので、とても健康なんですよ」との自慢気な返事がもどる。

ガイドさんがにっこり笑って、指差す先には、なんと、「天津甘栗の木」が生えていて、甘栗が枝に、まるでブドウのような形で、たわわに実ってい、甘い香ばしいかおりを漂わせている。

注)ところで、ここまで読んできて、「なるほど、天津は天津甘栗の町なんだ、みどくつさんの旅行記で初めて知った!さすが世界旅行者だなー」と感動した人、そんな、なんでもかんでも簡単に信じてしまうような単純な頭では、個人で海外旅行はできないので、考え直したほうがいいかもしれません。また、ガイドブック編集者さんは、ここをパクると、いい話のネタになるのでどうぞパクって下さい。 

天津港税関ビルの前の広場に、僕たちが乗る直行バスが停車していたが、大型観光バスだろうとの僕の予想に反して、ただのマイクロバスだった。
広場の反対側に、同じようなバスがあって、他の日本人学生旅行者諸君が、大きなバックパックを背負って、わいわいがやがやと乗り込んでいる。

やはりあったか、安い闇バス!

中国は共産主義の衣をかぶっているが、現実は、資本主義の初期段階、つまり、金が儲かる事なら、なんでもするという状況だ。
人がおぼれていても、前金をもらわないと救助しないというくらい金には厳しい国。

だから、金を持っている外国人観光客がいるところには、必ず観光客相手の商売が存在するはず。
実は、僕も、天津港から北京市内までの直行闇バスがあるのではないか、いや必ずあるだろう、と思っていた。

もちろんこちらのほうがぐんと安いはずだ。
しかし、僕は敢えて、3000円という高い金を払って、船で正規のバスを予約した。

というのは、安いだけのバスは信用できないからだ。
バスの目的は、金もうけだけ。

すると、乗客を乗せられるだけ乗せるのが常識。
すなわち、乗客を一人でも多く乗せるために、出発は、いくらでも遅くなる。

金さえもらってしまえば、到着時刻などは、関係ない。
さらには、到着しなくても、かまわない。

ひょっとしたら、途中で強盗団に変化して、観光客を丸裸にしたっていいのだ。
「いくらなんでも、そんなことは…」と思う人もいるかもしれないが、「それは天津甘栗みたいに甘い!」の一言を献上して置こう。

いつか、どこかの発展途上国で、バスの運転手に身ぐるみはがれたり、(女性の場合は)何人にもよってたかって、次々と強姦されて失神する間際に、「世界旅行者さんの言う事を聞いておけばよかった…」と、是非思い出して欲しい。 

僕たちの乗るバスは北京まで約2時間という事になっているが、これも当てにはならない。
なにしろ、日本製のマイクロバスとはいっても、整備点検については信用できないので、いつどこで動かなくなってしまうかもわからない。

北京まで、どれだけ時間がかかるかわからない。
何時間バスで過ごしてもいいように、出発の前に、当然、トイレに行っておく事が重要だ。

だから、僕はガイドさんに聞いて、広場の隅にあるトイレへと向かった。
おもむろに歩き出すと、同じバスに乗るらしい白人の若い女の子が「トイレですか〜、わたしもいっしょにいきます」と日本語で言って、僕についてくる。

煉瓦造りのトイレでは、おばさんがドアの前に座っている。
これは、お金を払わなければいけないようだね、つまり有料トイレ。

そこで、僕はジーンズの前ポケットから、両替したばかりの中国元で膨らんだ、ルイヴィトンの財布を取り出して、お金を払うジェスチャーをする。
と、おばさんは、指を三本立てて、僕と白人女性に示す。

三元とすると、一人40円ちょっと(この時期、一元=約14円)ということか。
少し高いなー、と思ったが、女の子の分とあわせて払おうと、手持ちのお金で一番小さい20元札を出す。

と、おばさんは困ったような顔をして、たくさんのお札を戻してくれた。
トイレの値段は、実は、一人三角だった(一元=10角なので、二人で8円ぐらい)。

トイレから出てきた白人女性は、僕に「いくらでしたか、お金を払います」と言った。
僕は「いいですよ。ちょうど細かい金が欲しかったし」と、英語で返事をして、トイレ代をおごってあげた。

女の子は、「ありがとうございます」と、僕にお礼を言う。
これで、僕はこの白人女性と、ぐっと親しくなった。

みんなも覚えておいて欲しいが、女性に食事やお酒をおごっても、いまでは当たり前すぎて、ほとんど感謝されず、親しさが増す事はない。
しかし、女の子がトイレに入りたいときに、トイレの料金を払ってあげると、これはポイントが高い。

ぐっと親近感が強まる。
トイレというのは、やはり、ちょっと恥ずかしいところなので、その恥ずかしさを共有した事で、ぐぐっと二人の心が近づくんだね。

だから、女の子の心をつかむには、いっしょに恥ずかしい経験をする、これがポイントだ。

この恥ずかしい経験に関しては、いまここでは、とてもとても、明かせない。
いくら僕でも、書くのが恥ずかしくて、胸がドキドキして、キーボートを打つ指が震えてしまうのだ。

しかし、もう少しこの旅行記を毎日続けて読んでいると、僕が、深夜に、酔っ払って、ボーッとした頭で、抑制力のないまま、心がさまようままに、ふらふらと書いているときに、つい、キーボードの指が滑って、実体験に裏打ちされた、とんでもないことを発表してしまうかもしれない(あー恐い)。

それは、朝になったら、冷や汗をかきながら、あわてて、おとなしい表現に、修正してしまう可能性もある。
だから、どうしても知りたい人は、それを楽しみに、毎朝毎晩、繰り返して読むことが大切だ。

なにごとも努力なしに簡単に手に入るものは、たいした物じゃないんだね(そうそう)。 

僕たちがバスへ戻ったとき、広場の向こうに停車していた闇バスが、急に動き出した。
拉薩くんが「西本さん、向こうのバスが早く出ますよ〜」と、なにやら不満そうだ。

彼は、僕の言う事を信じて、高いバスに乗ってしまった事を後悔しているらしい。
「いやいや、あのバスが、僕らより早く出発するわけがないよ」と、僕は断言する。

その言葉のとおり、バスは税関の出口に進んだだけで、止まってしまった。
つまり、できるだけ多くの客を集めようと、税関で手間取っている残りの客が出てくるのを待っているのだ。

僕らのバスも、ほとんどは外国人観光客だったのだが、一人だけ中国人の乗客がいて、彼の通関が手間取っていた。
しかし、乗客がそろうと、まだ停車したままの、闇バスを後に残して、すぐに北京へ向けて出発進行!

バスは、すぐに天津と北京を結ぶ高速道路に入って、快調にぐんぐん飛ばす。
僕の隣に座った白人女性は、身体を僕にぴったりと寄せて、僕が読んでいたLonely Planetを見せて欲しいという。

僕は英語で会話しようとしたが、彼女は、英語よりも日本語が得意なようだ。
彼女は、日本の大学院で日本文学を研究をしていたらしい。

「ウタマロの研究をしていました…」

急に、白人女性特有の体臭が強くなる。
僕は胸がドキンと、ときめいて、下腹部にむずむずとした、甘く切ない感覚が生まれて、ジーンズの股間の部分がグンと突っ張るのを感じる。

ふと、妖しい予感がして、彼女の名前を聞いた。
「アレスキーといいます」

アレスキーだってさ…。
つまり、「アレが好き」なんだろうか。

これは、この旅行記の登場人物の、いかにもおやじが書いているらしい、ベタな名前の付け方から言って、ただじゃあすまないかもね。

i cannot still come up with a proper name for a cute young lady from eastern europe

注)旅行記のこの部分の発表が遅れたのは、実は、「アレスキー」嬢の名前を考えていたからなんです。まだ、ぴったり来ないので、名前が変わる可能性があります。