調べものトーク ―こうして調べたT・E・ロレンス―

八木谷涼子

Last Updated 02 DEC. 2011 [ver.3.17]
20世紀初頭に活躍した英国人について、日本に住む日本人のわたしが、どんな手段を使って調べてきたか?
そのノウハウをご紹介。
新しい原稿が上に記載されています。

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人名探索(1980年代)
記事と書評集め(1980年代)
アジアの人名と翻訳文献調査(1980年代)
日本の記事収集と人名調べ(1980年代)
映画を調べる(1980年代)
最後に(1980年代)
注釈(1980年代)

追加コメント(2001年)
追加コメント(2008年)


■■ 2008年の追加コメント ■■


前回のコメントからおよそ6年が経過した。その間に起こった当方のレファレンス方法の変化を列記してみることにする。 一言でいえば、とにかくパソコンとネット。家から一歩も出ずに、これで調べ物をしている。
(もしかして、このページに迷い込んできた学生さんのために書いておくと、レファレンス初心者は最初からネットに頼ってはいけません。まずは図書館に通い、先人の手によって出版された参考資料を自分の目で確かめてからネットに向かうこと! お姉さんからの助言です!)

ロレンス情報に的を絞ってみても、ネットで公開される資料が着実に増えてきた。たとえば、『知恵の七柱 Seven Pillars of Wisdom』1940年版本文や、ロレンス本人の書簡の一部もテキストファイルで手に入るようになった(後者は Jeremy Wilson の活躍のたまもので、感謝の一言)。過去の新聞記事もある程度はネットで検索でき、無料で読める(有料のサービスを利用すればさらに読める記事は増える)。

英国人名調べのための CD-ROM 版資料としては、実は最も利用価値が高いのが Who was Who である(Who's Who が存命者のものであるのに対し、こちらは物故者の名士録)。というのも、BritannicaDNB に記載のあるA級著名人たちは、ネットでも容易に調べがつくからだ。それより下位の、B級・C級人名をチェックするためには Who was Who がどうしても欠かせない(むろん Who was Who は万能ではないが、ネット検索ではヒットしない人びとが掲載されていたりする)。購入するならば絶対にこれ!――なのであるが、わたしはネット時代の到来前に書籍版を買ってしまったため、CD-ROM が買えない(ケチゆえの)落とし穴にはまった。さらには、1897〜1990年の物故者を扱う8冊のうち、当時品切れで買えなかった最後の1冊を2007年になって注文してしまう。ああ、ますます遠くなる CD-ROM……(哀れなもの、それはケチ也)

それにしても、ネットでの「ご先祖情報」の充実ぶりには目を見張るものがある。わたしがロレンスの家系を調べるために1980年代に参照した資料は、ごく限られたものに過ぎない。だがそれも、当時の日本国内では誠心誠意ベストを尽くしたという自負がある。それが、この2008年に再度調べ直してみると、出てくる出てくる、本当に家から一歩も出ないで英国人の家系がたどれるのだ。むろん、その情報がどこまで信頼できるのかは別の問題だが、図書館にこもってノートを取りまくった時代を思えば、ただ嘆息するほかない。おかげで、ロレンス家系図をずいぶん増強することができた。

ここで、英国人名に関する穴場(?)のネット検索を紹介しておく。それは、The National Archives の人名サーチである。むろん全国民を網羅しているわけではないが、せめて生没年くらい知りたいというときは調べてみる価値あり。また、B級以上の著名人に限るが、「どんな顔をしていたのか」を知りたいときは National Portrait Gallery のコレクションを検索してみるとよい。

さてさて、笑い話のようだが、何かをネットで検索していると自分のページ(このサイト)が上位にヒットすることが実に頻繁にある。また、何かを記憶に頼って記述したあとで、自分のサイトにもっと詳しい情報が載っていたことに気づくこともしばしば。つまり、真っ先に調べるべきは「過去に自分が書いた原稿」である、というオチなのであった(ついでながら、ウィキペディア Wikipedia 記事編集にはまだ手を出していない)。こうなると、げに恐ろしきは停電とネットの回線不良とパソコントラブルである。電気がなければ手も足も出ない、原稿すら書けない(ワープロに慣れきってしまったので)というのは研究者としてどうなのか!? そんな疑問を抱きつつ、いま、新訳七柱のための作業をしている八木谷であった。
★おまけ 洋書の購入方法変遷★
レファレンス方法とは直接関係ないが、洋書購入方法の変遷についても触れておく。
[1] 丸善やイエナ、紀伊國屋書店、三省堂、北沢書店など都内の実店舗を利用
  最初(1980年代初頭)はやはりこれしかなかった。だがあまりの値段の高さ(本の価格に加えて、都内に出るまでの交通費がかかる。これが馬鹿にならない)に、節約方法を模索。思いついた手は、
[2] 英国の出版社に手紙を書いて直接取引。さらに、英国の書店に手紙で注文
  ダイレクトに出版社から、という作戦はいつでも成功したわけではない。そこで、友人が教えてくれたあるロンドンの書店に手紙を出し、その書店がたまたまケンブリッジの大書店 heffers に合併吸収されたことから、heffes との縁ができた。heffers には GIRO(ジャイロ)の口座があったため、日本の郵便振替口座から格安の手数料で送金できたことは実に僥倖であった。どこの馬の骨ともわからぬ外国人に、後払いでせっせと本を送ってくれた heffes には今でも感謝している。のちにケンブリッジを訪問したときには、むろん実店舗に出向いて本を購入したことを思い出す。
  ある出版社にはまとまった金額のポンド建てトラベラーズチェックを送り、そこから注文の度に代金を引き落としてもらうという方法もとった。なお、アメリカに送金するときは、郵便局で手数料500円の為替を作りそれをエアメイルで郵送した。これらの方法が、前クレジットカード時代にもっとも手数料の安い送金法だったと思う。ついでながら、銀行からの送金は、論外というほど高額の手数料がかかった(たぶん今もだろう)。また、ある年から為替送金には本人確認が必要となり、うっかり運転免許証を忘れて行って出直したこともあった。
[3] ネット書店の利用。Amazon や他の古書店など
  ネット書店のネックは支払い方法である。上記の heffers はネット書店を立ち上げて支払いをカードに限定したので、利用できなくなってしまった(最後に注文したのは、Philip Pullman の『ライラの冒険』シリーズ・ペーパーバック3冊だったと思う。最後の statement の日付は2000年10月である)。 自分名義のクレジットカードを持ってからは、送金問題が一挙に解決。大袈裟ではなく、カード所持前と後とでは人生が変わった。行動範囲と手に入るものが広がったのである。PayPal は2007年にはじめて利用した。いやはや、交通費をかけて丸善に本を受け取りに行った時代がウソのようである。(2008年2月記/2011年12月追記)

書籍郵送所要日数覚え書き【船便 英国→日本】2007年/87日 2008年/81日 2011年/73日  【Priority Mail International アメリカ→日本】2008年 44日



■■ 2001年の追加コメント ■■


レファレンスの手法はここ数年で格段に幅が広がった。1980年代の箇所で挙げた資料のいくつかは、2001年のいま、CD-ROM での検索が可能になっている。朝日新聞記事をはじめ、Who Was Who、大宅壮一文庫雑誌記事索引も CD-ROM版が出た。書籍における「索引」の充実度も、かなりアップしてきているのではないだろうか。あれほど苦労した書誌、人名、映画作品などについては、いまではインターネットで簡単に情報が手に入る。資料のテキストすら、ネットで公開されているものもある。洋書の古本の注文も容易にできるし、(わたしの地元では)図書館への本のリクエストも電話で可能になった。ただし、当然のことながら、新聞などの原資料に当たるには、やはり図書館に直接足を運ぶ必要があるだろう。

雑誌記事を集めるのに、ワールド・マガジン・ギャラリーにはひとかたならぬお世話になった。ずいぶんご無沙汰しているが、いまでも健在だろうか。痛いのは、ブリティッシュ・カウンシルの図書館が実質的になくなってしまったことだ。2001年夏、久々に訪れて暗澹たる気持にさせられた。本そのものがごっそり消えてしまったのだから(ただし、新聞・雑誌などはいまでも読める)。ここでいつのまにか廃棄され、(たぶん)二度と手に届かなくなってしまった貴重な文献について、わたしはいまでも夢に見ることがある。
1980年代の国会図書館に関しては、図書館トークのページをどうぞ。

ちなみに、いままで八木谷が一番うれしかったのは、『英米文学研究文献要覧』に自分の名前を発見したこと(『學鐙』のおかげだ)。地元の図書館で自分の本を見つけたときより、ずっとうれしかった。なぜといわれても説明できないが。

これだけ情報探索が容易になった現在でも、調べのつかないことはある。たとえば、柏倉俊三氏の没年。数年前に亡くなったと耳にしたが、いまだに突き止められない。……と書いて数日後、ある方の示唆をきっかけに北大の図書館にメールで問い合わせたところ、ついに判明した! 1996年4月に逝去されていた。牟田口先生が、「週刊金曜日」に「『アラビアのロレンス』再考」を連載していた当時は、まだご存命だったということになる。実はちょうど1996年ころ、八木谷は柏倉先生宛に手紙を出したのだが、返事は来なかった。今にして納得する。

ロレンス書誌の作成はいまだに続行中である。紙の事典や足で探す情報と、ネット上の情報はまったくイコールではない。その特性をよく踏まえて利用していきたい。
(2001年9月記)

素晴らしいレファレンスガイド本を発見!
●大串夏身『文化系学生のインターネット検索術』青弓社・2001(本体1600円)
これから調べものをしようという人は、ぜひ手に入れてください。書籍版のレファレンスガイドのほか、インターネットで調べものをするために役に立つ情報がつまっています。(ああ、わたしの時代にもこういう本があったなら……)
(2001年12月記)


■■ 1980年代 こうして調べたロレンスのすべて ■■


『翻訳の世界』(バベル・プレス)1994年12月号に掲載された原稿(調ベモノ調べ方・愛蔵版「T・E・ロレンス 魔宮の伝説――こうして調べたロレンスのすべて」)を以下に再録する。

八木谷が手探りで行った1980年代の調べもの方法を1994年に追想したもので、時制は当時のものである。残念ながら、いま現在、役に立つ部分はほとんどない。ここに挙げたレファレンスのかなりの部分は、インターネットで容易に可能となったからだ。価値があるとしたら、「前ネット時代は、こういうふうに調べものをしていた」という体験談としてだろう。
それからもうひとつ、ごく個人的なことに触れておく。わたしは×年前、自己嫌悪が高じてどん底まで落ち込んだときに、この原稿を読み返して、あっさり立ち直った経験がある。わたしは大学教育を受けていないため、レファレンスに関しては100パーセントの独学だ。「誰からも教わらずにこれだけのことができたなんて、大したやつではないか」と、自分のことを見直したのだった(単純な……)。つまりは、八木谷個人にとっても意味がある体験談だったとの自覚があるため、そしてまた再び落ち込んだときのカンフル剤として(笑)、ここに公開しておくことにする。
イラストも2点再録してみたので(当サイトで八木谷のイラストを載せるのは本ページが初めて)、ご覧あれ。なお、タイトル部分の「魔宮の伝説」は、当時の担当編集者だったAさんがつけてくれたものである。

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人名探索


誰かに興味を抱いたとき、あなたならどうするだろうか。1981年のある日、ロレンスに興味を持ったわたしは[*1]まず、とにかく彼に関する本をすべて読みたいと思った。まず地元の県立図書館に足を運び、目録を探す。リストを作って『日本書籍目録』で調べ、買えるものは本屋で買った。古本屋もずいぶん探した。それでも入手できなかった絶版本を求めて、都立中央図書館や国立国会図書館[*2](以下国会と略)にも出入りするようにになった。そうして見つけた本に参考文献リストがあれば、それを手がかりにさらに別の本を探す。もちろん英語の文献も見逃さず、Books in Print を調べて洋書店から取り寄せたり、ブリティッシュ・カウンシルの図書館も利用した。

さて、こうして集めたロレンスの伝記だが(いまでは『伝記・評伝全情報45/89晴洋編』という便利な本も出ている)、いざ読みはじめると知らない人名が山のように出てきて、よくわからない。そこで、小さなメモ帖に登場人物の名前を書きこみ、簡単な人物紹介を作った(推理小説の巻頭によくあるあれですね)。さらにそれを五十音順に並べてノートに書き写し[*3] 今度はひとりずつ人名辞典で調べることにした。まず自分の家にあった百科典に当たり、次に図書館で他の百科事典や『岩波西洋人名辞典』(岩波書店)、『新版世界人名辞典西洋編』(東京堂出版)、『コンサイス外国人名辞典』(三省堂)を見た。だが判明しない人名が多く、ここではじめて英語の人名辞典に目が行く。Encyclopedia Britannica, The Dictionary of National Biography (D.N.B.), Webster's Biographical Dictionary, Who's Who, Who Was Who (Who's Who を死亡年別に編集したもの)などである。一番判明率が高かったのは、やはり Who Was Who。また、The Times Obituary(死亡記事)や D.N.B. のコンサイス版[*4]もよく利用した。アメリカ人について知りたいときは、Who's Who in AmericaContemporary Authors などを見た。

だが、こうして書き写した人々の経歴も、やっぱりよくわからない。特にわかりにくい政治家の役職や軍隊の用語については、本や辞書で調べて自分で用語集を作った。もっとややこしい貴族の称号については、Titles and Forms of Address, A Guide to their Correct Use (Adam & Charles Black) という本をまるごと訳してマスターした[*5]。さらに Debrett's Correct Form (Debrett's Peerage Ltd.) も手に入れて、折に触れて利用した。

ロレンスの人生には有名人ばかりが登場するわけではない。どんな辞典にも載っていない無名の友人たち[*6]については、伝記や書簡集から得た情報を前述のノートに写しておいた(これらはいずれワープロに入れ直し、一冊の本にする予定である)。

さて、次は地名だが、英国地図でわたしが愛用しているのは The Automobile Association (AA) 発行の Great Britain Road Atlas。この地図の長所はお屋敷を含む名所旧跡が載っていることで、短所はその名所旧跡の名前が巻末の索引に入っていないこと。また、すべてを絵や写真で説明した1920年代の百科事典 I SEE ALL (Amalgamated Press) の地図も重宝している。第二次大戦前の英国全土の州の区分をはじめ、当時の植民地の状況がわかるからだ。国会の地図室には2万5千分の一の地図があり、はじめてロレンスのお墓を訪ねたときは、ここで道を調べてから行った。また、地図といえば、穴場(?)は英国政府観光庁。ロンドンをはじめ主な規光地の市街図が無料で手に入るのがありがたい。なお、英国の地名・人名表記については、もっぱら BBC Pronouncing Dictionary of British Names (Oxford University Press) を参考にした。

いま、英国以外の地名を調べるとしたら、『グランド新世界大地図』(全教出版・1992)を一番に引いてみるだろう。欧文地名索引のほかに、漢字地名索引(中国・台湾・朝鮮・日本・沖縄)がついているからだ。『世界大アトラス』(小学館・1989)や『世界大地図帳』(平凡社・1984)にも欧文索引がついている。その都市の歴史、主要産業や人口などを知りたいときは、百科事典や Webster's Geographical Dictionary などの地名辞典を当たればいい。

その他、意外に役に立つのが旅行ガイドブック。近年は本当にあらゆる国のものが出ていて、写真も豊富。地図として役立つのはもちろん、歴史や文化、名物料理などを手っ取り早く知るのにいい。

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記事と書評集め


[イラストその2]
次に着手したのは、英国の新聞記事あさりである。磯部一郎の『イギリス新聞物語』(のち『イギリス新聞史』と改題/ジャパンタイムズ社・1984)で予備知識を仕入れ、国会などで The Times のインデックスを引き、ロレンスと名のつく記事をすべてチェック。このとき使ったインデックスの便利さに慣れてしまったため、のちに『朝日新聞記事総覧 人名索引』を手にしたとき、あまりの使いにくさに唖然とした(激怒した、といってもいい)。また、国会はとにかく複写手続きが面倒なので、ブリティッシュ・カウンシルやアメリカン・センター(The New York Times のマイクロフィルムがある)でコピーできるものは極力そちらを利用した。

日本で出版された本の書評については、1970年創刊の『書評年鑑』(人文・社会・自然編/文学・芸術・児童編)で調べられる。また、1984年11月からは『CLIPPER』(日本エディタースクール出版部)という書評情報誌が月2回出ている。1970年以前の本については、『日本読書新聞索引』(1937〜60年)、『図書新聞索引』(1949〜88年)を見たり、三大新聞の縮刷版で書評欄をひとつひとつ探すしかない(もっと便利な索引さえあれば……)。

古い洋書の書評については Book Reviews Index: A Master Cumulation 1969-79 や、例によって新聞のインデックスを利用した(Book または Book Reviews を引く)。新刊の場合は、「総当たり作戦」をとった。目的の本の発売日前後の日付のものを中心に、ブリティッシュ・カウンシルとワールド・マガジン・ギャラリー、アメリカン・センターにあるあらゆる新聞・雑誌の書評欄を探すのである。その結果、Books & Bookmen, The Financial Times, The Guardian, The Illustrated London News, The Independent, The Listener, The New York Times Book Reviews, The Observer, Punch, The Spectator, Sunday Telegraph, The Sunday Times, Time, Time Out, The Times, The Times Educational Supplement, The Times Literary Supplement などからレヴューを発見できた。また、映画『アラビアのロレンス』完全版や、テレビ映画『A Dangerous Man』についての記事を探したときは、前記のもののほかに、American Film, The Economist, Film & Filming, 20/20, TV Times などからも情報を収集できた(もちろん前記三館で閲覧できる新聞・雑誌はこの他にもたくさんある)[*7]

これらの一部は国会図書館にも所蔵されているので、古い書評を「総当たり」することも不可能ではない。だが、とにかく国会は閲覧を請求してコピーをとるまでに時間がかかるため、わたしはまだ実行できないでいる。

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アジアの人名と翻訳文献調査


ロレンスに関する「第一次」調べもの作戦は以上でひとまず終わり、次にめぐってきたのは、伝記 Images of Lawrence の翻訳の仕事[*8]だった。このとき、はじめてアジアの人名を調べる必要に迫られた。解明すべきは、中国の Mao Tse-Tung と Lu Cheng-ts'ao 、ベトナムの Vo Nguyen Giap。 Mao Tse-Tung は英和辞典ですぐ「毛沢東」とわかったが、Lu Cheng-ts'ao とは何者だろうか。またまた図書館で中国の人名辞典を探す。欧文索引がついたものには『アジア歴史辞典(10)索引』(平凡社・1962)、『東洋人物レファレンス辞典索引』(日外アソシエーツ・1984)、『最新中国情報辞典』(小学館・1985)、『現代中国人名辞典』(霞山会)などがあり、Lu Cheng-ts'ao は「呂正操」と判明した[*9]。ベトナムの Vo Nguyen Giap の方は、Giap で調べても出てこない。これはわたしのミスで、島村修治『外国人の姓名』(ぎょうせい・1971)という本によると、ベトナムでは中国と同じく姓を先に書くのである。つまり Vo が姓のわけで、『東洋人物レファレンス辞典』のVの項を引くと、「ボー・グェン・ザップ」と出てきた。以上は県立図書館レベルの参考書で調べがついたが、アジアの人名・地名に関しては国会のアジア資料室にもいい辞典がそろっている。

次の作業は、英語の参考文献に邦訳が出ているかどうか調べること。これにはもっぱら国会のカード目録を利用したが、この目録には長短がある。長所は、自費出版の本が見つかる可能性が高いこと(かくいうわたしも、自分の同人誌は納本している)。短所は、意外に納本されていない本が多いことだ(建前では、国内出版物のすべてが入っているはずだが……)。たまたま、調査対象のなかにその「国会未納本」が混じっていて(地元の図書館にはあった!)、冷や汗をかいた覚えがある。

いまだったら、『西洋人名・著者名典拠録』でまず著者を調べ、それから『翻訳図書目録』(1945〜92年)か『翻訳小説全情報45/92』、さらに『日本書籍総目録』といった本を見ていくだろう。つい最近翻訳が出たらしいがはっきりとはわからない、という本については、図書館のレファレンス・サービスに問い合わせる。

また、原題のみで作者が誰かわからない英語の作品については、まず Books in Print を当たる。それから『翻訳図書目録』の1977年以降のもので調べ、もし文学作品らしいものなら『英米文学研究文献要覧』、『英米文学事典』(研究社出版・1985)、『アメリカ文学作家作品辞典』(本の友社・1991)、Reference Guide To English Literature (St. James Press) などを見る。

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日本の記事収集と人名調べ


[イラストその1]
Images of Lawrence の著者にコンタクトをとったのがきっかけで、わたしは英米のロレンス研究団体の存在を知り、そのメンバーになることができた[*10]。そして1991年、アメリカ人研究者の依頼で『ロレンス書誌』日本語版の作成を担当することになる。今度は、以前目が届かなかった日本の新聞・雑誌の記事を探さねばならない[*11]。またまた図書館に足を運び、『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』を引いてみると、けっこう収穫あり。英文学方面の論文については『英米文学研究文献要覧』(1945-1964/1975- ) と『外国文学研究文献要覧 1965-1974』を調べ、この他にも目についた記事索引に片っ端から目を通した。もちろん、国会などを利用して現物のコピーはすべて集めた。国会に所蔵がないため、やむをえず某国立大学の図書館の門をたたいたこともある。

新聞記事については、前述の『朝日新聞記事総覧 人名索引』に絶望して断念してしまったが、代わりに、周囲の人がずいぶん切り抜きを提供してくれた。ただ問題は、その切り抜きのほとんどに日付がなかったこと。これは適当に日付を推理して縮刷版で調べた。また、朝日新聞の読者広報室に電話して、問い合わせたこともある(最近、国会図書館の新聞閲覧室に1984〜91年の朝日新聞の記事が検索できるCD-ROMが入った)。

次に取りかかったのは、日本人の人名調べ。ロレンスについて書いた人たちの素姓を知るためである。一番便利なのが『日本著者名・人名典拠録』。さらに『現代日本人名録』や『朝日年鑑』別巻の『朝日キーパースン』も役に立つ。『朝日キーパースン』には近年亡くなった著名人のリストが載っているのがうれしい。また、図書館の目録でその人の書いた本を探しだし、「著者紹介」を見る手もある。また、その人が他にどんな本を書いているのか、『日本著者名総目録 個人著者名』を引いて傾向を調べたりした[*12]

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映画を調べる


あいにく、映画『アラビアのロレンス』関係の記事は既成の索引では判明しなかったので、これには「総当たり作戦」を敢行することにした。まず、日本の劇場公開日を新聞の縮刷版で調べる(その他、『ヨーロッパ映画200』[キネマ旬報社]といった本にも公開日が載っている)。1963年2月と判明したので、その付近の日付の夕刊のページをめくり、映画評を探した。これは比較的容易に発見。

次に松竹大谷図書館に足を運び、当時出ていた映画雑誌のバックナンバーを当たる。ここは閉架式でやや手続きがめんどうだが、国会ほどではない。1962年11月号あたりから64年2月号までの『映画の友』『スクリーン』『キネマ旬報』『映画芸術』といった雑誌を探し、かなりの収穫あり。また、分類目録で当たリをつけた本(たとえば『外国映画ベスト200』『ビデオで観る100本の洋画』など)を借りだし、ロレンスヘの言及を探した。

今度は、ウォルター・ハッド(Walter Hudd 1898-1963)という俳優について調べてみる。その昔ロレンスの自伝の映画化が企画されたとき、ロレンス本人が「自分の役はぜひ彼に」と推薦した人だ。彼の出演作は日本で公開されているのだろうか。まず『世界映画人名事典 男女編』(キネマ旬報社・74)、新しい『外国映画俳擾全集 男優』(同社・88)、『外国俳擾大事典』(芳賀書店・93)といった事典を見てみたが、どれにも載っていない。英国の Who Was Who には載っていたが、映画に関する記載はなし。そこで A Who's Who of British Film Actors (The Scarecrow Press, 1981) を見ると、36本の出演映画のタイトルと公開年が判明した。今度はその映画を Halliwell's Film Guide (Harper Collins) で調べ(36本中30本が掲載)、それぞれの監督や主演俳優の名前をメモ。そして、今度はその名前を『世界映画人名事典・監督 外国編』(キネマ旬報社・1975)と『世界映画人名事典・監督 男女優編』で探し、それらしい邦題をチェックした。その原題をさらに『ヨーロッパ映画作品全集』(同社・1972)で確認した結果、7本の作品が日本公開されていることがわかった。参考までにその七本とは、『描かれた人生』『愛の物語』『大空に散る恋』『善人は若死する』『殴り込み戦闘機隊』『泥棒株式会社』『ビスマルク号を撃沈せよ!』。ただし、この手法では、(日本で)有名な監督・俳擾の関わっていない映画は探せない。

そこで、最近出た『FILM INDEX 外国映画1 1945-1993』(翔ブラザース・1994)[*13]で再チェックしてみると、もう一本、『宇宙原水爆作戦 人工衛星X号』という作品が掘りだせた(うーん、いかにもマイナーそうな映画……)。この本は外国語の原題索引もついていて非常に便利だが、原則として、戦前に公開された作品は載っていない。この他原題索引付きの映画資料としては、1991年から出ている『ぴあCINEMA CLUB』がお手頃(ちなみに、ハッドの出演は4本載っていた)。戦前のアメリカ映画の資料としては、『日本公開アメリカ映画総目録1908-1941(上・下)』(映画史研究会発行/キネマ旬報社発売・1978-79)が松竹大谷図書館にある。

さて、英語で書かれたロレンスについての記事を読んでいると、『Rat Patrol』『Love Joy』というテレビシリーズの名前が出てきた。前者は『ラット・パトロール』のタイトルで日本でも放映されていたが、いつごろの語だろうか。これは、乾(いぬい)直明の『外国テレビフィルム盛衰史』(晶文社・1990)をめくって判明した。他にも『シネアルバム(79) 外国TV映画大全集』(芳賀書店・1980)、乾直明『外国テレビ映画読本』(朝日ソノラマ・92)といった本が出ているが、どの本にも原題索引がなく、調べものには不便。この次はぜひ原題索引付きの本を出してほしいと思う。

一方、『Love Joy』の方は英国製の作品であることがわかっていたので、The Times のインデックスで Television を引いてみる。すると、1992年からBBCで放映されていることが判明した。

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最後に


ロレンスについてのわたしの調べものは、まだまだ続行中である。あと何年続くかわからないが、ここで、自分に確認しておきたいことをいくつか書いておく。まず、

★辞典の書名と、所蔵している図書館を控えておくこと。特に、役に立った辞典は必ずデータを残しておく。時間をおいて調べにいったとき、棚の配置が変わっていて目当ての本が探せなかった、ということのないように。また、本から筆記したりコピーをとった後は、その本の書名も忘れず書き添えること。

★調べ方に慣れすぎない。経験を積むにつれて、どこでどの本を探せばいいのかカンが働くようになるが、それと同時に「この本を見ても無駄」という勝手な思いこみも増えていく。どうしても探せないときは、初心に返って、手間をかけて無駄なこともしてみよう。また、図書館員に相談すると、意外と簡単に糸口がつかめることがある。

★本に載っていることが、いつも正確だとは限らない[*14]。日本語よりも英語のものの方が信頼性が高い、ということもない。たくさんある書物のなかからどれを信用するかは自分の判断しだいだが、「どこかに、もっと新しくて正確な情報がある」という探究心を忘れないこと。そう、探究心のあるかぎり、道は開く。

(1994年記 やぎたに りょうこ T・E・ロレンス研究家)


■ 注釈 ■


[*1] 実は、東銀座で映画『アラビアのロレンス』を見たのがきっかけだった。
[*2] ■『国会図書館百科』(出版ニュース社・1988):国会図書館のシステムは独特で、慣れるのに時間がかかる。初めて出かける人はこの本で予習しておこう。また、この図書館には「対図書館協力サービス」があり、地方の人でも、近くの公立図書館を通じて本を取り寄せたり、郵便で資料複写を申し込むことができる。もちろんレファレンス・サービスも利用できる。
■『'93〜'94 TOKYO BOOK MAP』(書籍情報社・1993)東京で本を探すための書店・図書館ガイド。全て地図付き。圧巻は、214館におよぶ専門図書館の紹介。これほど多種多様な図書館があるとは、東京はやはりすごい。電話でのレファレンスに応じてくれる所もあるので、首都圏以外の人も必携の本。
[*3] まだワープロに手が届かなかった時代なので。
[*4] 1901年から70年までに亡くなった英国人を集めた D.N.B. のコンサイス版。ほどよい長さにプロフィールがまとまっていて、机のそばに常備したい一冊。
Contemporary Authors Cumulative Index (Gale Ressearh Inc.) :既刊142巻の Contemporary Authors は英語圏(特にアメリカ)の作家を調べるときの強い味方。アメリカン・センターと国会図書館にある。また、国会図書館の参考図書室にある Author Biographies Master Index (Gale Reserch Company), Biography and Genealogy Master Index 1994 (Gale Reaserch Inc.) も利用価値大。
[*5] 当然、一冊のノートに書いただけの翻訳である。
[*6] たとえば、軍隊時代のヒラの同僚などですね。
[*7] これらの新聞・雑誌の刊行年、発行部数などを知るには Willings Press Guide という本が便利。
[*8] スティーヴン・タバクニック&クリストファー・マセスン『アラビアのロレンスを探して』(平凡社・1991)。原書は1988年の発行。
[*9] 中国人の欧文表記は一種類ではないので要注意。たとえば、Chang Tso-lin(張作霖)が Zhang Zuo-lin になっている辞書もある。
[*10] わたしは口コミでこれらの団体の存在を知ったが、それ以外に情報を得る方法はあるだろうか。ためしに Directory of British Associations (CBD Research Ltd., 1992) という本を見てみたが、ロレンスと名のつく Society は載っていなかった(Thomas Hardy Society などは記載あり)。Who's Whos に載っていたロレンスの最後の近親者は1991年に亡くなってしまったので、いま問い合わせるとすれば、ロレンスの公認伝配作家 Jeremy Wilson しかいないだろう(もちろん出版社気付けで)。Wilson はロレンス協会の元会長なので、喜んで答えてくれるはずだ(本当にロレンス協会の住所を知りたい人は、『學鐙』1994年3月号を参照のこと)。
[*11] この他、ロレンスに言及のある本のリストを作成。これは現在も続行中。
[*12] この本の「著者」には「訳者」も含まれているので、たとえば、『翻訳の世界』で原稿を書いている××さんはどんな本を訳しているのだろうと思ったら、この本に当たってみよう。
[*13] ■『FILM INDEX 外国映画1 1945-1993』(翔ブラザース・1994):戦後日本で劇場公開された外国映画のインデックス。原題から邦題が引けるのがなんといっても便利。また、『キネマ旬報』で紹介された号がわかるようになっているのが特徴。
[*14] 20種類以上の百科事典、人名事典で「ロレンス」を引いてみたが、記述に食い違いが多い。なかには生年すら間違っているものがあった。

(以下、次の図書館などの住所や電話番号が掲載されていたが、省略する)

■国立国会図書館
■東京都立中央図館
■ブリティッシュ・カウンシル図書館
■アメリカン・センター
■松竹大谷図書館
■英国政府観光庁
■ワールド・マガジン・ギャラリー
■朝日新聞・読者広報室
※読売新聞や毎日新聞などの読者相談係でも記事の問い合わせができる

人名探索(1980年代)
記事と書評集め(1980年代)
アジアの人名と翻訳文献調査(1980年代)
日本の記事収集と人名調べ(1980年代)
映画を調べる(1980年代)
最後に(1980年代)
注釈(1980年代)

追加コメント(2001年)
追加コメント(2008年)
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