お山をする
すでに述べたように,最初は自分でも思いがけない形で稲荷神とのつながりができてしまったのだが,何といっても稲荷神に対して強く惹かれる体験のきっかけとなったのが,伏見稲荷山のお山巡りである。これを「お山をする」という。
本殿
伏見稲荷に参拝する醍醐味は,本殿を参拝するだけでは味わえない。たっぷりと時間をかけて稲荷山に無数にあるお塚とご神蹟を巡っていく。そこから奥行きのある諸体験が開けていく。私が伏見稲荷に詣でるときには,まず本殿で参拝を済ませた後,千本鳥居を抜けて奥の院へ出,そこからさらに山に向かって階段を上り詰めていく。
稲荷山腹の鳥居の列
三ツ辻を経由して四ツ辻へ出る。ここから時計回りに大杉社,眼力社へ向かい,一路長者社を目指す。長者社の裏には雷石という巨石に注連縄が巻かれたご神体がある。いわゆる霊石稲荷である。雷石は雷公を封じた場所であるとの伝説がある。稲荷大神は仁寿二年(852年)には祈雨の神として、貞観元年(859年)には止雨の神として、朝廷より奉幣されている。
霊石稲荷:剣石
稲荷祝詞,稲荷秘文,稲荷心経を繰り返し唱えながら急坂をどんどん登っていく。やがて急に視界が開けて稲荷山山頂の上社,一の峰に到着するのである。
一の峰
上社の向かいの土産物屋で稲荷神に捧げる供物を購入する。土産物屋の主人が火打ち石を打って差し出してくれる。これを祭壇に供え,和蝋燭に灯をともして再び稲荷祝詞,稲荷秘文,稲荷心経を唱えながら変性意識状態(瞑想)へ自己誘導していく。すると全身に気が駆けめぐりはじめ,自発動も発生することもある。すこぶる快適,すこぶる爽快。ときには合わせている手から炎が立ち上り,やがて全身が炎に包まれているような感覚に襲われることもあった。こみ上げる感情,ピーク体験をしたこともあった。すべてを委ね,そして自分のすべてが受容されているかのような深い心の平安を感じることもあった。ここへやって来て,いやな思いをしたことはいまだ一度もない。心身がリフレッシュされ,深い癒しを体験した。続いて中社(二の峰),間の社(荷田社)でも供物を整え,祈りを捧げ,下社(三の峰)に到着。最後の祈りを捧げる。こうして再び四つ辻に戻り,茶店で休憩後下山する。約3時間くらいのコースである。
二の峰
三の峰
お山をする人々の中には観光客に混じって,巡礼目的のグループも見受けられる。ご神跡の前で手を合わせ,祝詞とお経を上げている一群を見ればすぐわかる。中には信者を伴って一心不乱に祈りを捧げている稲荷巫覡もいる。呪文を唱えながらトランス状態に移行し,信者たちに神託を告げている。眼光の鋭さ,独特の威圧感を漂わせる60−70代の女性が多く,四国の拝み屋と同じ匂いを感じるため,これもすぐわかる。長年の修行によって到達した神仏意識との確かな交感能力を発揮する巫覡もいた。