第1章.超心理学とは
臨死体験には、体外離脱やESPなど、従来の心理学の枠組では十分に説明するこ
とのできない体験要素が含まれている可能性がある。
たとえば、オシスとハラルドソンは、ある患者が臨終の際に、その前日に遠隔地で
死亡していた姉が入院先まで「迎えに来ている」のがわかったという体験談を報告し
ている。この患者の場合、自分の姉が死亡していたという情報をもっていなかった。
それにもかかわらず、そのような姿が「見えた」ということは、そこに通常の感覚的
手がかりを媒介しない情報伝達が生じた可能性を考えることができる。
また、セイボムは臨死状態の患者で、体外離脱を体験した者を対象として、彼らが
「見聞」した自らの臨死状況と実際に施された蘇生措置や当時の状況とがどの程度一
致しているかを検討している。その結果、体外離脱の体験者は概して実際の臨死状況
を正しく知覚していることが見いだされた。すなわち、彼らの体験には、救命措置を
施されている患者の視野の外にあった事物や出来事が正確に「記憶」されていること
が多かったのである。このような資料も臨死状態という特異な状況下で、通常の感覚
的手がかりを超えた認知が生じている可能性を示唆していると言えよう。
臨死体験 に限らず、人間の精神活動には自らの肉体を超えて作用したと思われるような現象が
多々存在する。こうした現象を従来の心理学は錯視、幻覚、主観的一致の判断、オカ
ルト的な幻想、ある種の精神病理的症状として解釈し、直接に研究の対象とはしてこ
なかった。 これに対し、人間の精神の死後存続の可能性や精神と物質の相互作用の可能性につ
いて、直接これを研究の対象としてとらえようとする領域がある。超心理学
(parapsychology)がそれである。超心理学とは、人間を含む生物と環境との間に生じ
る超常的な相互作用( paranormal interaction
)を検討する学問である。 超心理学は大きく分けて超常的能力(
psi;Ψ )と死後存続(survival after death)
という二つの研究テーマをもっている。
超心理学の歴史は1882年、ロンドンに心霊科学協会(
Society for Psychical Research: SPR )が創立されたときにまで遡ることができる。研究の草創期には霊媒
を用いた死者との交信や交霊会で発生するとされるテーブル浮揚や物品引き寄せなど
の超常的物理現象、そしてポルターガイストや霊姿現象などの偶発的事例の検討が中
心であった。 しかし、霊媒が行う「霊視」や死者との交信、そして物理霊媒の引き起こすさまざ
まな超常的物理現象の検討を進めるうちに、それが実体をともなった死者の霊の作用
と考えるよりも、霊媒自身が持ち合わせている超常的能力によるものと見なす方が適
当と思われる事例が多く見いだされるようになった。
そのような視点から、やがて生きている人の透視(
clairvoyance )、テレパシー、 予知(precognition)などのESPに関する実証的な研究が行われるようになった。
特にテレパシーの存在を証明することは心霊研究の大命題である死後存続の可能性
をも高めることにつながる。というのも、生きている人同士に超常的なコミュニケー
ションが生じていることがわかれば、生者と死者との間に生じる交信や「虫の知ら
せ」もテレパシーによるものと考えられるし、ひいては肉体を離れた精神(霊魂)の
情報伝達の基本的な手段もテレパシーであると推定できるためである。
さて、その端緒を築いたのがアメリカのライン(
J.B.Rhine )を中心とするデュー ク大学の学派である。ラインらは、従来の心霊研究が採用していた霊媒研究や偶発的
なサイの事例研究に見られがちな報告の信憑性、現象の再現性などの問題点を克服す
るために、主に能力者ではない一般の人々を対象として、いわゆるESPカードを用
いた強制選択式の実験を導入した。実験に際しては記録の錯誤や被験者による詐術の
可能性を極力排除するような厳密な手続きを用いた。さらに、得られた資料の吟味に
あたっては推測統計学的な解析を行って、それが偶然によって得られたのではないこ
とを証明するための工夫を行った。 こうして、ラインらは死後存続の手がかりとなるテレパシーの存在証明に関する研
究を行ったのであるが、そのプロセスの中で透視や予知の存在を示す資料も得てい
る。