山名・山域:北アルプス

日   付:6月1日

人   数:単独

そ の 他:

片貝山荘→宗次朗谷出合(駐車場)→毛勝谷よりボーサマのコルを経て毛勝山山頂→東俣谷を2200m付近まで滑降→毛勝山山頂→ボーサマ谷を滑降して宗次朗谷出合(駐車場)

 晴れた日は立山から下山して立山インターへ向う平野部から東に大きな3つのピークが見える。それぞれが同じような大きさと高さを誇っており平野部から立ち上がるピークはド迫力で剱をも圧倒する。その北端のピークが毛勝山である。3つ合せて毛勝三山。白馬からも三山が際立って目立つのが分る。噂によると最近夏道が開かれたそうだが、今の時期に山頂に立つには急峻な谷を詰めるほか術はない。


 こんなに海に近いのに高さが2400m以上もある。よって谷は険しく残雪期でも落石や雪崩が頻繁に起こっているとか…毎年遭難者が後を絶たないこの山は奇しくも雪が多い故に山スキーの格好のゲレンデになっている。今回は初めてと言うこともあり、基本に忠実に本谷を詰める計画で魚津市が管理する片貝山荘に前泊することにした。

計画・技術・体力の全てを要求される難易度の高い山。

 5月31日の夜、富山で食材だけ購入して魚津市街から片貝地区に入る。途中、案内板などは一切ないのでナビ頼みである。暗い片貝川沿いを上流に向うと発電所を2箇所越えた所よりダートだ。途中で河原まで達する大きなデブリに唖然…もちろん林道上に雪は無いが…。片貝山荘周辺は切り立った河原沿いの林道で車の運転にも気を使う。


 山荘は驚くほど綺麗で個室も8部屋ほどあった。しかしこの日は平日なので1人だった…テレビとコタツの大きな部屋を独占して寛ぐ。明日は3時半起きだ。デブリが崩れだす前に稜線に出たい…。と思ったのだがなんだかんだ夜遅くまでテレビを見てしまった…。山が半端な山ではないだけにかつてこれほど緊張した前夜はなかった…。

非常に快適だった片貝山荘。下山後に撮影。

 3時半に目覚ましで起きた。起きた感覚からすると幾らも寝てない気がするな。軽く食べて念入りに準備をする。まだ外は真っ暗だ。部屋を片付けて登山口に向った。
 僧ヶ岳の登山口を分けて橋を渡るといよいよ阿部木谷である。河原沿いの道を上がっていくと大きな堰堤を渡り、宗次朗谷出合付近が広い駐車場になっていた。ここの標高が835m…車は4台。1人が準備を終えて歩きだしたので挨拶をする。


 暫くして僕も4時半に出発だ。緊張している…無事に戻ってこれるだろうか…。堰堤などを高巻く林道を暫く歩くと最終の13号堰堤に着いた。ここから先は雪が付いていたがスプーンカットにデブリの塊が多く、様子見も兼ねて担いだまま歩くことにする。谷は深い。登り出しの13号堰堤付近以外は雪渓は厚みもあるようで踏み抜く心配はなかったと思う。

この辺りが板菱。
早朝と言うこともあり怖いくらいの静けさだった。

 雪に慣れてきた頃シール登行を開始する。大明神沢出合に出るとスケールの大きさに驚く。遠めにはどちらが本谷か分らないくらいに大きな谷だ。どこもかしこもデブリが凄すぎる。今自分が歩いている雪がもともとの雪渓なのか古いデブリなのか判別できない。冷えているので少し急な所ではシールがずれ落ちる。


 大明神沢を右に見て暫く登ると毛勝谷上部に4人いる。空もだんだん明るくなってきた。谷間が深いので日の光が差すのはもう少し後になるだろう。1500m付近の三ノ俣でアイゼンを装着する。ナワタケ谷を右に見て左の谷が毛勝本谷だ。
 いよいよここからが核心である。見上げると首が痛くなるほどの急な斜面。行動食を摂り、水分も充分に補給した。標高1523mと表示…ここで6時半過ぎだった。

三ノ俣でアイゼン装着。ここから斜度が急になる。
落石には細心の注意がいる。

 斜度がきついので自分なりにジグを切って高度を上げる。4人のうち3人は地元富山の人。これで今年のデブリは綺麗な方だと言う…いつもはどんなデブリなんだ(笑)。
 毛勝谷は上へ行くほど急になる。谷の中間部で雪面に太陽の光が差してきた。固くアイゼンが効くうちに登りたいな。毛勝谷からボーサマ谷へ入ると稜線はもうすぐ。本当にキツイ登りだ。


 稜線からどんな景色が見えるのだろうか。それだけを励みに登るのだ。ピッケルは出さずにストックで登れるギリギリの斜度だ。雷鳥が唄を歌っていた♪息をハァハァ言わせて稜線に出た時、自分の目を疑った。これ見たさに頑張ったのだ。そこには息を呑む絶景が待ち受けていたのだった。

毛勝谷は上部ほど急だ。下を見るのも怖い。
雪面は固くアイゼンが良く効いた。

 稜線からド迫力で目に飛び込んできたのは言うまでもなく剱岳である。それも釜谷山や猫又山などの北方稜線から望めるのだから素晴らしい。このボーサマのコルからひとつピークを越えて毛勝山山頂はすぐだ。9時丁度だった。山頂からは後立山の長いスカイラインが美しい。朝、登山口で挨拶した人に写真を撮ってもらう(帰宅後に山スキーMLのK氏と判明)。


 山頂標識の横に石仏が…きっと地元の人にとって謂れのある山なのだろう。その向こうには魚津市街と日本海が見える。海沿いから急に立ち上がる山だけに高度感が異様だ。南峰の左にまだ白い白山も見えた。立山も雪が多い。さてこのまま毛勝谷を滑降するより北斜面の東又谷を少しだけ滑ることにする。

匐松を掻き分けるといきなりの絶景が…五竜・鹿島槍〜剱。
頑張った者だけに与えられたご褒美だ。

 シールを剥がして準備完了。陽射しが強烈だ。東又谷方面は最初はなだらかな斜面だが途中まで行くと下が見えない。飛び込みたいが雪が割れていると嫌なので慎重に深回りでターンするとやっぱり左よりに亀裂が…深刻なものではないが足を取られるのが嫌で右方面へ少しだけトラバース。
 しかしこの斜面…実に急だ。登り返すことを考えてかなり早めに終了した。ボトムまで行ったら山頂に登り返すのに一体何時間掛るのだろう。


 登り返しは暑さもあり地獄だった。直登は膝が付いてしまうほどの斜度でもう少し距離が長かったらピッケルを使っていただろう。朝挨拶をした人もこの東又を滑って登り返した。
 山頂に着くと僕を入れて5人が揃った。暫くして登山の人も上がってきた。みんなそれぞれが自分のペースで降りる。もちろん下山は荒れ放題の毛勝谷である。

毛勝山頂から北斜面にドロップした。
白馬三山と雪倉もくっきりと見える。

 山頂からボーサマのコルまではトラバースでいける。匐松を越えるとドロップポイントに付いた。ゆっくりと滑り出すが荒れ放題の斜面は非常に疲れる。谷自体はそんなに狭い印象はない…しかし、デブリで滑れる場所が限られているので実質谷の半分くらいが有効斜面だった。
 長い急斜面を終えて三ノ俣まで戻ると一安心だ。ここからは斜度も緩くて広いので何処でも滑れる。快適なゲレンデだ。


 大明神沢出合まで来るとこの陽気で崩れたデブリや土砂が谷を埋めていた。もし滑っている時にこれが落ちてきたとしたら…考えただけで恐ろしい。デブリの山を何箇所か越えて13号堰堤まで降りてきた。ここで板を担いで林道歩きだ。もう安心。
 15分くらい歩いて車へ戻ってきた。不安と緊張が大きかっただけにやり遂げた達成感がひしひしと込み上げてきたのは言うまでもない。雪融けの阿部木谷はまるで夏を思わせる陽気だった…。

毛勝谷を滑り中間部で振り返る。
まだまだ急斜面が続く。

 今までで一番緊張した山行だった。”最初から最後まで全く安全の保証されていない山”…そんな印象が強い。万全の体制で臨むのなら単独はヤバイ。渡渉もなく13号堰堤付近以外は雪渓の割れる心配もなかったのだが…それでも終始恐怖感が尽きなかった。本谷と同程度の広さの谷も幾つかある。


 下りは登りでは見られなかった幾つものデブリの山が重なっていたのだ。もし下山途中で崩れてきたら…多分お陀仏だろう。変な言い方かもしれないがこの毛勝山は運の要素も大きいと思う。
 しかし良い山だった…。何故かと言うと単純にまた登りたいと思えるからである。毛勝の山頂から見下ろせば滑ってみたくなる谷が駄目押しだった。
 特に毛勝谷は滑降には不向きだと思うので、次回は下山ルートとして是が非でも東又谷を選択したい。山頂から見た剱北方稜線と後立山連峰は第一級の展望でこれを見るだけでも登る価値がありそうだ。

魚津市街から毛勝山(左のピーク)を見上げる。
真っ白な毛勝谷と広い北斜面が確認できる。
今登り滑った山を下界から見上げると達成感もより大きい。
片貝山荘→宗次朗谷出合(駐車場)→毛勝谷よりボーサマのコルを経て毛勝山山頂→
東俣谷を2200m付近まで滑降→毛勝山山頂→ボーサマ谷を滑降して宗次朗谷出合(駐車場)

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