今月の映画秘評 『マルコヴィッチの穴』の巻

初出:Men's Club 2000年10月号


ウェイン町山 マルコヴィッチマルコヴィッチ?

ガース柳下 マルコヴィッチマルコヴィッチ。

ウェイン マルコヴィッチマルコヴィッチ(爆笑)!

ガース このへんで止めとかないと、原稿料もらえないかも(笑)。

ウェイン ちぇっ。今回1ページ丸ごとこれで行こうと思ったのに。

ガース それにしても最高でしたね、『マルコヴィッチの穴』。主人公のジョン・キューザックがオフィスの壁に穴を見つけて、そこに入ると15分間だけ俳優のジョン・マルコヴィッチの視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚を体感できるという話。でも、なんでマルコヴィッチ?

ウェイン 脚本を書いたチャーリー・カウフマンは他にもいろんな俳優を考えてみたんだけど、何度も繰り返して言ってみて笑えたのはマルコヴィッチだけだったんだって。「マルコ」で「ヴィッチ」。語感がどことなくワイセツ(笑)。

ガース おまけに日本では「穴」までついて(笑)。マルコヴィッチって俳優の中途半端さがいい。映画の中ではジョン・キューザックをはじめ誰一人としてマルコヴィッチが出た映画の題名を思い出せないの。「ほら、あんた知恵遅れやってた役者だろ、知恵遅れ!」って(笑)。

ウェイン 『廿日鼠と人間』だよ。それにしてもジョン・キューザックは冷たいよな。『コン・エアー』で共演したばかりなのに(笑)。

ガース 『コン・エアー』とかのハリウッド大作の悪役が多いですね、マルコヴィッチ。ゲイリー・オールドマンと交換できるみたいな(笑)。

ウェイン 「最初はオールドマンさんに頼んだけどスケジュールの都合で断られたんでマルコヴィッチさんお願いします」みたいな(笑)。

ガース でも、この映画はマルコヴィッチじゃないと。オールドマンじゃマヌケさが足りない。シュワちゃんだったら『ラスト・アクション・ヒーロー』になっちゃうし。

ウェイン でも『シュワルツェネッガーの穴』だったら入りたいというか、入れたい人多いと思うよ。淀川先生とか(笑)。

ガース キューザックはマルコヴィッチの穴を人に貸して商売始めるよね。15分間で2万円。マルコヴィッチだったら妥当な値段かも(笑)。

ウェイン ブラッド・ピットだったらこの10倍とれるよね(笑)。

ガース 『マルコヴィッチの穴』って監督のスパイク・ジョーンズがやたらと注目されてるけど、演出は超フツーですよね。映像的にも特別なことはやってない。

ウェイン そのシンプルさがMTV界では斬新だったんだよ。ファットボーイ・スリムのビデオなんてスパイク・ジョーンズ本人が道端でデタラメに踊ってるのをデジカムで撮りっぱなしにしただけだもん。

ガース 僕は監督よりも、チャーリー・カウフマンが書いた脚本がスゴイというか狂ってると思った。プロットが狂ってるのはもちろん、主人公のジョン・キューザックが道端でやってる人形劇もとんでもないし。愛やヒューマニズムの欠けらもないところも素晴らしい。登場人物全員が自分のことしか考えてないし。

ウェイン マトモなのは、キャメロン・ディアスを救う猿だけ(笑)。

ガース しかも、その場面で突然、猿の回想シーンになる(笑)。ホントにデタラメな脚本。チャーリー・カウフマンっていったい何者?

ウェイン さあ。TVのコメディのシナリオをちょっと書いてたということ以外不明。生まれて初めて書いた映画の脚本が『マルコヴィッチ〜』で、これを持って5年間、ハリウッドを回ったけど、誰も映画化したがる奴はいなかったそうな。

ガース そりゃそうだ。でも、これで人気爆発でしょう。次回作は?

ウェイン フロリダの州立自然保護区から希少種の蘭を盗んだ蘭コレクターについて書かれたノンフィクション『蘭泥棒』が原作だって。

ガース 他人の本の脚色なの?

ウェイン そう。映画のタイトルは『脚色』。

ガース ????

ウェイン 『蘭泥棒』の脚色を依頼されたチャーリー・カウフマン自身の物語だから。彼がハリウッドの定型に囚われない脚本を目指して思考錯誤しているうちにどんどん原作から離れて収拾がつかなくなる過程をそのまま書いたんだと。

ガース 『マルコヴィッチ〜』もオチを考えないで書いた感じだよね。「俳優の脳の中に入れたらどうする」という発想を自由にどんどんふくらませていったんでしょう。

ウェイン しかし、いろいろ想像を誘う映画だね。自分だったら何をする?とか。

ガース うーん、僕はどっちかと言えばトム・グリーンってコメディアンになりたい。ドリュー・バリモアとつきあってるから(笑)。

ウェイン トム・グリーンってゲテモノ芸人だぜ。柳下が「穴」に入ったとき、たまたまドリューと一緒にいればいいけど、ミミズや廿日鼠を食ってるときだったりして(笑)。オレは同じトムでもトム・クルーズがいい。二挺拳銃撃ちながらバイクでジャンプしたりして気持ちよさそうだし、やたらとエロいニコール・キッドマンがカミさんだから。

ガース 『マルコヴィッチの穴』ではキャメロン・ディアスがマルコヴィッチになったまま女とSEXする快楽のトリコになるけど、そのテもあるかも。ニコール・キッドマンみたいなエロい女になって女のSEXを体験してみるとか。

ウェイン そしたら、オレがトム・クルーズとしてキッドマンとヤってたら、実はキッドマンの中にはお前が入ってたりして……。

二人共 オエーッ


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Garth Yanashita / ガース柳下 / yanasita@gol.com