納涼津山三十人殺し特集

 津山三十人殺しの記事を書くために、津山の現場にまで行ってきました。記事自体は9/20発売の〈映画秘宝〉に掲載されますんで、それを読んでください。ここでは、原稿にならないどうでもいいこぼれ話だけ書きます。

 三十人殺しは昭和十三年五月二十一日に起きた大量殺人事件です。住人百人ほどの村で、ほぼ三分の一の人間がわずか一時間の内に殺されてしまった。大量殺人としてはもちろん日本記録。世界的にも、こないだオーストラリアであった事件までは記録だったはずです。当時から大きく報道され、たくさんの小説やノンフィクションのネタになりました。

 現場になったのは岡山県苫田郡の加茂町にある貝尾集落。深い山にのみこまれそうな小さな村です。昔は陸の孤島とも呼ばれていたようだけど、因美線が通ってからはそれほどのことはなくなったらしい。今なら津山から30分くらい電車に乗り、美作加茂という駅で降ります。

 この駅のあたりが町の中心地。中原といいます。中心地と言っても見事に何もないところで、コンビニもファミレスもない。喫茶店が一軒あるかないかというくらい。「いやあどうしようもないね中原」「中原、中身は何もないですからねえ」「まあこれもヒドイけど、中原よりゃましだよね」などと編集者と言いあうのが大流行。

 さて、五月二十一日の深夜、都井睦雄は頭に懐中電灯を二本、胸にナショナルランプ、腰に軍刀、手には改造ショットガンという格好で疾風のように駆け抜け、行重集落で三十三人を死傷させます。その後峠まで走ってそこで自殺するのだけど、その際青山集落を通り抜けて行きます。青山ですよ青山。「いやあ中原もヒドイけど、青山よりゃましだね」

 そういうわけで、真実は青山と中原のあいだにあるということなんです。

フィクション

『八つ墓村』横溝正史 角川文庫
言わずと知れた古典。これが津山事件をモチーフにしているというのは有名であるが、実のところは数ページ語られているだけである。津山事件は主人公の父親が起こした事件となっているためだ。場所も違っているし、津山事件のモチーフとして有名になったのはたぶん映画のせいである。
『丑三つの村』西村望 徳間文庫
この都井睦雄はハードボイルドだ。最初から最後までひたすら憎悪、怨念、憤怒。決して後悔などしない。怒りは燃えたぎり、村をまるごと焼きつくそうとする。殺害シーンと都井の格好についてのディテールはきわめて正確であり、行き届いた取材がうかがえる。
『龍臥亭事件』島田荘司 光文社文庫
貝尾集落(名前は変えられている)で津山事件を真似たかのような連続殺人が発生する。まさか都井睦雄の亡霊が甦ったのか……というミステリー。筆者は新本格というものには疎いので、いきなりこれを読んだときには正直なところ頭が痛くなった。なんていうか、隕石が落ちてきてドアの隙間から滑りこんで犠牲者を打ち倒して密室殺人、みたいな。たぶん、ここに書いてあるような“偶然”が起きるよりは隕石に当たる方がまだ確率は高かろう。ミステリーって、こんなんでいいんですか?
『夜啼きの森』岩井志麻子 角川書店
ほぼ事実に則したフィクション。ただし虐殺事件ではなく、そこにいたるまでの村の人々の心の動きに焦点が当てられる。村の誰もが恐怖をはらんだ予感をいだき、ついに鬼が森から降りてくる。都井の孤独はもっともよく描かれているのでは。
『負の暗示』(『神かくし』収録)山岸涼子 秋田文庫
解説、木村奈保子が書いてる! あなたのハートには何が残りましたか? しかし、解説ではこの作品については何も触れていないのだった。おまえほんまに映画評論家なんか?

ノンフィクション

『闇に駆ける猟銃』(『ミステリーの系譜』収録)松本清張 中公文庫
もっとも早いドキュメント。ここでは、都井の姉と両親も結核のせいで死んだとなっている。短いけれど、さすがにきれいにまとまってますね。
『津山三十人殺し』筑波昭 草思社
現時点でもっとも詳しいこの事件についてのドキュメント。どれか一冊ということになれば迷わずこれ。都井睦雄が書いていた小説『雄図海王丸』も抜粋であるが読める。『龍臥亭事件』のネタ元。